4チームで争われるキリンカップ。タイトルを懸けたカップ戦とはいえ、事実上の親善試合だ。別名テストマッチ。選手を試す場でもある。試合内容、得点経過にかかわらず、両監督は特に後半、交代のカードを切り合うことになる。試合はテスト色を強めていく。
両軍の力をフェアに推し量ろうとすれば、目を凝らすべきは前半になる。そこにホームの利、アウェーのハンデを加味しながら、大局的に見た時、このエクアドル戦は楽観より悲観が勝る試合となった。余興のようなPK戦に一喜一憂し、日本の勝利に浮かれる人を否定する気はないが、世界のスタンダードがそこにないことだけは確かである。
エクアドル戦にウイングバックで先発、後半22分までプレーした堂安律 photo by Torao Kishiku
森保一監督の続投で再出発を切った日本の3戦目。初戦のウルグアイは、北中米ワールドカップでグループリーグ落ち。ベネズエラは予選で敗退したチームだ。実績では、本大会で32強入りしたエクアドルが最上位になる。
エクアドルのワールドカップ大会前の下馬評はもう少し高く、ノルウェーに続くダークホース的な存在と見られていた。それはウィリアン・パチョ(パリ・サンジェルマン)、モイセス・カイセド(チェルシー)、ピエロ・インカピエ(アーセナル)、ペルビス・エストゥピニャン(ミラン)など、世界的に名の知れた選手がメンバーに含まれていたことと深い関係がある。
32強で戦った相手が開催国メキシコで、圧倒的なアウェー環境だったことも敗因のひとつだったが、それを機にエクアドルは監督をセバスティアン・ベカセッセから同じくアルゼンチン人のマルセロ・ガジャルドに代えた。言わずと知れたアルゼンチン代表の元有名選手である。
いったいどんなサッカーをするのか。特に興味深くピッチを注視しなくても、キックオフ直後からその特異性はピッチに鮮明に描かれることになった。
布陣は1トップにケニー・アロジョ(クルゼイロ)、その下にジョン・ジェボア(ベネチア)が構える4-2-3-1の触れ込みだったが、実際は大きく違っていた。左右の両ウイング、ニルソン・アングロ(左・サンダーランド)とジョン・メルカド(スパルタ・プラハ)のほうが外に大きく張りながら、中央以上に高く構える0トップ型である。
【行く手を阻まれた日本の選手たち】想起したのは今年3月にウェンブリーで戦ったイングランド戦だ。左右のウイング、アンソニー・ゴードン(左・ニューカッスル→バルセロナ)とモーガン・ロジャーズ(右・アストン・ヴィラ→チェルシー)と、真ん中で構えたコール・パーマー(チェルシー)、フィル・フォーデン(マンチェスター・シティ)の関係だ。
4-2-3-1というより、中央の2人が凹むように低い位置で構える4-4-2に、3-4-2-1の日本はすっかり飲み込まれることになった。試合は前半23分に挙げた三笘薫のゴールで日本が1-0で勝利したが、内容はイングランドの支配率が70%を超える一方的な展開だった。客観的に見て、喜べない試合だった。中村敬斗と堂安律の両ウイングバック(WB)は終始、専守防衛に迫られた。
ガジャルド監督がそれを参考にした可能性も大いにある。中村と堂安。両WBはイングランド戦と同じだった。エクアドルの大きく開いて構える両ウイングは、結果的に中村、堂安の目の前に、ほぼ常時立ちはだかることになった。
エクアドルは、両ウイングの後方から両サイドバック(SB)が下支えする、サイドアタッカー2枚態勢で構えるので、中村、堂安はそのサイドにおける数的不利の圧に屈し、またしても専守防衛を強いられることになった。イングランドならまだ許せるが、実力的に近いエクアドルが相手となると、それを甘んじて受け入れることはできなくなる。
エクアドルはマイボールに転じると、1トップ状態になるので、日本の3バックは、数を余すことになる。だが一方で、真ん中は3バックの中央で構える板倉滉と、相手の1トップ(アロジョ)の1対1が出来上がりやすい状況にある。
当然、そのしわ寄せは各所に及ぶ。日本選手の進路には必ずエクアドルの選手が立ちはだかり、まさに行く手を阻まれる状態になった。日本の構造的な問題が白日のもとにさらされた格好と言えた。エクアドルの選手が走り回ってプレスを掛けたわけではない。囲碁将棋を彷彿とさせる立ち位置の問題であるところがミソだった。日本は頭脳で負けたと言われても仕方がない、エクアドルの理屈に屈した状況に陥った。
前半18分、エクアドルの攻勢がいったん収まった段階で、右のタッチライン際で構える堂安にボールが渡るシーンがあった。堂安は、ストレスを溜めていたのだろう。そこでドリブルを開始した。だが、前は塞がれている。進んだ方向はピッチの内側だった。カットインと呼ぶには低すぎる位置で、ピッチのまさに中央付近だった。危ないと思ったのは筆者だけではなかったと思う。堂安は真ん中に誘導されると、あっさりボールを失った。
相手の罠に簡単に引っかかり、逆襲を誘った。試合の流れはこれを機に、再びエクアドル側に傾いていったのだが、堂安はキャプテンマークを巻くこともある森保監督から信頼を寄せられている日本の中心選手だ。森保サッカーのレベルがうかがい知れるようなワンシーンだった。
1トップで起用された谷村海那を除けば、スタメンはすべて北中米ワールドカップ本大会でプレーした選手ばかりである。その谷村がミスを繰り返した結果、エクアドルにペースを奪われたという話ではない。作戦負け。8年以上、試合数にするとこれが110試合目となる森保監督、そしてやたらとピッチサイドまで出たがる日本のコーチ陣にとって、恥じるべき試合となる。
メンバーを大量7枚ずつ切りあった後半は、終盤にかけて日本のサッカーは徐々に活気づくことになった。そしてPK戦にも勝った。前半の悪い印象は忘れがちだが、脳裏にしっかり焼きつけておかないと、学習効果を発揮することはできない。「頭」で負けるほど、格好悪いものはない。
杉山茂樹●文 text by Shigeki Sugiyama
【関連記事】
◆日本代表が見習うべきエクアドルの再スタート 敗れても目立った変化を恐れない姿勢
◆森保一監督は何のために続投したのか連勝しても拭えない采配への違和感
◆セルジオ越後「1試合でも早く大岩監督にバトンタッチを」森保監督の半年続投にあらためて異論
◆日本代表から消えたサイドバック 31人のメンバー構成に見る森保監督の「従来路線続行」
◆森保一監督が考える次のフェーズ「1番から11番まで、どういう選手が必要なのか明確にしたい」