「外国人客に買われる少女たち」歌舞伎町“立ちんぼ”が生み出す食物連鎖と“安いニッポン”の現実

橘玲『エロス資本論』週刊SPA!で連載中!<イラスト>leionarts

「外国人客に買われる少女たち」歌舞伎町“立ちんぼ”が生み出す食物連鎖と“安いニッポン”の現実

9月23日(水) 15:53

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「性的魅力は、資本になる」ーー。'00年代初頭、イギリスの社会学者キャサリン・ハキムが提唱した「エロス資本」という概念がある。若い女性の性的魅力は経済的価値を持つ「資本」であり、それをマネタイズすることには経済合理性がある、という考え方だ。

キャバクラ嬢、コンカフェ嬢、アイドル、立ちんぼ……。本連載では、作家・橘玲がエロス資本の視点から、彼女たちの行動と動機を深く掘り下げていく。

(※本記事は週刊SPA!連載「エロス資本論」Vol.2を元に構成しました)

歌舞伎町「地下経済」の食物連鎖

路上に立っている女性たちは、「通い組」と「家出組」に分類される。「通い組」は、週末だけ歌舞伎町にやってきて副業感覚で稼ぎ、平日は郊外の実家や自宅へ帰っていく、いわばライト層。彼女たちは、比較的容易に軌道修正ができる余地を残している。

深刻なのは、歌舞伎町やトー横界隈を拠点にして、ホテル生活を続けているディープな「家出組」の少女たち。身分証確認が厳しく宿泊費の高いビジネスホテルは利用できないため、身分証不要のラブホテルを根城にし、1つの部屋に数人で雑魚寝するような共同生活を送ることもある。

現在の立ちんぼ市場には、「合理的に稼ぐための売春」と「生きるための売春」が混在している。

かつて性産業は、生活困窮者が最後に流れ着く場所だと考えられていた。しかし路上に立つ彼女たちの家庭環境を聞いてみると、そこにあるのは単純な「経済的貧困」だけではない。

ひとり親家庭や外国籍の親を持つ子供が多いのは事実だが、一方で「お金はあるけれど心理的に満たされていない子」が数多く交ざり合っている。

中流のなに不自由ない家庭に育ちながら、過度な「教育虐待」や親の過干渉、高すぎる期待に精神をすり減らし、家を飛び出してきた少女たち。親に買ってもらったブランド物の服を身にまといながら、その袖をまくると腕には無数の自傷(リストカット)の傷痕が刻まれている。

一見すると普通の家庭に見える機能不全家族から逃れてきた彼女たちにとって、路上は「生活費を稼ぐ場所」であると同時に、過酷な現実から一時的にドロップアウトするための〝シェルター〟としても機能しているのだ。

こうした背景を持つ彼女たちの場合、保護して家庭に戻せば問題が解決するわけではない。窮屈な児童相談所よりも「家のほうがマシ」と戻る子もいるが、「児童相談所のほうが安心できる」と保護を求める子もいる。

そして、家にも児童相談所にも居場所を見つけられなければ、いずれ歌舞伎町に戻ってくる。

グローバル化でますます進む「アングラ経済」と「エロス資本」の循環

こうした少女たちが、路上でエロス資本をマネタイズしたお金は、どこへ消えていくのか。

違法行為にもかかわらず、プロ意識を持って自己管理している大人の立ちんぼは別として、トー横界隈の延長線上で路上に立つ彼女たちの金銭管理能力は皆無に等しいのが実態だ。毎晩のラブホテル代や生活費を払い、余ったお金のほとんどは、ホストクラブやメンズコンカフェ(メンコン)、メンズ地下アイドル(メン地下)への貢ぎ金として消えていく。

ここに、完璧なまでの「食物連鎖」のピラミッドが完成する。

「安い国・日本」にやってくるアジアの捕食者たち

近年の最も劇的な地殻変動は、市場の「グローバル化」(インバウンド化)だ。

ここ数年、歌舞伎町のホテル街周辺には、中国、東南アジアなどのアジア圏からの外国人観光客が著しく増加している。スマホで「How much?」と提示されるケースが日常茶飯事になっているほどだという。

アジア人男性が日本人の少女を買いに歌舞伎町へやってくることほど、「安いニッポン」を突きつける現実はないだろう。

長年のデフレと円安によって、日本はアジア諸国からも「性的サービスが極めて安価に買える国」と認識され、日本人女性の性的サービスが〝割安商品〟になっている。

昭和から平成にかけては、日本の男たちがタイやフィリピンに買春目的で行った。しかしいまや、その立場は完全に逆転している。

外国人客が好まれるのは、「私服警官によるおとり捜査の心配が絶対にないから」でもある。警察は路上売春の取り締まりのため、勧誘したりホテルに入った瞬間に私服警官が女性を現行犯逮捕するような、事実上のおとり捜査も行っている。

女性たちにとって最大の脅威は、目の前の客が「本物の客か、それとも警察か」だ。言葉の通じない外国人観光客なら、警察ではないという「絶対的な安心感」があるため、彼らが優良顧客として選好されるという歪んだ市場のメカニズムが働いている。

皮肉なのは、買われる女性たちの側からも「ヘタに日本のサラリーマンを相手にするより、カネ払いのいい外国人のほうがいい」との声があることだ。

フランスの失敗に学ばない「買春者処罰法」の罠

現行の売春防止法の問題は、路上で売春を行った女性が罰則の対象になり得る一方、客側への実質的な罰則がないという非対称性にある。そのため、女性の売春を非犯罪化し、買う側を処罰する法改正が検討されているが、路上に立つ女性からすれば、これは「国家による営業妨害」以外のなにものでもない。

フランスではこの買春者処罰法が導入された結果、性産業がアングラ化し、それまで路上で客を選んで安全に稼げていた女性たちが、ネットの闇サイトや国際的な人身売買ルートに依存せざるを得なくなり、暴力や病気などのリスクに晒されているというデータが出ている。

今後、「買う側への罰則」を強化すれば「普通の客」が市場から撤退し、その後に残るのは、警察に捕まるリスクなどハナから気にも留めない「本当に凶暴でヤバい男たち」だけだ。

これでは、彼女たちの安全を守るための法改正が、結果として彼女たちの周囲を本物の捕食者だけで埋め尽くすことになってしまうのではないだろうか。

いるのが、汗水垂らして稼いだお金で立ちんぼを買うサラリーマンのおじさんたちだ。彼らが支払った2万円は、いったん中抜きなしで女性の手に渡るが、そのほとんどが歌舞伎町の捕食者の頂点に君臨するホストやメンコン、メン地下へと吸い上げられていく。

おじさんのポケットから出た切ない労働の対価が、少女の肉体を経由して、ホストやメンコンのシャンパンタワーへと形を変える。歌舞伎町という街そのものが巨大な欲望循環装置になっているのだ。

【橘玲】
作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。編集者を経て、’02年に国際金融小説『マネーロンダリング』で作家デビュー。同年刊行の『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』がベストセラーとなり、以後、金融、投資、社会制度、人生設計などをテーマに幅広く執筆活動

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