7月11日、サンフランシスコで行なわれた「Stop the AI Race(AI競争を止めろ)」デモ
生成AIの急速な普及を支えているのが、膨大な計算を担うデータセンターだ。しかし、その建設を巡り、アメリカでは反発が急速に広がっている。今年7月には142ヵ所でデモが行なわれ、国民の71%が地元での建設に反対。全米で燃え広がる"反AI"レジスタンスの最前線を追った。
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【世界にあるデータセンターの約40%がアメリカに!?】
今、アメリカの田舎を車で走ると、方々で「データセンター建設反対!」の看板を目にする。
見渡す限り農地といったような地域で、人影はなくても、住民たちの抵抗の意思だけはひしひしと伝わってくる。そんな風景が各地に現れている。
7月18日、カリフォルニア州でデータセンターの拡大に反対するデモに参加する人々。この日は全米42州142ヵ所で一斉に抗議活動が行なわれた
ペンシルベニア州マウントカーメルの住宅に掲げられたデータセンター建設反対の看板
こうしたデータセンターへの反対運動は、今や全米に広がっている。その背景には、AIブームとともに急拡大するデータセンターが、地域にもたらす負担がある。
データセンター建設に関する情報を収集・発信しているウェブサイト『データ・センター・マップ』によると、8月末時点でアメリカでは、4767ヵ所のデータセンターが登録されている(計画・建設段階のものも含む)。
その数は、国別2位のイギリスの568ヵ所、3位のドイツの533ヵ所に比べても断トツに多く、IT産業を牽引するアメリカの圧倒的な存在感を物語る。ちなみに日本は261ヵ所だ。
そもそもデータセンターとは、〝デジタル時代のインフラ〟とも呼ばれる施設である。外観は広大な工場のような建物で、屋内には大型のサーバーや通信設備が延々と並ぶ。工場とはまるで違い、その冷たい光景の中には人の存在がほとんど感じられない。
そこではGoogleやMicrosoft、Amazon、Metaといったビッグテック企業やクラウド運営会社をはじめ、一般企業、金融機関、製造業、医療機関などが生み出す大量のデータが処理されている。
さらに近年は、「ハイパースケール」と呼ばれる超大型のデータセンターが次々と建設されるなど、施設そのものの巨大化も進んでいる。
例えば、Metaがルイジアナ州で建設を進める巨大データセンター「Hyperion」は、完成時には建物の総床面積が1000万平方フィート(約93万㎡)近くに達する計画だ。これは東京ドームの建築面積の20個分以上の広さに相当する。
【嫌われ始めたデータセンター】
かつて、データセンターはデジタル技術の進歩や地域への大型投資を象徴する施設として歓迎されることも多く、開設時には自治体関係者らが集まってリボンカットを行なうようなイベントも珍しくなかった。
だが、昨今は一転して、全米で広がる反対運動の標的となっている。
理由のひとつが、水問題だ。サーバーから発生する熱を冷やすため、冷却塔などでは水を蒸発させて熱を逃がす。米国のデータセンターが直接消費した水は、2023年だけで約660億リットルに上り、28年にはそれが4倍に膨らむと予想されている。
テキサス州ハットーで建設が進む大規模データセンター。近年は、広い土地や電力を確保しやすいテキサスなどでの建設が増えている
データセンターの冷却塔。サーバーから出る熱を冷やすために大量の水を使う施設もあり、水資源への負担が問題視されている
騒音も問題だ。大型の冷却装置やファン、発電設備などが24時間稼働する施設もあり、低い機械音が絶えず響くとして住民が訴訟を起こしたケースもある。
そして、より大きな問題となっているのが電力だ。データセンターが消費する膨大な電力が地域の電力供給を圧迫し、住民の電気料金まで押し上げることが懸念されている。
例えば、ワシントンを含むアメリカ北東部の広域電力網を管理する「PJM」では、将来の電力需要に備えるためのコストが約22億ドルから147億ドルへと急増。その増加分の4分の3近くが、データセンター需要によるものという。
こうしたコストの増加が、最終的に住民の電気代に跳ね返るのも問題だ。
全米の家庭向け電気料金の平均単価は、20年7月から25年7月までの5年間で約32%上昇した。もちろん、値上がりすべてがデータセンターによるものではないが、それでも、急増する電力需要を誰が負担するのかは、大きな政治問題になっている。
では、それだけの負担を引き受ける代わりに、地域にはどれほどのメリットがあるのか。
アメリカ各州はこれまで、雇用や投資、税収の増加を期待して、データセンターの誘致に税制優遇措置を取ってきた。
全米最大級のデータセンター集積地であるバージニア州では、25年度だけで事業者に対する売上税などの免除額が約19億ドルに達している。州政府は、こうした優遇によって投資や雇用が増えれば、長い目で見て免税額を上回る税収が得られると試算している。
ところが、データセンターは完成後にそれほど多くの雇用を生まない。大規模施設では、建設時には1500人ほどの熟練労働者が必要になる一方、稼働後の雇用は100人程度にとどまるケースもあるという。
電力網などのインフラにも負担をかけ、巨額の税金を免除してまで誘致するメリットが、本当に地域住民にあるのか。そこには疑問の声が上がっている。
データセンターについてそうした現実がモヤモヤと立ち上がってくる一方で、反対運動は着実に広がり続けている。
少なくとも22年には、すでにデータセンターの一大集積地である北バージニアで、農地などを巨大なデータセンター群へ転換する計画を巡り、大規模な住民反対運動が起きていた。
それがAIブームとともに各地へ飛び火し、今年7月18日には初の全米規模の一斉抗議へと発展した。42州で実に142ものデモが行なわれたのである。
反対運動を追跡する「データ・センター・ウオッチ」によると、26年第1四半期だけで、少なくとも75件、総額約1300億ドル相当のデータセンタープロジェクトが、住民の反対などによって阻止、または遅延したという。
調査会社の米ギャラップが今年3月に行なった調査によると、自分の地元地域でのAI向けデータセンター建設について、アメリカ国民の71%が反対し、48%は「強く反対」と答えた。
興味深いのは、政治的な分断が深刻なアメリカで、データセンターへの反対が党派を超えて広がっていることだ。「強く反対」と答えたのは民主党支持者の56%に対し、共和党支持者でも39%に上る。反対そのものは、主要なすべての党派で過半数を占めている。
上述した42州でのデモを呼びかけたのは「ヒューマンズ・ファースト」という団体で、共同創設者はトランプ支持で知られる保守派の活動家だ。
つまり、環境問題に敏感なリベラル派だけでなく、普通ならトランプに順従する保守派からも、データセンターへの抵抗が噴き出しているのだ。
一方、AI業界の内部にも、その急激な拡大を警戒する声がある。
今年結成された政治団体「ガードレールズ・アライアンス」にはOpenAIの現職・元社員らも資金を提供し、データセンター建設など、AI企業に対するより強いルールや監督を求めている。
こうした草の根の反対運動を受け、データセンター建設をモラトリアム(一時停止)にする動きも広がっている。
米ブルッキングス研究所によると、7月末時点で少なくとも15州がデータセンター開発の一時停止を検討し、すでに全米100以上の自治体がモラトリアムを承認している。
【なぜ住民の怒りはAIへ向かうのか】
さて、資源や環境への懸念からデータセンター反対運動が起こっているのだが、実はその底流には、アメリカ国民が来たるべきAI社会に抱く不信感があることもしっかりと見据えておくべきだろう。
データセンターはAI拡大のシンボルである。人々はAIそのものを相手に戦うことはできないため、その〝代理戦争〟としてデータセンターに怒りをぶつけているという見方もある。
デジタルテクノロジー時代に入って以来、われわれは巨額の富が少数のテック富豪に集中するのを目にしてきたが、AI時代が訪れて、その景色はいっそう極端なものになっている。
象徴的なのがイーロン・マスクだろう。純資産は約8731億ドル(約140兆円)。財力だけを見れば、ちょっとした国をもしのぐようなレベルである。
しかも、テック富豪や巨大企業の力は経済だけにとどまらない。
今年の中間選挙を巡っては、企業による政治献金が6月までに6億4600万ドルに達し、すでに過去最高を更新した。その主要な資金提供元のひとつがAI業界なのだ。
そうした中、データセンター問題も今年11月の中間選挙に少なからず影響を及ぼす課題となっている。
データセンターの野放図な建設を止めることで、AIの急激な拡大に歯止めをかけたい。反対派の心の奥には、不穏な未来をどうにかして食い止めたいという必死の抵抗もあるのだ。
●瀧口範子(たきぐち・のりこ)
フリーランスのジャーナリスト。シリコンバレーと日本を往復し、テクノロジー、建築・デザイン、社会一般に関する記事を幅広く執筆。著書に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか?』(プレジデント社)、『行動主義 レム・コールハースドキュメント』(TOTO出版)、訳書に『人工知能は敵か味方か』(日経BP)など。
取材・文/瀧口範子写真/共同通信社時事通信社AdobeStock
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