【連載】サッカー日本代表・後藤啓介のROUTE42~GO TO 2030~
Vol.01中編
新天地フライブルクで早くも得点を重ねる後藤啓介photo by Kyodo News
4年後の2030年ワールドカップに向けた歩みを克明に記録する、サッカー日本代表FW後藤啓介の新連載がスタート。開幕から公式戦6勝1分けと好発進した新天地フライブルクでいきなり得点を重ね、存在感を発揮する後藤。早くもチームに溶け込み、監督から激賞された"ある行動"とは。
前編>>>後藤啓介「『最初の5試合』で結果を残さないと」 新天地での初ゴールの裏にあった"滑り出し"へのこだわり
【「そこは本当に良いポジションなのか?」】
フライブルクの練習が止まった。
移籍して早々、11対11のゲーム形式の練習でのことだった。後藤から見て相手側のチームの切り替えが甘く、パスミスを他人のせいにするようなアクションが一部の選手から出始めていた。
止めたのは、ユリアン・シュスター監督だった。
「練習を止め、ブチキレていました。結果が出ているのでチームの雰囲気は良いですが、調子に乗らせない空気があるというか。良い意味でしっかりマネジメントしてくれているので、チームが大きく崩れることはないでしょうね」
チームは絶好調だ。開幕から公式戦6勝1分けの無敗スタートを切り、ブンデスリーガでは第4節を終えて3勝1分け。バイエルン・ミュンヘンと勝ち点で並ぶ3位につけている。
「監督が浮かれさせてくれないというか。『俺らは勝っているから』みたいな空気を出す選手がいたら、練習中にしっかり伝えてきます」
前編の最後に記した「そこは本当に良いポジションなのか?」という問いも、シュスター監督が後藤に突きつけたものだ。
相手のゴールキックの場面だった。FWの後藤は、最前線でGKにプレスをかけにいく。GKが大きく蹴ったボールを味方が直接跳ね返そうとする時、FWの立ち位置はオフサイドポジションになりがちだ。
「シント(=トロイデン)の時も、GKまでプレスに行った後、ある程度のスピードで戻っていたんですけど、オフサイドポジションではないところまで戻れないこともありました。『仕方がない』って思っていたんですけど、ここでは、それが通用しないというか。『戻れるだろう!』って怒られるんです」
後藤は「ベースのところを求められているだけなので。当たり前だとも言えますけど......」と前置きして、こう続ける。
【なぜ、フライブルクは全員がサボらないのか?】
「選手全員がここまで徹底して体現できているクラブはなかなかないのかなと。よく言われる『ひとりサボると崩れていき、ふたりサボるとチームが壊れる』というのは、フライブルクに来てより感じています」
攻め込まれれば、FWもペナルティーアーク(ペナルティーエリア外の半円の部分)までスプリントで戻る。それがフライブルクでは当然のように求められる。
「前にスプリントして、その後にスプリントバックする。それを90分間続けるとなると、今までとは疲労の溜まり方が違いますね。シントの時はそこまで戻らなくてよかったんですけど、今は全員が戻っているので、自分もやらないと浮いてしまう。プレーするスペースが広くなったなとは感じます」
なぜ、ここまで徹底できるのか。
「そもそも、それができない選手をチームが受け入れない。できなければ試合に出られないですし、チームメイトからも距離を置かれるような雰囲気があるので。誰でもできるはずの切り替えができていない時は、監督もすごく感情的に"怒ってくれる"。シントの監督も切り替えを重視する監督でしたが、それよりもっと切り替えが早くなって、戻る位置も低くなった。全員が強度高くやれるクラブに来たなという感じです」
怒ってくれる――。後藤は、そう表現する。そこに、ほかのクラブもうらやむような規律を保てている理由がある。
バイエルン・ミュンヘン史上最高のサッカーを作り上げつつあると目されているヴァンサン・コンパニ監督は、9月頭、「これまでも話してきたことだが」と断ってから、フライブルクについてこう語った。
【"フライブルク哲学"を体現する振る舞い】
「彼らが何年もかけてやってきたことが私は好きだ。フライブルクについて分析すればするほど、理解すればするほど、筋が通っていると感じる。普通、サッカーの世界では、そのようなことを実現するのは難しい。そのための時間はなかなか与えられないのだから」
フライブルクでは、2011年12月から12年半にわたってクリスティアン・シュトライヒ監督がチームを率いた。2024年夏にその後を継いだのが、選手として同クラブで10年を過ごし、シュトライヒのもとで5年間キャプテンを務めたシュスターだ。彼らを束ねるSD(スポーツダイレクター)のクレメンス・ハルテンバッハは2013年から、その上にいるGM(正式な役職名はスポーツ部門取締役) のヨヘン・ザイアーも2014年から現職だ。
後藤も移籍するにあたって、そういう部分に惹かれた。
「アカデミーがしっかりしていて、育成が良い。監督やSDの交代も少ないというところに魅力を感じました」
そんなクラブらしいエピソードがある。前編で触れた、後藤にとってのデビュー戦となったマザーウェルとの試合後の記者会見でのこと。シュスター監督は初ゴールを決めた後藤について言及したのだが、その内容がドイツでは大きな話題になった。
「後藤は新しいクラブで初めてプレーし、ゴールも決めた。多くの選手はSNSを更新することに夢中になるところだろう。でも、彼は試合後のベンチを片付けていたんだ!この行動が多くのことを物語っている」
指揮官は、さらに言葉を重ねた。
「ゴールそのものを見せる以上に、試合後にどのような振る舞いをしていたかを見せることのほうが重要なこともある。後藤が見せたのは模範的な姿だ。彼にも伝えたが、彼の振る舞いを収めた写真を育成アカデミーに飾るべきだと私は考えている」
もちろん、後藤の振る舞いがたたえられたのは、これが初めてではない。今夏のワールドカップでも、試合中にピッチの仲間へ水を運ぶ姿が話題になったのは記憶に新しい。
しかし――。後藤の考えはこうだ。
「いつもやっていることなのに......という感じです」
では、なぜ「いつも」なのか。
後藤の答えは、美談とは少し違うところにあった――。
後編>>>後藤啓介が描く、2030年ワールドカップへの道筋「今は上田選手が圧倒的な存在ですけど...」
【プロフィール】
◆後藤啓介(ごとう・けいすけ)
2005年6月3日生まれ、静岡県浜松市出身。ドイツ1部リーグのSCフライブルク所属。ジュビロ磐田U-18から2種登録でトップデビューし、2023年のJ2開幕戦で17歳260日のクラブ最年少得点記録を樹立。2024年にベルギー1部リーグのアンデルレヒトへ移籍し、同1部リーグのシント=トロイデンでの飛躍を経て、今季からドイツ・ブンデスリーガに挑戦中。2026年の北中米ワールドカップでは最年少で日本代表メンバー入りを果たし、エースナンバーの背番号「9」を託された。これまで所属したすべてのクラブで背番号「42」を着用している。
ミムラユウスケ●取材・文text by Yusuke Mimura
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