2026年9月27日、TOYOTA ARENA TOKYOで行なわれる「Prime Video Boxing 16」。井上拓真vs那須川天心のWBC世界バンタム級タイトルマッチだけでなく、西田凌佑の2階級制覇を懸けた世界戦、坪井智也の世界初挑戦と注目カードが並ぶ。
さらに日本ボクシング界に目を向ければ、アマチュア49戦無敗でプロ入りした18歳・藤木勇我ら次世代も台頭。一方、ジェシー・"バム"・ロドリゲスと井上尚弥の対戦も一部で取り沙汰される。
注目カードから期待の若手まで、ボクシング界の今後の展望を、元WBC世界バンタム級王者・山中慎介に聞いた。
次戦の相手が注目される井上尚弥photo by 東京スポーツ/アフロ
(文中敬称略)
【西田凌佑が2階級制覇へ】
――西田凌佑選手は、スーパーバンタム級に上げて2戦目で世界戦を迎えます。階級を上げてからの西田選手をどう見ていますか?
山中前戦(2月のルイス・メルカド戦)は、内容がすごくよかったですね。バンタム級の時より、身体も大きくなってコンディションもよさそうでした。バンタム級は減量幅が大きかったでしょうからね。
――アマチュア時代は、ライト級でも戦っていましたからね。
山中バンタムよりスーパーバンタム級のほうがよりパフォーマンスがよくなると思います。身体の大きさから考えたら、さらに上の階級でも戦える選手だと思いますよ。
――以前、山中さんは西田選手について「相手が強ければ強いほど、そこに合わせて強くなるタイプ」と話していました。サム・グッドマンとの相性はいかがですか?
山中この試合は、「玄人好み」になると思います。派手な打ち合いというより、技術の攻防になるんじゃないですかね。ただ、グッドマンも敵地ということで、いつも以上に攻撃的にくるでしょうし、西田も以前より攻める姿勢があります。レベルの高い試合になると思いますね。
――そして同じ興行では、坪井智也選手もリカルド・マラジカを相手にWBC世界スーパーフライ級王座に初挑戦します。
山中坪井はアマチュア時代に世界一になった選手ですし、技術の高さは間違いないですよね。今回はプロで初めての世界戦ですから、強い相手との攻防のなかで、坪井の技術のすごさがより見えてくると思います。そこは楽しみですよね。
――現在はスーパーフライ級ですが、将来的には上の階級でも十分戦える選手ですか?
山中全然いけるという感覚はあるでしょうね。ただ、今のバンタム級はかなり選手が詰まっていますから。同門の帝拳だけを見ても天心、増田(陸)がいますし、ほかにも世界を狙える選手がたくさんいます。階級を上げるタイミングも難しいですよね。
――それだけ日本人の有力選手が揃っている階級ということですね。
山中スーパーフライ級、バンタム級あたりは、日本人同士でベルトを争う機会も増えてくるでしょう。日本人同士の統一戦もあるでしょうから、本当に面白いですよね。
【井上尚弥vsバムに「勝負論」はあるのか】
――ジェシー・"バム"・ロドリゲスの今後も気になります。井上尚弥選手との対戦も取り沙汰されていますが、バンタム級に階級を上げて初戦となる前戦のアントニオ・バルガス戦(6ラウンドKOでバムの勝利)はどう見ましたか?
山中もちろんバムは強いですし、階級を上げてしっかり結果を出したこと自体、すごいことだと思います。ただ、バルガスがバンタム級で特別な強さを持った選手かというと、僕はそこまでの印象ではなかった。バムがフィジカル的に押し込まれている場面もありました。だから、もっとフィジカルの強い相手だったらどうなるのか。そのあたりは、未知数だと思います。
――バムがさらに階級を上げてスーパーバンタム級で井上選手と対戦するとなると、フィジカル面でも厳しくなる?
山中フレームも火力も全然違いますよね。バムにとっては短期間で2階級上げることになりますから。しかも、相手が井上尚弥。現時点では、ちょっと無茶だと思います。バムのキャリアを考えても、もったいない気がしますね。それでもやるとなれば、ファイトマネーがえげつない、といった理由があるんだと思いますけど(笑)。勝負という意味では、かなり井上が優位だと思います。
――バムが日本人の実力者がひしめくバンタム級にとどまれば、大きな存在になりそうですね。
山中はい。名前はバムで、バンタムと近いですからね(笑)。ケガから復活する堤聖也もいますし、井上拓真、那須川天心、増田陸。さらに若い選手も上がってきています。伊藤千飛(WBOアジア太平洋バンタム級王者)ら、今後世界戦に絡んでくる選手もいますから。
――どのタイミングで世界戦が組まれるのか、順番待ちともいえるくらい選手が豊富です。
山中元チャンピオンの武居由樹も、次の試合でどのくらいの選手とやるかわからないですけど、何回か勝ちを重ねないとタイトルマッチまでいくのは簡単ではないと思いますね。それだけ世界を狙える選手が揃っているということです。
【ボクシング界の超新星】
――若い世代で、山中さんが注目している選手はいますか?
山中藤木勇我(大橋ジム)ですね。アマチュアであれだけの実績がありますし、無敗というのもなかなかないと思うんですよ。中量級という点でも楽しみなひとりです。
――高校まででアマ9冠、49戦49勝(33RSC)。今年6月のプロデビュー戦も2回TKO勝ちでした。
山中49戦して無敗というのは、とんでもない戦績です。アマチュアはトーナメントが多いですから、負ければそこで終わり。49戦もして無敗ということは、それだけ大会で勝ち上がり続けてきたわけです。僕は高校からボクシングを始めて、大学までやって47戦ですから、本当にすごい数字ですよね。
――大橋秀行会長は「史上最高の逸材」と評価していて、2年以内をメドに世界挑戦させる方針も明かしています。
山中まだプロでのキャリアが始まったばかりですから、現時点では様子見というところもあるでしょう。もちろん強いですし、これからが楽しみな選手のひとりなのは間違いないですよね。特に中量級は、日本人が世界で結果を残すのが難しくなってきます。アジアでは無双していた選手でも世界ではことごとく跳ね返されてきました。そういう意味でも、藤木が世界でどこまでいけるのかは楽しみですよね。
【「ロマンがある」。佐々木尽の魅力】
――中量級では、ウェルター級の佐々木尽選手も再び世界を目指しています。9月21日、セムジュ・デビッド選手と日本・OPBF・WBO-APウェルター級王座統一戦に臨み、6回58秒KO勝ちで3冠統一を果たしました。
山中佐々木はロマンがありますよね。中量級でああいうスタイルの選手って、見ていて面白いじゃないですか。もちろん技術的に見直すところはあると思いますけど、きれいにしすぎないほうがいいとも思うんです。
佐々木のよさって、あの勢いであったり、一発であったり、何か起こしてくれそうな期待感じゃないですか。そこを全部きれいにしてしまったら、佐々木のよさまで消えてしまう可能性もあります。
――今年5月には、アマチュアエリートの田中空選手(判定2-1)を退けました。
山中技術的には田中のほうが上なんじゃないか、という見方もあったと思うんです。でも、佐々木が競り勝った。技術だけでは測れない魅力が佐々木にはありますね。
――昨年6月、ブライアン・ノーマンJr.を相手に世界初挑戦して敗れましたが、今年9月に地域3冠を統一し、再び世界を目指すことになります。
山中層が厚いウェルター級ですからね。世界戦にたどり着くまでに戦う相手も当然強い。そこを勝ちながら、もう一度ランキングを上げていかないといけません。簡単ではありませんが、佐々木の場合は、やっぱり見たいと思わせる選手なんですよね。佐々木にはもう一度そこまでたどり着いてほしいですよね。
【プロフィール】
■山中慎介(やまなか・しんすけ)
1982年滋賀県生まれ。元WBC世界バンタム級チャンピオンの辰吉丈一郎氏が巻いていたベルトに憧れ、南京都高校(現・京都廣学館高校)でボクシングを始める。専修大学卒業後、2006年プロデビュー。2010年第65代日本バンタム級、2011年第29代WBC世界バンタム級の王座を獲得。「神の左」と称されるフィニッシュブローの左ストレートを武器に、日本歴代2位の12度の防衛を果たし、2018年に引退。現在、ボクシング解説者、アスリートタレントとして各種メディアで活躍。プロ戦績:31戦27勝(19KO)2敗2分。
篠﨑貴浩●取材・文text by Takahiro Shinozaki
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