【緊張感を力に変えられる強さ】17歳で挑んだシニア初の大舞台であるアジア大会で後藤大樹(洛南高校)は、為末大の日本記録に0秒04まで迫る47秒93というタイムで銀メダルを獲得。快挙とともに今後の陸上人生に大きな影響を与える貴重な経験となった。
決勝はいつもとは少し違うスタイルで走りながらも銀メダルを獲得した後藤大樹photo by Kyodo News
今年8月上旬のU20世界陸上競技選手権に出場以降、「本当は嫌い」という長い距離の練習をしっかり積み、そのあとはスピード練習に戻し、アジア大会に向けて仕上げてきた。
400mハードルはアジア大会で久しぶりに走ることと、シニアの大舞台ということも相まって緊張は高まっていたという。
「シニアとして日本代表で今シーズン一番気持ちを入れている大会なので、『失敗できない』という気持ちがありました。久しぶりに緊張して招集所では、ソワソワして座っていられませんでした」
それでも、その緊張を力に変えた。
「気持ちよく行ければ、48秒台は出るだろうと思っていたので予定どおりでした」
こう話すように予選3組中、唯一の48秒台となる48秒60を出して1位通過。そのタイムを見て「明日の決勝での47秒台が見えた」と話す姿は、大物ぶりを予感させた。そして、翌日の決勝でも実力を遺憾なく発揮した。
【予想外のレース展開も経験に】決勝の舞台には、8月末に自己記録を47秒56まで伸ばしているバセム・ヘメイダ(カタール)がいた。ともに決勝進出を果たした黒川和樹(住友電工)はレース展開をこう予想していた。
「前半型があまりいないので、ヘメイダが前に出てくると思う。僕とヘメイダが前半を引っ張って、後半は後藤くんが攻めてくる」
だが、その予想とは少し異なる展開になった。後藤が前半にいつもより飛ばして、黒川とヘメイダとほぼ同じタイミングで5台目を跳ぶと、10台目でリード。しかし、アジア選手権優勝の経験もあるヘメイダが底力を見せて優勝し、後藤は2位でゴールした。
後藤は、目標のひとつにしていた来年の世界陸上参加標準記録の48秒00を突破したものの、レース後に悔し涙を流した。
「自分の長所である後半に加速するレースで、前半は自分のリズムでリラックスしていったつもりでしたが、実際に前を走られると気持ちが出てしまい、どんどん前に行く高速レースになってしまいました。
『47秒台を出しても負けるのか』という気持ちが今はありますが、『やっぱり大人の世界は広いな』と思いました。自分のなかでは、もういっぱいいっぱいでしたが、ベストのレースはできたのかなと思います」
最後に苦笑しながら、これだけ衝撃的な結果を残しても涙した理由を語った。
「自己ベストは出せましたし、世界陸上の参加標準記録も突破して、とてもうれしい気持ちですが、自分の得意な後半で負けてしまった悔しい気持ちが思わず涙になったのかなと思います。本当はうれしいはずなのに、悔しい気持ちが自分のなかにあるんだと、負けず嫌いが出ました」
前半から速く入るレース運びには、日本代表の山崎一彦チームリーダーからのこんなアドバイスもあった。
「今回は、レース前に少し前半を速く入る話をしました。彼のコーチがいない場所で言ったのはまずかったかなと思いましたが、それでも少し意識してやってくれました。まだ高校生なので、これからが大事で戦略やレース戦術も変えていかなければいけないと思うので、期待したいと思います」
これまでは200m以降の走りを意識して、前半はリラックスして走るのが彼のスタイルだったが、今回、前半から飛ばすレースを経験したことで、前半から組み立てることも視野に入っただろう。ステップアップとして戦術の幅は広がっていくはずだ。
「47秒台に入って日本記録も具体的に見えてきたことは、このあとの冬期練習のモチベーションにもなります」
笑顔でこう話す後藤は、今大会をきっかけにさらに飛躍するだろう。今後の成長から目が離せない。
折山淑美●取材・文text by Toshimi Oriyama
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