【長文注意!】100キロ超の鹿と対峙…東出昌大が臨場感たっぷりに描く秋の鹿狩りの全て

【長文注意!】100キロ超の鹿と対峙…東出昌大が臨場感たっぷりに描く秋の鹿狩りの全て

9月28日(月) 15:54

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山に暮らし、遊び、思索する――。時に含蓄あるセリフを吐いたかと思いきや、時に斜め上の言動でファンを驚かせる東出昌大。今、何かと目が離せないこの男は文章でも人を惹きつける。9月に彼の山暮らしの日々を綴った24扁のエッセイ『誰が為にか書く~東京から離れた山暮らし日記』が刊行され、人間の生きる力とは何かを考えさせられる。そんな東出昌大のエッセイのなかから、同書籍未収録のエピソードを紹介しよう。

東出昌大の山暮らしを語るうえで欠かせないのが、狩猟。鹿が繁殖期を迎える秋は猟師たちにとって、コール猟(笛を使った狩猟)と呼ばれる季節だ。東出昌大も新しく手に入れた銃を相棒に山へと入るがーー。

(以下、東出昌大の寄稿)

山に響き渡る繁殖期を迎えた鹿の叫び声

「奥山に紅葉踏みわけ鳴く鹿の声きく時ぞ秋は悲しき」古今和歌集より。

昔の歌は良い。ここまで古いと著作権云々なんて言われないし、綺麗な日本語の中に意味もギュッと凝縮されていて、なにより、読んだだけでちょっぴり賢くなった気になれる。

鹿が繁殖期に入るこの季節、山ではそこかしこからビョォォオオと縄張り争いの声が聞こえる。歌人はそれを「寂しげな秋の季語」と設定したが、猟師の我々は「フフンッ!とうとうこの季節がやって来たか!」と、雄鹿と呼応するように鼻息を荒くする。コール猟が出来るようになるからだ。

鹿はオスのみがツノを生やすが、これは毎年生え変わる。春先にポロッと落とした立派なツノのあとにはまた新しいツノが生えてくるのだが、夏のツノは発達途上のため袋状の皮に覆われており「今は喧嘩出来る状態じゃねぇから!」とオスジカは奥山に引っ込みがちになる。

しかし、天高く馬肥ゆる秋になるといよいよ冬に向けてたっぷりとした栄養を摂り始め、ツノに被っていた袋は無くなり「どっかに良い女はいねぇーかぁー!!オレがこの山のヌシだぁー!!」と繁殖期特有の声でビョオビョオ鳴く(ラッティングコール)ようになるのである。そこでズルい人間は考えた。

「この声に似た笛を使えば、イキリたったオスを寄せられるんじゃね」と。そして精巧な技術で作られた笛は今やAmazonで2000円ちょっとで買え、これを持って山に行って上手に吹き、挑発を受けイキリ立ったオスジカが寄って来たところを撃ち獲るのがコール猟である。

今朝は6時に家を出た。通常の忍び猟ならもうとっくに猟場にいる時間だが、コール猟の場合は朝の暗い森もすっかり見渡せるほど太陽が地表を照らさなければ、近づいて来てくれる鹿に気付けない為、少し遅くに家を出る。6時42分猟場着。木を背にしてしゃがみ込む。

笛を吹けば喧嘩する気満々の雄鹿がすっ飛んで来るため、万一にも背後からブスリとツノで刺されない為の備えだ。大きく息を吸い、雄鹿の雄大さと、しかしちょっとの情けなさを胸に抱きながら笛を吹く。

この情けなさは「鳴いてますけど、喧嘩したいってほどじゃないんですけどね」と屁理屈コネ太郎のイメージ。自信満々に吹くよりちょっと弱そうくらいの方が、その山のヌシも親分風を吹かせたくなるのではないかと考えて。5分待って来なかったら、また吹く。これを3回繰り返し、一箇所で20分粘っても来なければ次のポイントに移る。

今日も2回目の笛を吹こうかと時計を覗くと6時46分。まだ4分しか経っていない。と、後方の斜面、高いところから音がした。首だけをこっそり動かしそっちを見やると、60mほど先の木立の間に、ノッソリと歩く黒い影。

「雄鹿だ!」

心の中で興奮と緊張が同時に爆ぜる。

黒々とした冬毛になった雄鹿は、その巨体とは不釣り合いなほど慎重にゆっくりと歩みを進め、その度に木々の間から胴体が見え隠れする。

銃を構えてスコープを覗き、レティクルの中心に上半身が載った!

「あっ、安全装置外れてるよな!?」と、自身の銃を覗き込む。

なんてったって今握っているこの銃は、まだ一度も狩りに使ったことが無い銃なのだ。

自分に合った銃に出会うには

狩猟を始める前に鉄砲を選ぶ際、何を基準に選んで良いのか分からなかった。

幼少期の夏祭りの屋台で、クジを引いては「あそこに飾ってある、黒くて長いエアガンが欲しい」と思うくらいには元々銃器に興味があり、猟銃のカタログを開いた時も同じ感覚で見た目の好きなやつを欲しいと思った。

しかし、実際に狩猟で使うには、鳥撃ちか、四足獣か、熊狙いか、その猟に合った銃を選ばねばならない。そうは言っても最初っから実猟の感覚が備わっている訳ではないので、渋谷にある銃砲店のガンケースの前でうんうん唸っていると、店主が「これなら何でも狙えるよ」とベレッタというバイオハザードで聞いたことのある銃器メーカーの、大きな弾(12番)を装填出来る自動銃を薦めてくれた。

自動銃とはその名の通り、撃てば次弾が自動で装填されるため、連射が出来る。

「弾がデカいなら致命傷になり易いし、3頭の群れに3発撃てば、全部獲れるって事ですよね?」

期待に胸膨らませた私の語気は、合戦前の若武者のように猛っていただろう。

「まぁ……うん。まっ、そんな簡単じゃないけどね」と片頬で苦虫をかじりながら、もう片頬で笑みを浮かべていた店主の顔を覚えている。

だとて、「私なら獲れる!!」という根拠のない絶対的な自信があった。だって、「弾なんて真っ直ぐ飛ぶんだから、獣に向けて引き金引けば良いだけじゃん!」と。

最初の銃にスコープは載っけていなかった。

まず射撃場に行って、50m先に的紙を貼り「よっしゃ!バンバン撃ってくぞーっ!」と意気込んで、鉄砲を構えて愕然とした。50m先の的は黒い円が描かれ、その中心は握り拳ほどの白い円があったはずなのに、鉄砲の先についた目印(照星)がそれを覆い隠し、狙えるどころか狙うべき対象が見えなくなっていた。

しかし、折角だからと数十発は撃ち、大きな弾を撃ち出す銃の反動で肩には殴られたようなアザを作り、「でも猟師に成れたし!」と、獣のいると伝え聞く山に向かった。

撃てるどころの騒ぎじゃなかった。歩き方が下手だからか、200m先を走る鹿のピィ!という警戒音が谷にこだまするだけで、鉄砲を構えてみようという気さえ起きなかった。

そういや、銃砲店の親父が言っていたことを思い出した。

「鉄砲持って山に行けば、そのうち欲しい銃が分かるよ」と。

そして私は自動銃を手放し、次の銃の購入を考えた。弾がデカいと反動がキツく、跳ね上がった銃身を元の位置に振り戻した時には鹿の群れは逃げている。だから小さい弾(20番)で遠くまで狙え、一発必中の銃にしよう。候補は2種類あったが、しかし迷いはしなかった。片や木製、片や黒いプラスチック。幼少期からの好みの黒くて長いサベージという銃を選んだ。

しかしこの銃にも、看過できない問題があったのだ。

緊迫!100キロを超える雄鹿と対峙

前ページではコール猟の続きを書くつもりが、司馬遼太郎先生の「余談だが」ばりに鉄砲の話に終始してしまいました。今回もちょっと続きますが、最後に鹿撃ちます。お付き合い下さいませ。

初めて取得したベレッタは名銃だったが、私の猟のスタイル、獲りたい獲物、猟場の地形に合わず、何より私が下手くそだった為に2丁目のサベージという銃に期待することにした。

この銃は、ニュースなんかで耳にしたことがあるかも知れないが「ハーフライフル」と呼ばれる銃で、特殊な弾丸を撃ち出す。故に飛距離が長い。ベレッタの狙える射程が50mなら、これだと100mは狙える。しかし、弾が一発430円する。

「ヒェー!高い!」と最初は奇声を発するだけに止まったが、この数年、戦争、円安、アメリカの法改正などが影響し、1発700円になった。もうグゥの音も出ない。

そしてよく弾詰まりを起こす。2発目は期待出来ない。私はこの秋に北海道の山中を10日間徒歩で旅し、ヒグマがいれば撃つつもりなので1発しか撃てない鉄砲じゃお話にならない。そんなことを考えていた折、先輩猟師が名銃を手放すと聞きつけ、定価よりお安く購入させて頂くことが出来た。それが今抱えているMSSー20。漫画『アイアムアヒーロー』で主人公の英雄くんが、物語終盤に「今、日本で手に入る一番精度の良い銃」として紹介する銃だ。弾は1発250円也。お安く感じる。

やっとこさ、コール猟の話に戻る。

手の中の銃は、安全装置も解除した。60m先の斜面を横に動く鹿を見ながら自分の体勢をツツッと大木に沿わせ、木に鉄砲を委託するように銃を構える。射撃は「寒夜に霜が降る如く」という静謐な精神で引き金を引くことが重要とされているが、普段使い慣れているサベージの引き金の感覚と、MSSの感覚では指先にかかる重みが数十グラム違うかも知れない。そう自分に言い聞かせながら、殊更慎重に引き金を絞る。

ゴンッ!と弾が発射された。不思議なもんで、今まで使っていた強化プラスチックの銃は、ガカッ!と乾いた衝撃が骨を伝わるようだったのが、木製のこの銃の反動は骨太さと湿り気が混じったような衝撃だった。

右を向いて歩いていた鹿が一瞬飛び上がり、少し斜面を下ってから反転し左に走って行った。弾が入った反応だが、やはり雄鹿は身体が強い。追い付けなければ逃すだろうと思い、私も立ち上がって鹿の方向に走り出すと、背中の方で何かが動く気配。振り返ると、私が撃った鹿とは別の鹿が、私の鹿笛に寄せられて近くまで来ていた。

私も驚いたが、向こうも「ギャァッ!!」みたいなパニックな声を出していた。

とにかく、弾が入った子を追う。追いながら、銃のボルトと呼ばれる装置を前後させ次弾を装塡する。50m程走ったところで、私よりも40mほど下の谷に立ち尽くす鹿の姿を見つけた。撃たれた鹿は30m走り、痛みと内臓不全による倦怠感で立ち往生していたのだ。私も息は上がっているが、肺の中の息を無理矢理吐ききってから空気を大きく飲み込み、呼吸を止めた。

銃を構えて背中を撃つ。鹿は崩れた。100kgは超える個体だった。

立派な三段角の雄。血抜きのために首元を刺そうとナイフを突き立てるも、なかなか刃が入らない。雄同士で喧嘩をするこの時期は首の皮が分厚いが、それにしても堅かった。私に撃たれなければこの辺のヌシになったであろう。

内臓を抜き出し、一人で山から下すか、人を呼ぶかを考え、後者の方が早いと判断し、一度下山して後輩に連絡した。

肉は赤身の味が強く、最高の鹿カツになった。雑肉はひき肉にしてハンバーグや餃子に。背ロースはチーズとオリーブオイルでカルパッチョにして食べた。雄らしい鉄っぽい味がオイルと乳製品と混ざり合い強い旨味になる。

頭骨は庭に埋め、いずれ誰かが欲しがったならばあげようと思う。そして皮は、綺麗に剥いで業者に出し、鞣されて我が家で敷物になっている。雌鹿とは違うかたーい毛を撫でる度に、あの深みどりの森の中に雄壮に佇んでいた姿を思い出す。

この年はコール猟はこの一頭のみだった。

一頭で終わらせた無意識を自身も考えたことは無かったが、改めて言葉にするのなら「生まれたての子鹿が喧嘩出来るほどのオスジカに成長するには、相当の苦労と年月がかかる。そんな鹿を俺如きが、他人が作った道具でおびき寄せ、騙し討ちするのは、あまりに卑怯ではないか」と、疑念が生まれたからなのだと思う。

2026年の秋は北海道に行くため、鹿笛猟はやらない。2027年は自作の鹿笛で猟をしようと思う。私の住む山域には、全国的に珍しい、鹿笛の作り方が伝承されている。材料は立派な雄鹿の角と、鹿の胎児(腹子)の皮。この鹿笛は江戸時代後期に製法が伝えられたらしく、同じ形状のものがネイティブアメリカンの民具にもあり、「どうやらペリーが来航した際に通詞をしていたヤツが製法を学んで、故郷に帰って来て、この山域に伝えたらしい」と、製法を熟知する隣の猟友会の親方が仰っていた。

いつかまたどこかで、鹿笛猟の続きを書くこともあるかも知れません。秋の山でビョォォォォという寂しげな声が聞こえたら、その山にはヌシになるような雄鹿がいる証です。人間以外の生き物の息吹も楽しんでみて下さい。

【東出昌大】
1988年、埼玉県生まれ。’04年「第19回メンズノンノ専属モデルオーディション」でグランプリを獲得。’12年、映画『桐島、部活やめるってよ』で役者デビュー。現在は北関東の山間部で狩猟生活をしながら役者業をしている。著書に『誰が為にか書く~東京から離れた山暮らし日記~』がある

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