少子高齢化が進むなか、高齢ドライバーによる免許返納への社会的関心が高まっている。しかし、手続きの複雑さや愛車への強い執着から、安易に「車を手放す」決断ができないケースも少なくない。
乗らずに放置された車両は維持費などの経済的リスクとなるが、中古車市場の相場を正しく把握して売却できれば、今後の生活を支える貴重な資産になり得る。
そこで今回は、車の一括査定サービス「MOTA車買取」を展開する株式会社MOTA代表取締役の佐藤大輔さんに、免許返納後も愛車を手放せない事情や、高齢の親に売却を切り出す際のポイントについて話を伺った。
思い出の詰まった“愛車”だからこそ、売却が難しい
免許返納するのが面倒くさい、具体的な手続きの手順が分からない。
高齢者にとって、こうした心理的ハードルに加え、長年愛用してきた車両に対する「強い思い入れ」も、売却に踏み切れない要因となっているという。
「退職金をはたいて買った高級車や思い入れのある愛車なら、『自分がずっと乗ってきた車なので、手放してしまうのは寂しい』と感じるのは自然なことです。名義変更や売却手続きが面倒だと思うかもしれませんが、車を所有し続ければ、当然ながら維持費がかかってしまいます」(佐藤さん)
愛着のある車を廃車にしたくない。
そんな気持ちを汲み取りつつ、無駄な出費を抑えるためにも、高齢となった親へ子どもから「車を売ってほしい」と切り出す際には、どのような点に留意するべきなのだろうか。
「車を手放したくない親に対しては、『車をぶつけた』『エンジンのかけ方が分からない』といった実際に起きたヒヤッとする出来事を、客観的な事実として伝えていくアプローチがあります。『こういうことが起きていたよね』と具体的な事象を示しながら話を切り出すことで、車の売却というテーマに向き合ってもらいやすくなります。
また、親と子どもが同居していない場合は、子どもが親の対応につきっきりになることができないので、売却完了までのスピード感を重視し、『土日の2日間でできるだけ完結させたい』というニーズも多いようです」
子どもによる「代理売却」の増加と「車のない生活」への不安
最近は、ネットを使い慣れた子ども世代が、親に代わってオンラインで手続きを行う「代理売却」も増えているという。
とはいえ、なかなかスムーズに売却まで進まないケースも少なくないことは、容易に想像がつくだろう。
特に地方では、車が生活と密接に結びついているので、「この車がなくなったら、その後どうやって生活するのか」という気持ちになりやすい。そこが免許返納後も車を売却できない大きな理由となっている。
佐藤さん自身も車の査定現場に行く機会があるそうだが、「いつかはクラウン」という言葉があるように、高齢者が最後に所有する車は比較的グレードの高い車種であることが多いという。
「『長年憧れ続けた車にようやく乗ることができた』という風に考えると、最後の車には『人生の一つの目標を達成した証』という意味合いもあると感じています。だからこそ愛着も強いですし、愛車を手放したくないという気持ちも分かるような気がします」
その一方で、実際に運転できなくなったときには、子どもの立場からすると「どうやって移動するのか」という代替手段を示してあげることが重要だと話す。
さらに、公共交通機関やタクシーといった代替の移動手段を「どうやって乗るのか」「どう使えばいいのか」まで具体的に教える必要がある。もし親の家がある程度近いのであれば、「これからは自分が移動をサポートする」と、子ども側から具体的な支援を提案することも有効だという。
このように、車を手放した後の日常生活を具体的にイメージできるよう配慮することが大事になってくるわけだ。
中古車市場の高騰で想像以上の売却額になることも
また、車を売った場合に「どれくらいの金額になるのか」を、かなり低く見積もっている人も少なくないとか。
「車種や状態によっては、見積もり以上の金額査定になることもあり得ます。そのため、売却額のイメージを親に伝えることも説得材料になります。実際に、当社が実施したアンケートでも、『想像していた以上に高い金額で売却できた』という声がありました。その売却代金を介護費用などに充てることで、生活の支えになったというケースも出ています。
そういう意味では、車を手放すことを『移動手段を失う』と捉えるのではなく、手放した後の生活をいかに支えるかまでを含めて提案していくことが重要なのではないでしょうか」
佐藤さんによると、中古車市場全体として買取価格は上昇傾向にあり、基本的にはほぼすべての車種で以前より高い値がつくようになっているそうだ。その背景には、円安による海外からの中古車需要の高まりがある。もちろん金額面のみで過去の相場と単純比較することはできないものの、「実際の売却額としては、かなり高くなっている」という。
さらに、ディーラーなどの下取りに出す場合と比べて、買い取り業者に売却したほうが高い価格になるケースも多いと佐藤さんは説明する。
「現在、中古車の平均価格は80万〜90万円程度と言われていますが、売却額に関しても30万〜60万円程度になるケースは珍しくありません。直近6か月で免許返納を理由として売却された事例のうち、最も高かったケースでは、BMWで約500万円という想定売却額になったこともありました。
EV(電気自動車)を除いて、国産車のプリウスやアクアといった人気車種は比較的価格がつきやすい状況を考えると、免許返納後に車を持ち続けているのは、かなりもったいないと言えるかもしれません」
損をしないためにも査定額の相場を把握しておく
だが、「もう古い車だから」と安易に手放してしまうと、大きな損をする可能性がある。例えば日産のスカイラインGT-Rのように、一見古く見えても車種や状態によっては1,000万円ほどの価値がつくケースも存在するという。
しかし、相場を知らずに買取業者へ持ち込むと、知識が十分でないと判断され、通常よりも低い査定額を提示されることもあり得るそうだ。
もちろん、すべての業者がそのような対応をするわけではないが、不利益を被らないためにも、事前に相場感を把握し、複数の業者で査定額を比較しておくことが大切になるだろう。
「売却をスムーズに進めるためには、『親の意識が変わるのを期待する』よりも、実際の査定額を提示することが有効だと思います。例えば、『今だったらこのくらいの金額で売れるみたいだよ』と具体的な買取価格を伝える。そうした事実と、車がなくなった後のサポート体制を合わせて提示することが、最終的な納得につながっていると感じます。
ただ、その前提として、親子関係そのものも大きく関係してきますし、何よりもまずは親の気持ちを理解することが大切です。お父さんやお母さんが長年乗ってきた車であれば、『この車でいろんな場所に連れて行ってもらったよね』といったように、思い出や愛着を尊重してあげることも必要だと思います」
親の思いを尊重しながら、車の売却を切り出すことが重要
最終的な判断は、親自身が納得したうえで決めることが大切だと佐藤さんは語る。
本人の意思を無視して、周囲が無理に免許返納や車の売却を進めてしまうと、親子関係にわだかまりが残る可能性があるからだ。
「どうしても『売りたくない』ということであれば、車を思い出として残すという選択肢もあっていいと思います。でもそうするなら、乗らない車に維持費を払い続けるのではなく『車検を通さない』『廃車手続きをしてナンバーを返す』など、必要な手続きをきちんと行うことが重要です。そうしないと、乗っていなくても税金などの維持費がかかり続けてしまいます」
免許返納後の車の手放し方は、単なる手続きではなく親子の信頼関係が問われる。
中古車市場の高騰や維持費の負担を踏まえると、車を売却して将来の介護・生活資金に充てる選択は極めて合理的だ。しかし何より重要なのは、親の意思を尊重する柔軟な対応なのではないだろうか。
<取材・文・写真(人物)/古田島大介>
【古田島大介】
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている
【関連記事】
・
ディーラー車検は本当に割高?「無知な客はカモになる」元担当者が明かす本音とメリット
・
ディーラーでタイヤを交換するのは損?元社員がこっそり教える「実はお得に交換できるケース」
・
ディーラー元営業マンが「自分の車には絶対につけないオプション」5選
・
「地方の若者が新車のアルファードに乗れる秘密」元ディーラー営業マンが暴露。“最低500万円”でも現実的な選択肢になるワケ
・
元ディーラー営業マンが「洗車機で洗うと傷がつく」の真相を暴露。クルマに優しい洗い方のコツとは