日本サッカー この先20年の強化を考える
田嶋幸三(JFA名誉会長)インタビュー前編
この先20年の日本サッカーの強化について、田嶋幸三氏に話を聞いたphoto by Torao Kishiku
日本サッカー協会(JFA)は「JFA2005年宣言」を行っている。当時の川淵三郎会長が発表した。そのなかで「JFAの約束2050」として、サッカーファミリー1000万人、ワールドカップ開催と優勝を掲げた。
正直、当時は全然ピンとこなかったものだ。45年後は遠大すぎて実感が湧かなかった。しかし2026年の今振り返ってみると、意外と精度の高い目標の立て方だったように思う。
24年後のW杯優勝はちょうどいい設定ではないだろうか。
1998年、フランスは開催国としてW杯で初優勝した。ただ、国民の期待感はさほど高くなかった。準決勝から急変したが、それまではむしろ冷淡。まだ強豪国という自覚があまりなかったと記憶している。2018年に二度目の優勝をした時は自他ともに認める強豪だったから、強豪として優勝するまでに20年を要したことになる。
フランスに次ぐ21世紀の初優勝国は2010年のスペイン。強豪国として優勝している。2008年欧州選手権(ユーロ)で優勝していて、すでに他国と一線を画するプレースタイルを示していたからだ。そのスタイルはいわばバルセロナから拝借したもので、バルサがそれを始めたのは1988年のヨハン・クライフ監督就任から。完成まで20年。
日本は「強豪を倒しうるチーム」まで成長している。ただし、まだ強豪そのものではない。強豪をことごとく打ち倒せば理屈として優勝は可能だが、これまで優勝したチームはほぼ強豪なので、優勝したければ強豪と言えるレベルに到達していなければ難しい。
今から強豪に至るまで24年というのは、ぎりぎり不可能ではない目標設定ではないだろうか。もちろん、その間に何もしなければ現在の地位を保つこともできない。約20年間に何をすべきか、強豪となるには何が必要なのだろうか。
【サッカーファミリー1000万人と「ダブル・ピラミッド」】
――2050年W杯で優勝するために何が必要かというのがテーマです。JFA会長として、それ以前も強化担当などさまざまな分野に精通しておられる田嶋さんのご意見を伺いたいです。
田嶋
何でも聞いてください。
――JFA2005年宣言でサッカーファミリー1000万人という目標を掲げています。W杯優勝国で、サッカーがナンバーワンスポーツでない国はありませんが、日本はまだその域にはありません。
田嶋
1000万人も、優勝したければまだ少ないと思っています。優勝するのであれば、その時に5000万人くらい、その時の人口がどのくらいかわかりませんけど、国全体が盛り上がるなかで、それくらいのサッカーファミリーが関わっているという状態であるべきだと思います。サッカーファミリーには小中学生のプレーヤー、その親御さん、サポーターなどが含まれます。僕はまだまだ増えると思っていますし、そうでなければ優勝はできないでしょう。
――そのために取り組んでいることは何でしょう?
田嶋
まずは代表が勝つことが一番です。日本にはさまざまなスポーツがありますが、今回のW杯でも一気に関心が高まったのを感じましたし、勝ち続けることで大きな盛り上がりが期待できると思います。また、キッズプログラムにも取り組んできましたし、さまざまなアプローチをしてきたつもりです。
――シニアサッカー人口が増えています。ただ、そこまでずっとプレーしていた人は案外多くなくて、もちろん負傷などがあるんですが、生涯サッカーに関わっていく人の厚みがまだ足りないのかなという気もします。
田嶋
現在、ダブル・ピラミッドで考えています。
――ダブル・ピラミッド?
田嶋
以前は頂点に代表選手がいて、底辺にグラスルーツがあってというピラミッドでしたが、それとは別に生涯スポーツとしてのピラミッドを作る。両方大事にしていくという考え方です。例えば高校を卒業して18歳で引退ということがないように、プレーできる環境を作っていく。生涯にわたってサッカーを楽しめる環境を作っていきたいと思っています。
――・――・――
サッカーがナンバーワンスポーツでない国は過去優勝していない。ついでに言えば、「サッカー」と呼んでいる国も優勝していない。
米国やオーストラリアなど、フットボールをサッカーと呼ぶ国には別にフットボールがあったため、区別する必要からサッカーと呼ばれるようになった。サッカーの国はナンバーワンスポーツではなく社会的地位が低いところからのスタートだった。フットボールの呼び方も国によって微妙な違いはあるものの、優勝実績があるのはフットボールの国である。例外はイタリアで「カルチョ」と呼んでいて、日本も戦前は「蹴球」だった。「フットボール」も使っていた。米国の占領下に入って「サッカー」が定着した経緯がある。
ともあれ国民的な熱量は優勝の条件と考えられ、サッカーファミリー1000万人は優勝のためには不可欠な目標だろう。代表チームが強ければ、それだけで優勝できるというわけにはいかないのだと思う。「2つのピラミッド」の充実は大きな課題と考えられる。
【17歳でJリーグデビューの重要性】
――育成について伺います。日本はもはや選手輸出国です。代表選手の大半が欧州のリーグでプレーするようになり、レベルも上がりました。しかし、W杯優勝となると欧州のビッグクラブでレギュラーを張るような選手がもっといなければならないというイメージがあります。現状、まだそこまでではなく、もうひとつ壁を乗り越える必要がありますよね。
田嶋
冨安健洋、南野拓実は10代でJリーグデビューしています。技術委員会では5年前くらいから「17歳でJデビュー」と言い始めていて、そこから逆算して育成をどうしていくかに取り組んでいます。育成への投資もしてきました。そうしたことが少しずつ実を結んでいます。
ただ、例えばJリーグの監督の考え方次第では、もっと早くデビューできた選手は以前にもいたのではないかと思います。現在、三井寺眞(横浜F・マリノス)が16歳でJデビューしていますが、ついこの間までは中学生ですよ。16、17歳でプロデビューして、18歳になれば海外移籍も年齢的に可能です。10代で日本代表になれば、W杯に3、4回出場できるし、そういう選手も現実に出てきている。
10代でJデビューして、20歳前後で欧州移籍、24歳くらいの脂の乗った時期にチャンピオンズリーグ(CL)常連のクラブでプレーしている。そういった選手たちでチームが構成されるようになれば、優勝も視野に入ってくると思います。
少し話は逸れますけど、北中米W杯では「優勝」を目標として掲げました。それによって足りないところも見えてきました。親善試合でも強いチームを呼んで、勝つことでFIFAランキングを上げてポット1に入っておくことが大事であるとか、いろいろなことに気づけたのも「優勝したい」と本気で思ったからです。決勝まで戦うために森保一監督の下、ターンオーバーできる26人を揃えるという準備もしてきました。ただ、移動や暑さなど厳しい条件がありながら、リオネル・メッシやアーリング・ハーランドなどはほぼ毎試合プレーしていましたよね。リーグ戦とCLで土曜日、水曜日と連戦してきた選手たちのタフさを感じます。優勝を目指してきたからこそ、見えてきたものがありました。
――いろいろ足りないところも見えてきた。そこをもうひとつ越えるためには何が必要なのでしょうか?
田嶋
アンダー世代のリーグ戦など、いろいろな改革をしてきました。その成果は出ていると思います。そのうえでさらに進化するためにどうするか。僕は口出しする立場ではなくなっていますが、僕の想像を超える何かにトライしていってほしいと思います。
――・――・――
田嶋氏は会長を退き、現在は名誉会長。「口出しする立場ではなくなっています」はそうなのだろうが、逆に自由に発言しやすくなったのではないかとも思う。
ジャンニ・インファンティーノFIFA会長がW杯の運営会社を立ち上げると言い出した時、世界各国から反論が湧き上がった。日本からは田嶋氏と川淵氏がいち早くコメントを出している。宮本恒靖会長は筆者の知る限り声明は出していない。このあたり、名誉会長という立場をうまく使ったのではないかと水を向けると、FIFAへの不満があふれ出てきた。今回のテーマからは外れるが、以下、要約して紹介しておきたい。
田嶋
あれはFIFAカウンシルメンバーという立場で発言しました。何の議論もなかったですから。コメントを出す際には宮本会長にも断っています。何なら一緒に出してもいいよと。
FIFAはW杯で信用をなくしたところがある。イランが他国と平等に扱われなかった。これは非常に残念。本来、開催国の義務ですから。もうひとつはフォラリン・バログン(米国)の処遇(※出場停止処分の執行の1年間猶予)。何に忖度したのかはわかりませんが、明らかに異例の措置です。それなのにFIFAは(まともな)ステートメントを出さなかった。出したのは「ディシプリナリー・コミッティ(規律委員会)は独立していて、その判断を尊重する」という旨だけ。出場停止の執行猶予は極めて異例なのに合理的な説明はなく、大会後に「二度とこのようなことは起こさない」という声明もなかった。
その後、カウンシルであの処遇が各国に影響するのではないかと危惧していると提言もしました。規律委員長があの時に言ったのは「諸般の事情により」ですよ。あれで信用をなくしたがために、その後のアルゼンチンの試合での判定に疑惑を持たれるという影響も実際あったわけです。
デモクラシーは倫理観が土台にあるべきです。そうでなければ、単なる多数派工作で物事が決まってしまいます。(W杯運営会社設立案に関して言うと)30億円か15億円かと問われたら、30億がいいに決まっていると答える国はありますよ。だからこそ、そういう議論にしてほしくない。FIFAはサッカーの健全性を保ち、世界中のより多くの人々に参画していただく、そのために奉仕する組織。それを忘れてほしくないと思います。
>>後編「育成システムのあり方、代表が強豪へ進化するポイントは?」につづく
田嶋幸三
たしま・こうぞう/1957年11月21日生まれ。熊本県出身。浦和南高校で高校サッカー選手権優勝。その後筑波大学、古河電工(現ジェフユナイテッド千葉)と進み、日本代表でもプレーした(Aマッチ7試合出場1得点)。1982年に引退後は西ドイツへコーチ留学。帰国後は指導者養成などに尽力し、2001年にU-17日本代表監督、2002年にはJFA技術委員長に就任。選手育成やJFAアカデミー福島の創設にも携わった。2016年から2024年までJFA会長を務め、現在はJFA名誉会長。2011年からアジアサッカー連盟(AFC)の理事、2015年から国際サッカー連盟(FIFA)理事(2016年からはカウンシルメンバー)を務める。
西部謙司●取材・文text by Kenji Nishibe
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