「時給1300円なのに応募は400人超え」コンカフェ嬢が“稼げない場所”に殺到するワケ。橘玲が読み解く“エロス資本”の変容

橘玲『エロス資本論』週刊SPA!で連載中!<イラスト>leionarts

「時給1300円なのに応募は400人超え」コンカフェ嬢が“稼げない場所”に殺到するワケ。橘玲が読み解く“エロス資本”の変容

9月28日(月) 15:53

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「性的魅力は、資本になる」ーー。'00年代初頭、イギリスの社会学者キャサリン・ハキムが提唱した「エロス資本」という概念がある。若い女性の性的魅力は経済的価値を持つ「資本」であり、それをマネタイズすることには経済合理性がある、という考え方だ。

キャバクラ嬢、コンカフェ嬢、アイドル、立ちんぼ……。本連載では、作家・橘玲がエロス資本の視点から、彼女たちの行動と動機を深く掘り下げていく。

(※本記事は週刊SPA!連載「エロス資本論」Vol.3を元に構成しました)

若い女性があえて低時給のコンカフェで働く合理的な理由

かつて、女性が「自らの若さと美貌」という年齢に制約された資本をマネタイズしようと考えたとき、その向かう先は明快だった。銀座のクラブであり、六本木のキャバクラであり、あるいはもっと直接的な風俗産業だ。そこには明確な「エロス資本」の相場があり、女性たちはその対価として、一般的なアルバイトとは比較にならない高額な報酬を手にしてきた。

しかし今、夜の繁華街ではまったく異なる力学で動く生態系が急速に拡大している。コンセプトカフェ、通称「コンカフェ」——特定の衣装を着たり、お店独自のテーマや世界観に沿った内装・サービスを提供する飲食店の総称だ。

かつてキャバクラよりも安く楽しめるということで一世を風靡した「ガールズバー」は、法規制の回避や多様化する客層への対応、集客力の向上などから、次々とコンカフェへと姿を変えてきた。

コンカフェの店舗数は、秋葉原の中心部だけでも2000年代初頭の約11店から、2002年には約100店、今では200店を超え、右肩上がりに増え続けている。

しかし、驚くべきはその給与水準だ。東京都の最低賃金が1226円(※1)というなか、有名コンカフェの多くが提示する時給は1300円。ほぼ最低時給と言ってもいい。体を張る風俗嬢や、高い時給と引き換えに厳しい出勤ノルマや売り上げランキングを課されるキャバクラ嬢と比べれば、経済的なリターンはあまりにも少ない。

しかし、この時給1300円の求人に、信じられないほどの数の女性たちが殺到している。新宿にある日本一のコンカフェと称される店では、新店舗のオープンにあたり、公式LINEでの応募が400人、面接に進んだのが100人、そして最終的な合格者はわずか25人だったという。合格率およそ6%の超高倍率の競争だ。

なぜ、現代の若い女性たちは、これほどまでに「稼げない場所」を目指すのか。若さや美貌という有限の資産を最大限収益化する「エロス資本の経済学」は、一見通用しないように思える。しかしそこには別のモチベーションがあり、現代特有の「新しい合理性」が浮かび上がってくる。

インスタ映えと「スタバ的ステータス」

コンカフェで働く動機をひも解くキーワードは、経済的な「実利」ではなく、SNS上の「記号」だ。

現代の若い女性たちにとって、アルバイト選びは「そこで働く自分がどう見えるか」というセルフブランディングに直結している。その一連の行為こそが彼女たちにとっての主目的なのだ。

時給の高い一般的な飲食店と時給の低いスターバックスだったら、あえてスタバを選ぶ人もいるだろう。「スタバで働いている自分」はインスタに載せられるステータスになる。コンカフェで起きているのはこれの究極系だ。

「衣装が可愛いこと」「内装がきれいであること」、そして「高名なインフルエンサーがプロデュースしている、あるいは働いていること」の3つが、コンカフェで働くための絶対条件になっている。

かつてのガールズバーは「店が客を集め、女の子は裏方として稼ぐ場所」で、自分の名前や顔をSNSで晒して「ガールズバーで働いています」と公言する女性は少なかった。しかしコンカフェは違う。女の子自身がメディアとなり、個人アカウントでファンを惹きつけるプラットフォームなのだ。

一流のキャバクラでミリオンを売り上げるような有名キャバ嬢は「東京で一発稼いで人生を逆転させる」という強烈な経済的動機、いわばハングリー精神を持って、夜の街の厳しい競争に身を投じる。一方で、人気コンカフェで働く女の子たちの多くは、首都圏の中上流家庭で育ち、生活のためにお金を稼ぐ必要がない。キャバクラのような殺伐としたノルマの殴り合いをする気はないし、泥くさい営業LINEをお客さんに送りたくもない。もっとカジュアルに、もっとポップに、「何者かになりたい」のだ。

コンカフェとはそんな彼女たちにとって、お金を稼ぐ場というよりも、「可愛い自分を発信する場所」として価値がある。ただの稼ぎ場所ではなく、むしろ誇れるステータスなのだ。

コンカフェは「令和の芸能事務所」か

コンカフェの隆盛は、現代の「地下アイドル業界」(※2)の崩壊とも地続きで、アイドル業界とコンカフェとの境界線は完全に消失している。

芸能界を目指す少女たちが「地下アイドル」から始めるのはよくあることだ。しかし現在、そのピラミッドの底辺は〝地底アイドル〟と揶揄されるほど過酷な状況にある。月に20本ものライブをこなしながら、チェキを売らなければいけない。ライブのない日はダンスや歌のレッスンを受け、厳しいルールに縛られている。それほど心身を削っても、完全歩合制の給与システムのなかで、売れない彼女たちの月給はわずか数万円程度という。

こうした「アイドルをやっても経済的に報われない」女の子たちが今、次々とコンカフェへと流れ込んでいる。実際、新宿の人気コンカフェに籍を置くキャストには、元アイドルの肩書を持つ女の子も多い。

興味深いのは、コンカフェがアイドルになれなかった女性たちの受け皿として機能しているだけではなく、アイドルを養成する芸能事務所のようになっていることだ。

アイドルらしい振る舞いをするコンカフェ嬢が人気を集めるようになると、女の子たちも、規則の厳しい芸能事務所に入るより、むしろコンカフェで働きながらSNSを伸ばしたほうが、ずっと自由にアイドルらしいことができると気づき始めた。コンカフェは、既存の芸能システムの代替品となりつつあるのだ。

もちろん、コンカフェで働きながらアイドルを目指す女の子も珍しくない。コンカフェは、地下アイドル市場の周辺にある〝予備校〟のような存在でもある。

仕事はお金を稼ぐためのものであるが、現代は仕事そのものが自己表現のひとつになっている。ユーチューバーもインフルエンサーもそうだ。コンカフェ嬢もまた、その延長線上にいる。

この価値観の変化は、エロス資本の「金融資産」から「記号資産」への移行とでも言えるかもしれない。

※1 東京都の最低賃金は1時間あたり1226円で全国で最も高い。10月1日からは1280円に引き上げられる予定で、全国平均も1177円(前年比+56円)となる見込み

※2 テレビや雑誌などの大手メディアへの出演が多く、全国的な知名度が高いアイドル(地上アイドル)に対して、大手メディアへの露出がほとんどなく、小規模なライブハウスやイベントスペースを中心に活動しているのが地下アイドルと呼ばれる

【橘玲】
作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。編集者を経て、’02年に国際金融小説『マネーロンダリング』で作家デビュー。同年刊行の『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』がベストセラーとなり、以後、金融、投資、社会制度、人生設計などをテーマに幅広く執筆活動

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