(写真撮影/ヨシガカズマ)
9月22日(火) 7:00
山口県周南市。夕暮れのJR徳山駅を出ると、海沿いのコンビナート街を背景に、学校や仕事帰りの人々が行き交う。その先にあるのが、レトロな中央街商店街です。
ほんの数年前まで閉じたシャッターが目立っていたこの街に今、若い世代による出店が相次いでいます。1年半で5店舗がオープンし、夜には店から店へと灯りを巡る人々の姿も。
かつての静けさを破り、なぜ今この街に挑戦者が集まるのか。その熱気の始まりを探しに、中央街商店街へ歩みを進めてみましょう。
山陽新幹線も停車するJR徳山駅から歩いて数分。中央街商店街は、周南市の中心市街地に位置しますが、郊外への商業機能の流出などにより、街なかの空洞化・活性化が長く課題となっていました。
中央街商店街で相次ぐ新規出店。この変化は、徳山駅周辺で長く続いてきた「官民連携」のまちづくりが結実しつつある証と言えます。
周南市では2000年代から徳山駅周辺の整備が進められ、2018年には駅直結複合施設「徳山駅前賑わい交流施設」がオープンしました。
この行政が整備した新施設の運営(指定管理者)と、駅前周辺の「タウンマネジメント(徳山駅前を中核とした賑わい創出に伴うエリア活性化)」を担う民間のパートナーに選ばれたのが、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(以下、CCC)です。
同社で周南タウンマネジメントのリーダーを務める山中憲治(やまなか・けんじ)さんたちは、開業当初から単なる施設の運営にとどまらず、地域の人たちと対話を重ねながら、周辺のまちづくりにも関わってきました。
背景には、施設の整備にあたり、周南市からCCCへ「ここで生まれたにぎわいを周辺にも波及させてほしい」という要望があったといいます。行政や民間などさまざまな立場の人が街の課題について話し合う周南市中心市街地活性化協議会の「タウンマネジメント会議」で情報を共有し、地域の人たちと連携しながら、街なかへ人を呼び込む取り組みを重ねてきました。
図書館には学生や親子連れなどが日常的に訪れ、徳山駅前には新しい人の流れが生まれていきました。
しかし、駅から数分の距離にありながら、そのにぎわいはすぐには中央街商店街へ届きませんでした。中央街商店街では空き店舗が増加し、コロナ禍には空き店舗率が約50%にまで達しました。
1950年代初めには現在につながる形でつくられた中央街商店街。かつては50店舗近く軒を連ね、多くの買い物客でにぎわっていました。しかし、郊外型大型店の進出や生活スタイルの変化などを背景に、少しずつにぎわいが失われていきます。
中央街商業協同組合の理事長・安堂正修(あんどう・まさのぶ)さんは、家業の精肉店を継ぎ、約30年にわたってこの街の移り変わりを見てきました。
「この30年間で、全国のほかの地方都市の商店街と同様に、中央街商店街でも少しずつ店が閉まっていきました。『このままでは、シャッター街として終わってしまう』と思いました」
店を閉めたからといって、その場所をすぐ次の人へ貸せるとは限りません。長年商売を続けてきた店舗には、建物を所有する人それぞれの事情があり、借りたい人がいても、貸したい物件が表に出てこなければ、新しい店は生まれないのです。
そんな中央街商店街に、2018年、変化が訪れます。
「街が変わるきっかけは、派手な出来事ではなかった」
そのきっかけの一人である、中央街商業協同組合の副理事長を務める石田俊介(いしだ・しゅんすけ)さんは、当時を振り返ります。
石田さんは不動産会社に勤め、転勤で2016年ごろ周南市へやってきました。徳山駅周辺の住宅管理をするなかで、地域の会議やイベントにも参加。「こんなに面白いことをやっている人たちがいるんだ」と、次第にまちづくりへ関わるようになりました。
もともと「人と店の距離が近い横丁」が好きだった石田さん。シャッターが閉ざされた中央街商店街を目にして、ふと思ったそうです。
「このシャッターを開けたら、どんな景色が見えるのだろう」
その思いから2018年に行ったのが、1日限りのイベント「とくやま夢横丁」でした。シャッターが閉まったままだった店舗を試しに開け、飲食店や子ども向けの催しを開催。
まず開けて、人が入り、使ってみる。その試みを続けるうち、石田さんは中央街商店街の人たちと顔見知りになっていきました。
閉じていた店舗に人が集まり、楽しむ姿を実際に見てもらうことも、中央街商店街の人たちとの関係を築くきっかけになったといいます。イベントを重ねるなかで、少しずつ信頼関係も築かれていったそうです。
やがて、店舗を閉める所有者から「この物件を引き受けてもらえないか」と相談が寄せられるようになり、一軒が動くと、別の所有者からも声が掛かりました。
イベントで築いた信頼と、本業の不動産の仕事が、ここで重なっていきます。
一方そのころ、駅前ではCCCの山中さんも、図書館やイベントを通じて地域とのつながりを広げていました。駅前のまちづくりの場で顔を合わせるようになった石田さんと山中さん。そんな2人を意気投合させたのが、ともに「横丁」が好きだという共通点でした。
石田さんが「イベントだけでなく、中央街商店街に常設の横丁エリアをつくりたい」と話すと、山中さんも深く共感。「店をやってみたい人がいればマッチングしよう」と、2人の動きは重なっていきました。
ただ、駅前から中央街商店街への人の流れは、こうした2人の動きだけで生まれたものではありません。
地域について語り合う「マチエキ会議」や清掃活動の「徳山あちこちクリーンプロジェクト」、さらに、「周南夜市」「周南 蚤の市」など、行政や民間、地域の人たちが一緒になって、街なかへ人を呼び込む取り組みも重ねられてきました。
「周南夜市」の開催時には、中央街商店街周辺の人流が通常時の約2.5倍を記録したそうです。
こうした取り組みが続くなか、近年では徳山駅周辺の商業地で地価が上昇傾向に転じるなど、街全体の価値が高まっています。中央街商店街でも約1年半で5店舗が新たにオープンしました。
こうして人と場所がつながり、閉じていたシャッターの一つが開きました。その始まりの1軒となったのが、2024年にオープンしたスタンドバー「Suzume Stand(スズメ・スタンド)」です。
「Suzume Stand」は、カウンターを囲んで気軽に1杯を楽しめるスタンドスタイルの店です。
店主の浜松智也(はままつ・ともや)さんは、福岡でバーテンダーとして経験を積んだ後、地元・周南地域へ戻ってきました。「いつか店を構えるなら徳山駅の近くがいい」。そう考えていた浜松さんと、中央街商店街に横丁のような場所をつくりたいと考えていた石田さんたちがCCCのマッチングでつながり、出店へと話が進んでいきました。
店で楽しめるのは、クラフトビールやカクテルを中心としたドリンクだけではありません。
酒蔵とのコラボイベントを開いたり、近隣の飲食店と一緒に企画を考えたり。最近では、コーヒーが得意なスタッフがコーヒーを、サウジアラビア出身のスタッフがサウジアラビア料理を提供する昼間の営業を担当するなど、一つの店の中から新しい試みも生まれています。
その理由を尋ねると、浜松さんはこんなふうに話してくれました。
「その人が得意なことを、ここでやってもらえたらいいと思っています」
誰かがコーヒーを淹れる日があり、誰かがイベントを企画する日もある。そこに人が集まり、会話が生まれ、また新しいつながりができていく。「Suzume Stand」は、1杯のお酒を楽しむだけでなく、誰かがやってみたいことを試せる場所にもなっているようです。
そして浜松さんが目指しているのは、自分の店の中だけではなく、中央街商店街全体の文化づくり。1軒目で食事をして、2軒目で1杯。気になる店があれば、さらにもう1軒へ。
そんなふうに店から店へ歩く「はしご酒」の文化を、中央街商店街につくっていきたいと話します。
実際に店に立ち寄ってみると、カウンター越しに店主と客が話し、いつの間にかその会話に隣の人も加わっていく。そんな人との距離の近さが、この店にはあります。
一つのシャッターが開き、そこに人が集まる。その動きはやがて、「Suzume Stand」の中だけにとどまらず、中央街商店街へ少しずつ広がっていきました。
「Suzume Stand」に続いて、中央街商店街には新しい店が少しずつ増えていきました。現在は、炭焼きビストロ「たまには。」や居酒屋「GOOD PEOPLE(グッド・ピープル)」、鉄板ダイニング「ABIRA(アビラ)」、中華そば「小惑星」と、新しい店の明かりがぽつり、ぽつりと灯っています。新しい店と昔から地域に親しまれてきた店が同じ通りに並び、少しずつ新しい風景が生まれているようです。
その変化を感じやすいのが、夜です。以前は営業する店も人通りも少なかったそうですが、今では仕事帰りの人や若い世代が立ち寄り、1軒で食事をしたあと、「もう1軒」と別の店へ向かう姿も見られます。まさに、浜松さんがかねてから思い描いていた中央街商店街です。
まだ中央街商店街にシャッターが目立っていたころ、石田さんの“横丁構想”に共感して出店を決めたお店はほかにもあります。
新しい店の一つ、炭焼きビストロ「たまには。」店長の井上貴徳(いのうえ・たかのり)さんは、もともと周南市の飲食店で働いており、周辺で自分のお店を開くため物件を探していたときに石田さんと出会いました。そこで聞いた“横丁構想”に共感し、出店を決めたそうです。オープンから9カ月、「出店してよかった」と井上さんは笑顔で即答。実際、店には多くの客が訪れ、中央街商店街にも人が入ってくるようになったと話します。
同じころ居酒屋「GOOD PEOPLE」をオープンした上田優宗(うえだ・まさのり)さんは、花火師として働きながら、飲食店を営んでいる異色の経歴の持ち主。店を持つうえで大切だったのは、二つの仕事を無理なく続けられることでした。そこで物件探しで重視したのが、初期投資や固定費を抑えられ、一人でも営業できること。中央街商店街の小さな店舗はその条件に合い、花火の仕事と両立しながら店を続けられる場所でもあったそうです。
「GOOD PEOPLE」をオープンした当時は、まだ今のように新しい店が並んでいたわけではありません。それでも上田さんは、これからつくられようとしている“中央街商店街の未来”に惹かれ、この場所で店を始めることを決めました。
「Suzume Stand」を筆頭に、「たまには。」「GOOD PEOPLE」「ABIRA」……と店舗が、一つまた一つと加わり、店主同士にもつながりが生まれ、周辺の店や地域の事業者と一緒に企画する動きへと広がっています。
かつてイベント「とくやま夢横丁」で、閉じていたシャッターを開けてつくられた1日限りの風景。それが今は、実際にこの場所で店を営む人たちによって、少しずつ日常の風景へと変わり始めているようです。
そして、この流れに新たに加わろうとしているのが、2026年秋にワインバル「NAP COLLECT(ナップ・コレクト)」のオープンを予定している神野愛菜(じんの・あいな)さんです。現在は徳山駅の新幹線口側で古着店を営んでいますが、次の挑戦の場として中央街商店街で準備を進めています。
現在の店舗では夜カフェも開いてきた神野さんですが、周辺は夜になると暗く、女性が気軽に立ち寄れる店にするには、立地が合わないと感じていたそうです。そこで目を向けたのが中央街商店街でした。
「今の横丁の雰囲気と、私がやりたいワインバルが、自分の中ですごくマッチしている感じがして。ターゲット層にも合うし、中央街商店街にも貢献できると思いました」
店内には古着を飾り、お酒を飲みながら服も見られるような空間を思い描いているそうです。
街で楽しそうに挑戦する人の姿を見て、「自分もここで何かやってみたい」と思う人がまた現れる。いったん街を離れた若者にとっても、いつか戻ってきたいと思える場所になる。そんなふうに、人の動きが次の世代へつながっていくことを、街に関わる人たちは思い描いています。
これまで見てきた中央街商店街の変化も、振り返ってみると、人と人とのつながりの先に生まれていました。駅前で人が集まる場所をつくり、その流れを街なかへ広げようとしてきた人たち。閉じた店舗をもう一度使えるように、地域との関係を築いてきた人。そして、そこで「やってみたい」と店を開いた人たち。
かつて「開けてみよう」から始まったシャッターは今、一つ、また一つと、店を営む人たちの手で開き始めています。次にこの通りを歩くときには、また新しい景色に出会えるかもしれません。
●取材協力
・
カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社
・三星合資会社
・
丸安精肉店
・
Suzume Stand
・
炭焼きビストロ たまには。
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居酒屋 Good People
・
鉄板DINING ABIRA
・
ワインバル NAP COLLECT
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