男でも、思わず魅了される――。成宮寛貴には、そんな“魔性”がある。彼ほどの役者が芸能界を離れ、長い空白期間を経て再び表舞台へ。そして復帰後初、実に10年ぶりとなる映画出演を果たした。40代を迎え、その色気と存在感は円熟味を増しながら、どこか以前より軽やかにも見える。人生が思い通りにならない時、何を捨て、何を守るのか。再び歩き始めた男の素顔に迫った。
色褪せない“魅惑の男”
8年の空白を経て、成宮寛貴は再び俳優として走り始めている。撮影用の椅子に腰を下ろすと、かつてと変わらぬいたずらっぽい笑顔。その視線の奥には歳月を重ねたからこその落ち着きと深みものぞく。10年ぶりの映画出演となるノンストップサスペンス(※1)『藁にもすがる獣たち』では、1億円を巡る騒動に翻弄される“不良警官”を熱演し、(※2)青木マッチョとの激しいアクションにも挑戦。そんな彼にSPA!がぶつけたインタビューテーマは、「腐らず、前を向くためには」。人生が思い通りにならない時、何を諦め、何を守り、どう立て直すのか。8年の空白を越えた成宮寛貴に、その流儀を聞いた。
――最新作では、不良警官の江波戸良介を演じました。どんな印象を持ちましたか?
成宮:
役の説明だけ聞くと、もっと悪いやつを想像できちゃうけど、女に弱くて借金しちゃうというか、完璧に悪いことをしきれる人じゃない。人間らしさがあって、僕はどこか可愛いキャラクターだなって思っています(笑)。この作品には、大金を巡り窮地に陥った “獣”のような登場人物がたくさん出てくるんですけど、良介はその中でも、人生の分かれ道を間違えてしまった時に、誰でも同じようになってしまう可能性があるキャラクターだと思うんです。一度踏み外してしまうと、自分の力では底からもう抜け出せない。そんなところに「これで救われるかも」と思わせるような、1億円というとんでもないお金が絡んでくる。それがこの作品の面白さだと思います。
――人生で道を踏み外したり、どん底まで落ちてしまったりした時、どうすればそこから抜け出せると思いますか?
成宮:
転落する前の人生ばかり振り返っていても、幸せになれないと思っていて。「あの頃は……」みたいなことを思わないで、今いる地点を自分の新しい居場所にする。日本で暮らしていると、いろんなものがあることが当たり前になってしまいがちだけれど、なくなったなら、ないなりの幸せを見つければいいと思うんです。環境が変わったなら、その環境に自分を慣らしていけるかが、結構大事だと思います。
――では、どんな状況に置かれても、自分の中で変えたくないものはありますか?
成宮:
思いやりとか愛情は、どんな状況にいても失いたくないですね。「自分がされて嫌なことは、人にしない」というのが僕の基本です。もちろん、それは自分ができる範囲でいいと思うんです。それぞれの人に得意不得意があって、経済的な違いもある。だから、自分のベストを示すことができていれば、自分のことを嫌いにならないと思うんですよ。僕は、自分なりに筋を通せていないと、自分のことを嫌いになってしまうタイプなので。結局、一番大切なのは、自分を嫌いにならないことだと思うんです。
自分の心は、自分でしか直せない
――でも、「自分を嫌いにならない」って、意外と難しくないですか?
成宮:
悪魔みたいな自分と天使みたいな自分の両方がいるし、すごくだらしない自分もいる。いろいろな自分がいて当然です。そういう部分も含めて、自分で自分を許してあげるんです。それでも自分を嫌いにならないようにする。ただ、自分を許すことと、自分の信念を曲げることは別。そこだけは追い続けないと。腐り始めてしまうと、結構早いので。
――気持ちが落ちてしまった時は、どうやって自分を立て直しますか?
成宮:
周りの人に救われたり、気づかせてもらったりすることはあります。ただ、自分の心が思い通りにいかない時、最終的には自分でしか直せないと思っていますね。たまに家でぼ~っとして、「今日“一点見”してるわ~」みたいな時もあるんですけど(笑)。それは全然いい。ただ、人生ごと一点見しちゃうのはまずいなと思います。
――“人生の一点見”を避けるために、意識していることは?
成宮:
モチベーションを失わないことかな。長く続けていくと、それが当たり前になってしまって、ある種モチベーションを失ってしまう。それって楽しめないなと思うので。今、自分は俳優として、もう一度スタートして、“第2章”が始まったような感覚でいます。全てのことが新鮮だったり、久しぶりに会うスタッフや監督に一喜一憂したりして。今は、俳優業への向き合い方……、例えば気になるメソッドをちゃんと試してみるとか、やってみたいなと思っているところです。
人生のポイントで、運命的な人が現れる
――これまでに人との“縁”に救われてきたというお話もされています。今年の舞台復帰作の演出家である(※3)宮本亞門さんや、本作の城定秀夫監督もそういった存在でしょうか。
成宮:
そうですね。本当に恵まれていると思います。僕が「何か変わりたい」と思う人生の節目には、なぜか次の扉を開いてくれる人が現れるんです。ひょっとしたらそうした人を動物的に選ぶ力があるのかもしれません。普段は結構のほほんとしているんですけどね(笑)。そういう時だけ全エネルギーが集中しているのかも。
――現在、再び俳優としての扉を開けられたわけですが、そこに至るまでに、どういった心境の変化があったのでしょうか。
成宮:
自分自身が「また表に出よう」と思えるまで、8年かかりました。そもそも昔の僕にとって、俳優はまず(※4)“生きるための仕事”だったんです。親が早くに他界して、弟の面倒も見なければいけなかった。10代半ばで将来を決める仕事を探すこと自体が難しかったけれど、それでも「ずっと楽しめて、どんどん成長できる仕事じゃないと嫌だ」という条件は、どうしても譲れませんでした。そこで、たまたま出合ったのが俳優だった。有名になりたいというより、生きていくための具体的な手段として始めたんです。
――10代の頃は「人生の逆転が欲しかった」と語られていました。では今は、俳優という仕事に何を求めていますか。
成宮:
自分はやっぱり“表現すること”が好きなんだなって、改めて気づいたんです。台本を開いた時に自分がどんなお芝居ができるんだろうと、すごく興味があって、今はやっています。いろいろ思い通りにいかないこともたくさんあって、ブランクを感じることもすごくあります。今回の撮影中も、自分がここは足りていないなとか。でも、まだ到達していない場所を感じると、今度は猛烈にエネルギーが湧いてくるんです。今作の城定監督は、僕の(※5)復帰作のドラマの監督でもあって、そうした思いも見てくださっています。今回映画でまたご一緒することができて、才能のある監督に出会えたことが、本当にありがたいと感じています。
全然まだまだ届いていない
――復帰後は挑戦的な役が続いています。難しい役を選ばれている意図はあるのでしょうか?
成宮:
芸能界に復帰するにあたって、自分がアーティストとしてどう生きていくかを皆さんに見てもらえたらと思って、今の自分にすぐできる作品を選んじゃいけない、という使命感もありました。(※6)12年ぶりに舞台復帰をした時は、セリフ量も性別も超えた、舞台でしかできない世界に「自分は勝つんだ!」という気持ちで臨みました。今回は、40歳を過ぎた俳優が、(※7)やんちゃで不良な役をやる。なかなかないことだなと。いろんな角度から遊べる役だとも思いました。主演だと難しいけれど、とにかく毎日が楽しかったです。
――40代になった今、俳優として年齢との向き合い方に変化はありますか?
成宮:
あります、あります。僕は年齢があまり関係ないタイプかもとは思いつつ、10代20代のコたちと同じ役はできません。ビジュアルも含めて、今、自分にどんな役が合うのかなとか考えます。数字自体には、そこまで意識はないんです。30代半ばなのか40代前半なのかって、そこまで変わらない気がしますし。ただ今の自分のこの感じで何ができるんだろうか、ということは考えています。
――初期の頃から、成宮さんはたびたび「かっこいいオヤジになりたい」と発言されていました。実際に大人世代になって、なれてきている実感は?
成宮:
まったく追いついていないです。渋いな、かっこいいなという先輩がたくさんいるので、自分は全然達していないと感じます。
――かっこいいオヤジ、大人で具体的にイメージされる先輩がいらっしゃるんですね。
成宮:
いっぱいいますよ、いっぱい。もうお亡くなりになってしまった先輩も含めてね。芸能界を離れている間に、本当にたくさんの先輩俳優の方々が亡くなってしまいました。僕は、そうした素晴らしい俳優さんたちと同じ板の上でお芝居させていただいているほうだと思っています。俳優ってセリフを吐いてなんぼなんですけど、セリフを言わなくても、なにか語っているような感じってありますよね。それって男の究極の憧れです。いるだけで、というところに到達できるような、俳優という仕事をするからには、そこを目指したいなと思っています。今は全然まだまだ(笑)。だからこそ、この40代という年をどう生きるか、何に気づくかを大切にしていきたいですね。そこに行くチケットを、もしかしたらもらえるかもしれないですから。
【Hiroki Narimiya】
1982年、東京都生まれ。’00年にデビュー。ドラマ『オレンジデイズ』、『相棒』シリーズ、映画『逆転裁判』などに出演。’16年に活動を休止。’25年、ドラマ『死ぬほど愛して』で8年ぶりに俳優復帰。『藁にもすがる獣たち』が復帰後初の映画出演となる
(※1)『藁にもすがる獣たち』
大学生の主人公が拾った1億円入りのボストンバッグを巡り、成宮演じる不良警官や悪女ら“獣たち”の思惑が交錯するサスペンス。9月25日より全国公開中
(※2)青木マッチョ
“筋肉芸人”としてブレイクし、「2025年ブレイク芸人ランキング」で1位に輝く。近年は俳優としても活動の幅を広げる
(※3)宮本亞門
演出家。成宮は宮本演出の舞台『滅びかけた人類、その愛の本質とは…』でデビュー。今年頭に復帰を果たした主演舞台『サド侯爵夫人』でも宮本と組んだ
(※4)生きるため
母子家庭で育ち14歳の時には母親が他界。中学卒業後は高校に進学せず、引っ越しのアルバイトなどをして6歳下の弟を大学まで卒業させた
(※5)復帰作のドラマ
’25年3月、配信ドラマ『死ぬほど愛して』に主演し、俳優活動を再開。同作はABEMAオリジナルドラマ史上最高の総視聴数1500万回を記録
(※6)12年ぶりに舞台復帰
全3幕からなる三島由紀夫の戯曲『サド侯爵夫人』のこと。男性キャスト6人が女性役を演じる挑戦的な作品のタイトルロールを務めた
(※7)やんちゃで不良な役
撮影時、実は腰を痛めていた成宮。コルセットをして治療しながら大立ち回りのアクションにも挑み、「これ、もうジャッキー・チェンじゃん」と思いながらワンカットで撮ったという
取材・文/望月ふみ撮影/唐木貴央ヘアメイク/INOMATA(&’s management)スタイリング/杉長知美衣装協力/VERYTAGE(Sakas PR)、MARIHA、©曽根圭介/講談社©2026「藁にもすがる獣たち」製作委員会撮影協力/バックグラウンズファクトリー
【望月ふみ】
ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画周辺のインタビュー取材を軸に、テレビドラマや芝居など、エンタメ系の記事を雑誌やWEBに執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異。X(旧Twitter):@mochi_fumi
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