私は「A工房」という焼き物の窯元を経営しています。職人たちと一緒に伝統を守りながら、現代の暮らしにも合う器を作り、全国へ届けることが私の仕事です。長年、妹の夫が経営する「B食器」と取引を続けていましたが、妹の結婚式をきっかけに、家族との関係だけでなく、会社同士の付き合い方も見直すことになりました。
100万円を援助したのに招待されず…
ある日、いつものように工房で仕事をしていると、食器の販売店を営むC子さんが訪ねてきました。
「どうしても私のお店で、A工房の器を扱わせていただきたいんです」
C子さんは以前から何度か足を運んでくれていました。しかし、当時のA工房はB食器と長年にわたる取引があり、生産できる数にも限りがあったため、新しい販売店との取引を簡単に増やせる状況ではありませんでした。「今はすぐにお返事できないんです」と伝えると、C子さんは「また相談させてください」と言って帰っていきました。
その日の仕事を終えた後、私は妹に電話をしました。妹は近く結婚式を挙げる予定で、私は相談を受け、挙式費用としてすでに100万円を妹の口座に振り込んでいました。私たちきょうだいは両親を早くに亡くし、幼いころは親戚に育てられました。私は親代わりのような気持ちで、妹の結婚式費用を援助することにしたのです。
しかし、式を挙げる時期については聞いていたものの、日が近づいても私のもとに招待状が届かなかったため、確認しようと思ったのです。
妹に電話をかけて結婚式について尋ねると、途中で妹の夫に代わりました。妹の夫から返ってきたのは思いがけない言葉でした。
「お義兄さんは仕事が忙しいんですよね? 無理して来てもらわなくても大丈夫ですよ」
「お義兄さんは欠席ということで、打ち合わせを進めています」
私は耳を疑いました。費用を援助したから招待されて当然だと言うつもりはありません。しかし、出欠について私の意向を確認することもなく、欠席するものとして話が進んでいたことには違和感を覚えました。
その後、妹からも「今回は欠席でいいよ」と言われ、さらに寂しい気持ちになりながら「わかったよ。じゃあ出席はしない」とだけ答えました。
その出来事をきっかけに、私はこれまで妹夫婦やB食器との関係で、曖昧なままにしてきたことを一度整理しようと思ったのです。
家族だから続けていた特別な取引
B食器とA工房は、親の代から長く取引を続けていました。私も工房を継いでから、これまでの関係を大切にしたいと思い、B食器には一定量の商品を優先的に卸していました。取引価格についても、長年の付き合いを考慮した条件にしていました。
また、亡くなった親から生前、「お互いに困ったときは支え合ってほしい」と言われていたこともあり、B食器の経営が苦しかった時期には、私自身ができる範囲で力を貸したこともあります。
ところが、妹の夫が経営を担うようになってから、B食器は洋食器の取り扱いを増やし、A工房の商品に以前ほど力を入れなくなっていました。それでも私は、昔からの付き合いだからと取引を続けていたのです。
後日、私は今後の取引について話し合うため、B食器を訪ねました。私が「これまで家族だからと思って、B食器との取引でもできる限り力になってきた」と伝えると、妹の夫は、「昔は助けてもらったかもしれませんけど、今は自分たちで経営しています。特別扱いしてもらわなくても大丈夫です」と言いました。
その言葉を聞き、私も決心がつきました。
「わかりました。だったら、親の代からの付き合いに加え、今では親族でもあるという思いから続けてきた特別な条件も、ここで一度見直しましょう」
家族としての援助と、会社同士の取引は別の話です。私は契約内容を確認し、契約に定められた手続きに沿って、現在の契約期間が終了した後は更新しない方針を伝えました。
結婚式に呼ばれなかったことへの腹いせで、取引をやめようと考えたわけではありません。ただ、B食器ではA工房の商品に以前ほど力を入れなくなっていたこともあり、限られた生産分をこれまでと同じように優先して卸し続ける必要があるのか、以前から考えていたのです。
すると、それまで強気だった妹の夫の表情が変わりました。A工房との取引が終了すると、B食器では以前から商品を購入していたお客さまから問い合わせが寄せられるようになったそうです。
契約終了後に始まった新たな取引
B食器との契約が終了したことで、A工房には新しい取引先へ商品を卸す余裕ができました。
そんなころ、C子さんが再び工房を訪ねてきました。
「以前お願いしたお話、もう一度検討していただけませんか?」
C子さんは、自分の店でA工房の器をどのように販売したいのか、具体的な計画まで考えていました。器をただ棚に並べるのではなく、料理との組み合わせを提案したり、普段使いしやすい商品を紹介したりしたいとのこと。
私はその話を聞き、「そこまで考えてくださっているなら、ぜひお願いします」と、新たに取引を始めることにしました。最初から大量の商品を卸すのではなく、工房の生産状況を見ながら、無理のない数量から始めました。
その後、C子さんの店ではA工房の器を手に取るお客さまが少しずつ増えていったそうです。家庭用だけでなく、飲食店などから問い合わせが入ることもあり、私たちにとっても新しいお客さまと出会うきっかけになりました。
しばらくして、妹夫婦が工房を訪ねてきました。妹の夫は以前とは違い、神妙な表情をしていました。
「A工房の商品を、もう一度うちにも卸してもらえませんか」
私は少し考えてから答えました。
「取引すること自体は構いません。ただ、以前のような家族だからという特別な条件ではなく、ほかの取引先と同じように話し合いましょう」
妹夫婦も、それを受け入れました。家族として援助する関係に戻るのではなく、取引先同士、対等な立場で条件を決めることになったのです。
結局、結婚式については妹から改めて招待されることはなく、私は出席しませんでした。すでに援助した100万円について返金を求めることもしませんでしたが、この一件をきっかけに、今後は家族だからという理由だけで金銭的な援助を続けることはやめようと決めました。
まとめ
今回の経験を通して、長く続いている関係ほど、いつの間にか相手への配慮や確認を省いてしまうことがあるのだと気付きました。
親しい間柄であっても、お互いの立場や考えを尊重し、無理のない関係を築いていくことが大切なのだと思います。これからも、これまでの付き合い方にとらわれることなく、その時々で相手と向き合いながら、納得できる関係を築いていきたいです。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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著者:ライター ベビーカレンダー編集部/ママトピ取材班
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