「3年前の検査結果が、突然“重病のシグナル”に」病院が患者を“先回り”して連絡する時代がやってくる

Talosで常時モニタリングすることで医者のチェック時間が短縮される写真/Adobe Stock

「3年前の検査結果が、突然“重病のシグナル”に」病院が患者を“先回り”して連絡する時代がやってくる

9月26日(土) 8:53

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こんにちは、福原たまねぎと申します。普段は米国シアトルのテック企業で働いていますが、個人ではAIや働き方に関する発信をして、本を書いたりしています。
この連載では、僕がアメリカで触れた「AIが世の中をどう変えるのか」という未来予測をお伝えしていきます。

患者が体を壊す前に、病院が“先回り”して連絡するようになる

’30年代には、こんな朝の風景が見られるかもしれません。通勤中、スマホに突然、病院から通知が届く。メッセージはこんな内容です。

「あなたが3年前に受けた検査について、新しい結果がわかりました。近いうちにもう一度受診してください」

本人は具合が悪いわけでも、新しい検査を受けたわけでもありません。変わったのは、自分の体ではなく、世界の医学の知識のほうです。

そんな未来を想像させる不思議な研究結果が、’26年6月、医学誌『Nature Medicine』に掲載されました。これまで原因がわからなかった人の遺伝子データを、最新の医学知識によって、自動で調べ直す仕組みです。

米国とオーストラリアの研究チームが開発した「Talos」は、医学知識が更新されるたび、保存済みの遺伝子データを読み直します。対象は、検査を受けても診断がつかなかった4735人。その結果、238人に計241件の新しい診断がつきました。実に5.1%です。

ここで興味深いのは、患者がもう一度検査を受けたわけではないことです。以前に採った遺伝子データを、今の医学でもう一度読んだだけ。それなのに答えが変わりました。患者の体ではなく、医学の側が変わったのです。「この遺伝子とこの病気は関係する」と新しくわかれば、数年前には意味不明だったデータに、あとから意味が生まれます。

Talosの仕組みでは、過去のデータを月に一度、自動で見直しを行います。新しい医学知識が公的データベースに加わってから診断につながるまで平均32日。最短では1日でした。

Talos自体はChatGPTのような生成AIではありませんが、研究チームは将来的にAIを組み合わせる土台になりうるとしています。

これまで僕たちは、病院による検査結果を“固定された内容”として受け取ってきました。健康診断で「異常なし」と書かれていれば、その用紙はそこで完成です。数年前の検査結果を病院が読み直し、「当時はわかりませんでしたが、今なら意味がわかります」と連絡してくることは、普通ありません。

でも検査結果は、自分の体についての「最終回答」ではありません。「その時点の医学にわかる範囲での答え」です。体は同じでも、医学が進めば解釈は変わる。今日の「原因不明」は、3年後も原因不明とは限りません。

意味がなかったデータが、突然、重病のシグナルに?

冒頭でも触れたように、’30年代には、医療機関に一度データを預けたら、医学が進歩するたびにコンピュータが昔の検査を読み直すような時代が到来しそうです。

検査を受けた時には原因不明だった症状に病名がつき、3年前には意味がなかったデータが、ある日突然、「重病のシグナル」になる。

そうなれば病院との付き合い方も変わるでしょう。これまで病院とは、体調を崩した僕たちが出向く場所でした。熱が出る。痛みが続く。健康診断で引っかかる。何かが起きて初めて医者を訪ねます。

未来には、その順番が逆になるかもしれません。僕たちが病院へ行く前に、病院が僕たちを見つけるのです。しかも材料は、今日の体ではありません。何年も前に渡した血液や遺伝子のデータです。医学が一歩進むたび、過去の自分がもう一度診察室に呼び戻される。未来の医学が、時間をさかのぼって僕たちを診断するのです。

もちろん今回の研究は、希少疾患の遺伝子診断が対象です。普通の健康診断が毎月書き換わると示したわけではありません。それでも、この仕組みが書き換える「当たり前」は大きい。

未来の診断結果は、病院へ取りに行く答えではない。医学が進歩するたび、未来のほうから届く答えになるのです。

<文/福原たまねぎ写真/Adobe Stock>

【福原たまねぎ】
シアトル在住。外資系IT米国本社のシニアPM。ワシントン大学MBAメンター(キャリア・アドバイザー)。大学卒業後にベンチャー企業を経て2016年に外資系IT企業の日本支社に入社。2022年にアメリカ本社に転籍し現職。noteでは仕事術やキャリア論など記事を多数発表。初著書『世界の一流が休むためにやっていること』(朝日新聞出版)が発売中。X:@fukutamanegi

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