川口春奈、“鎧の内側にある素顔”をすくい取る…繊細な演技で見る者の心を揺さぶる表現者

川口春奈/※ザテレビジョン撮影

川口春奈、“鎧の内側にある素顔”をすくい取る…繊細な演技で見る者の心を揺さぶる表現者

9月25日(金) 6:30

川口春奈
【全身写真】スリットの入ったドレス姿の川口春奈、バックショット

川口春奈が、10月2日(金)公開の映画「ママがもうこの世界にいなくても 私の命の日記」で主演を務める。映画の原作は21歳でステージIVの大腸がんを宣告された遠藤和(のどか)さんが、亡くなる10日前まで書き続けた同名手記。映画は、夫との結婚や妊娠、出産、限られた時間の中で育まれた家族の愛をつづった実話を基にしている。強さと弱さを抱えながら懸命に「今」を生きる女性像は、川口がこれまで演じてきた役とも重なる。

■14歳で“13代目リハウスガール”に抜てき

ローティーン向けファッション誌「ニコラ」の第11回モデルオーディションでグランプリを獲得した後、14歳で13代目「リハウスガール」に選ばれ、「ポカリスエット」のイメージキャラクターにも抜てきされた川口は、瞬く間に注目を集めた。俳優としても「桜蘭高校ホスト部」(2011年、TBS系)などに主演し、早くから頭角を現す。

その後、2013年のドラマ「夫のカノジョ」(TBS系)でゴールデンタイムの連続ドラマ初主演。当時18歳にして家族ドラマの中で“母親”役を担うことに。正確には、川口演じる20歳の派遣社員・山岸星見と、鈴木砂羽演じる39歳の主婦・小松原菱子の体が入れ替わる設定で、外見は若いまま夫と2人の子どもを思う母親の内面を演じることになった。

周囲に入れ替わったことを隠したまま、子どものことで心を痛め、時には大慌てする。姿は違えど、まなざしや表情で揺らがない母親の愛情を伝えた。一方、外見は夫の部下・星見であるため、愛する夫のそばにいながら妻だと気付いてもらえない切なさや嫉妬心もにじませる。

家族を心配する母性と夫を思う女性の寂しさを、コミカルな物語の中で表現していたのだ。18歳の俳優にとっては難度の高い役柄だっただろうが、全身で感情を放つ思い切りのよさに加え、笑いの奥に家族への深い愛情を宿らせ、現在の“俳優・川口春奈”につながる片鱗をすでに見せていた。

■一見“キラキラ女子”のインフルエンサーを繊細に表現

その魅力がさらに開花したのが、ドラマ「着飾る恋には理由があって」(2021年、TBS系/Leminoで配信中)だ。演じた真柴くるみは、インテリアメーカーの広報として、会社の宣伝のためにSNSで多くのフォロワーを獲得しているインフルエンサー。華やかな洋服に身を包み、毎日欠かさず発信する姿は自信に満ちて見える。しかし実際は、周囲から求められる“理想の自分”を演出するために懸命に背伸びをしていた。

今作が大きく支持されたのは、川口がくるみという女性の内面をゆっくり、丁寧に浮かび上がらせていった点にある。スマホの画面を通して見れば、くるみは「キラキラ女子」だが、実像は仕事に実直に向き合う努力家。SNSの更新も経験に裏打ちされたスキルであり、決して軽々しく行っているわけではない。日々の業務を必死にこなしている姿には共感しかない。

一方、シェアハウスに帰れば床に座り込み、疲れをあらわにし、感情のままに食べて泣く。“着飾る”行為の裏側にある努力と寂しさを浮かび上がらせた。象徴的なのが、第1話で藤野駿(横浜流星)の作ったカレーを食べる場面だ。

憧れていた葉山祥吾社長(向井理)の突然の退任によって張り詰めていた糸が切れ、くるみは「おいしい」と言いながら涙をこぼす。大げさに泣き崩れるのではなく、その無防備な表情だけで、彼女がどれだけの思いを抱えていたのかが伝わり、視聴者の心を鷲づかみにしたワンシーンとなった。

さらに、駿への恋心やSNS炎上後の不安を演じる際も、セリフだけでなく、視線や声、笑顔が消えるまでのわずかな間でくるみの心情をにじませる。親しみが湧き、思わず応援したくなるキャラクターを生み出す一方、わずかな表情の変化で視聴者を引き付け、俳優としての存在感を確かなものにした一作となった。

■話題沸騰のドラマ「silent」で主演

翌年放送された「silent」(2022年、フジテレビ系)では、その表現がさらに繊細になる。川口演じる主人公・青羽紬は、高校時代に恋した佐倉想(目黒蓮)と8年ぶりに再会するが、想は若年発症型両側性感音難聴によって聴力をほぼ失っていた。

紬が手話で思いをぶつける想を前に、意味を理解できないまま涙を流す第1話は強烈だった。再会の喜び、戸惑い、失った時間への痛みを、呼吸と視線だけで表していく。言葉を交わせない場面だからこそ、表現の確かさが際立つこととなった。

川口の演技は、年齢と経験を重ねるにつれて、内側から湧き出るものへと進化している。私生活では、2026年8月2日、サッカー日本代表の板倉滉選手との結婚と第1子の妊娠を発表し、新たな人生の節目を迎えた。

10月2日(金)公開の映画「ママがもうこの世界にいなくても 私の命の日記」では、21歳でステージIVの大腸がんを宣告されながらも、夫・将一さんとの愛や、生まれてくる子どもへの思いを胸に、過酷な運命に全力で立ち向かった和さんを演じる。

この秋は、“鎧の内側にある素顔”をすくい取る川口の繊細な演技に、あらためて触れてみてはいかがだろうか。

◆文=及川静



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