カスピ海に面したネフチレル通りに立つと、その先は霞んで見えない。
威厳あるバクー政府庁舎の"お膝元"にしつらえられたメインストレートは、ターン16の立ち上がりからターン1まで、約2.2kmにわたって延々と伸びている。
F1カレンダーで最長となる第15戦アゼルバイジャンGPのロングストレートは、実に23秒もの連続全開時間を誇る。
アロンソは実走テストと割り切ってアゼルバイジャンGPに臨むphoto by BOOZY
スペック2を投入して出力向上を果たしたとはいえ、依然としてライバルメーカーに後れを取るホンダにとっては、バクー・シティ・サーキットは苦しい戦いを強いられる可能性が高い「鬼門」のひとつだろう。
「モンツァほど厳しくはないと思いますが、やはりストレートではICEパワーが重要になってくる。我々にとっては、非常に厳しいサーキットだと思っています」
ホンダの折原伸太郎トラックサイド・ゼネラルマネジャー兼チーフエンジニア(GM)は語る。
バッテリーがフル充電の状態でメインストレート前のターン16を立ち上がったとしても、MGU-Kによる電動アシストを効かせられる時間は約13.2秒。つまり、残りの10秒ほどはICEだけで走らなければならなくなる。
電動アシストが弱まれば、ICEのパワー差はより際立つことになる。よって、その長いストレートを、いかに電気エネルギーでアシストして戦うかがキーポイントになる。
「ストレートはカレンダーで最長です。どのメーカーもすべてディプロイすることはできないと思います。では、どこでディプロイするのがラップタイム的に最も速いのか。前半に固めたほうがいいのか、もしくは一度止めて後半でもう一度ディプロイしたほうがいいのか。そういったところをどうするか、という調整がカギになります」
それ以外のセクションは、120km/h以下の90度コーナーが多く、2本のストレート(ターン2〜3、ターン6〜7)も決して長くはない。そのため、まったく異なる要件が求められる。
「市街地セクターはドライバビリティが重要になってくる。ドライバーが自信を持って攻められるように、セッティングを詰めていくことが重要になります」
【マシンは規定最低重量に近づいてきた】コーナーの立ち上がりでもブレーキングでも、ドライバーが想像したとおりのトルクデリバリーやギアシフトでなければ、レーシングラインがわずかにずれ、その先には壁が待っている。
スペック2投入当初は散々だったパワーユニットのドライバビリティだが、モンツァ(第13戦イタリアGP)とマドリンク(第14戦スペインGP)で劇的に改善を果たした。特に市街地サーキットのマドリンクでは、その効果をドライバーたちも実感したという。
「フェルナンド(・アロンソ)からは、モンツァでは改善を感じながらも自信が持てなかったけど、マドリンクで改善が感じられて自信が持てた、ということでした。コーナリング中のドライバビリティに関しては、ポジティブなフィードバックを得ていますので、いい改善が果たせたと思っています」(折原GM)
速度域の高いマドリンクと、中低速の90度コーナーとハードブレーキングが連続するバクーでは、特性がまったく異なる。バクーではさらなるフィードバックが得られ、改善も進むはずだ。
また、車体側でも軽量化が進められた。今回バクーに投入されるアップデートで、ようやく規定最低重量の768kgに近づいてきたという。
しかし、それによってタイムが劇的に向上するとは考えていないと、チーフトラックサイドオフィサーのマイク・クラックは説明する。
「軽いマシンのほうが速いのは確かだ。今回さらなる軽量化が進み、最低重量の規定にもかなり近づいてきている。これはとてもいいことだ。軽くなれば、それだけパフォーマンスが向上する。しかし、アップデートはレースごとに少しずつ進めてきているから、今回劇的な変化が見られるわけではないだろう」
空力アップデートを投入するには、既存のパーツに部分的に手を加えてモディファイを進めることになる。その際、重量増を抑えるのは難しい。
その結果、空力性能は向上しても、重量面のマイナスが出てくる。つまり、最低重量を上回っているマシンは、アップデートの効果も最大限には発揮されないというわけだ。だからこそ、アストンマーティンは常に軽量化を進めている。今回も急激に重量を削減したわけではないのだという。
【テストしたい課題が山積み】ロングストレートでのパワー的な不利に加え、アストンマーティンの車体は低速コーナーで速さを発揮するタイプではない。そしてタイヤのデグラデーション(性能低下)も小さいサーキットゆえに、タイヤに優しいアストンマーティンのメリットも生かせない。そういう状況だけに、ドライバーたちは大きな期待を抱かずにアゼルバイジャンGPの週末に臨んでいる。
アロンソは言う。
「正直に言ってこのバクーのサーキットは、カレンダーのなかでもトリッキーなレースのひとつになるだろう。おそらくラスベガス(第21戦)もそうだろうけど、僕らにとってベストなサーキットではない。入賞どころかQ1突破も難しいと思う。だけど、それは僕らの手でどうにかできることではないからね。自分たちの仕事をしっかりとこなすだけだよ」
今週末は、予選結果を追い求めたとしても、せいぜいQ1突破。であれば、実走テストと割り切って、今後のレースや2027年に向けたデータ収集を進める。それが、彼らの今週末の狙いだ。
「FP1、FP2、FP3で、テストしたい項目がものすごくたくさんある。そのなかにはバクーのためのものもあれば、今後のレースや来年のための項目もある。フリー走行でやらなければならない課題が山積みだから、それが今週末の最大のモチベーションだよ」
モンツァでキャデラック勢にも負ける(※)という大苦戦を強いられ、マドリンクでも想定以上の苦汁をなめる結果となった。それだけに、このバクーに向けてはより現実的なアプローチで臨む。
※イタリアGPでキャデラックのセルジオ・ペレスは18位、バルテリ・ボッタスは19位完走。アストンマーティンのフェルナンド・アロンソとランス・ストロールはともにリタイア。
もちろん、赤旗やセーフティカーが導入されるような波乱も多いサーキットだけに、レースで何が起こるかはわからない。しかしアストンマーティン・ホンダは、今はどうすることもできない目の前の状況にとらわれるのではなく、来シーズンへ向けて今できることをやる。
2.2kmのロングストレートは、誰よりも長く感じられるだろう。今は耐え、雌伏の時を過ごすしかない。
米家峰起●取材・文text by Mineoki Yoneya
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