憎くて愛しい母への思いが、光に向かう――「しびれ」北村匠海×宮沢りえ×内山拓也監督インタビュー

(左から)内山拓也監督、北村匠海、宮沢りえ

憎くて愛しい母への思いが、光に向かう――「しびれ」北村匠海×宮沢りえ×内山拓也監督インタビュー

9月21日(月) 10:00

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「佐々木、イン、マイマイン」の内山拓也監督、北村匠海主演の映画「しびれ」が9月25日公開を迎える。主人公・大地の青年期を演じた北村と、大地の母・亜樹を演じた宮沢りえ、そして内山監督が、公開を前に撮影の思い出を語り合った。(取材・文/編集部、撮影/間庭裕基)

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内山監督の故郷の新潟を舞台に、母に対する愛と憎しみという相反する感情に揺れる主人公の大地が、居場所とアイデンティティを模索していく様を、内山監督の自伝的作品として描き出す。大地の父を永瀬正敏、大地の少年期を榎本司、加藤庵次、穐本陽月の3人が演じた。

※インタビュー本文には一部ネタバレ描写を含んでいます。

――脚本はもちろんのこと、素晴らしい俳優陣によって一度観たら忘れられないような強度のある作品に仕上がっています。大地と亜樹という人物像は、監督と北村さん、宮沢さんがどのようなコミュニケーションを積み重ねて生まれたキャラクターなのでしょうか。

内山監督:僕自身、割と俳優とコミュニケーションをよく取るタイプですが、だからといって相手から出てこないということはありません。僕が求めている、あるいはお願いしているのは、俳優自身が見て、感じた内在的なものから出てくるものが亜樹や大地であってほしいということです。

もちろん「この役の寄り所はここだよね」とか「ここでは、こういうものを想像しているよね」という話はします。その上で自発的に出てくるものが最終的にそれぞれのキャラクターになる。その「なぜそう思うか」というプロセスのコミュニケーションはたくさん取りますが、「こういう言い方をしてくれ」とか「こういう動きをするよね」という指示はせず、心が会話すればあとは自ずと出てくる、と信じています。

――北村さんは内山監督とかねて親交があり、本作に主演することになったそうですが、脚本を最初に読まれた時の感想を教えてください。また、監督の自伝的な物語ということもあり、役柄に対するプレッシャーはありませんでしたか?

北村:内山監督からこの作品の話をもらったのはだいぶ前になるのですが、一番最初の頃の脚本と、今、この映画「しびれ」として世に出ている本は、実はかなり違うんです。僕自身、今の完成作は光に向かっていく物語として認識していますけれど、僕が初めてもらった脚本はより怒りの濃度が強かったような気がしています。内山監督が人生の中で経験してきた感情や景色、匂いなどが詰め込まれている作品なので、そこを背負うプレッシャーはありました。

決して軽くはない物語や役柄についてのプレッシャーというよりは、内山監督の人生を背負う覚悟、一緒に歩んでいく覚悟が今の自分にあるかどうか、自問自答する時間はありました。ただ、「佐々木、イン、マイマイン」も「若き見知らぬ者たち」もそうですし、「アンダードッグ」(2020、武正晴監督)という映画で内山監督と初めて出会って、その時からずっと一緒にやりたい、いつか必ずやるだろうと思っていました。その内山監督と再び出会い直した作品が監督の人生の作品だったというのは、プレッシャーというより出会うべくして出会った、その感覚の方が強かったです。

――北村さんは、昨年本作が審査員特別賞を受賞した東京フィルメックスでの登壇時に役作りのために睡眠や食事を減らし、心身ともに追い込んだ……とお話しされていました。改めて、声を出せないという役を演じるにあたって、どのように臨んだのか教えてください。

北村:脚本が変わっていく中で、手話の要素が足されたりといくつかの段階もあったのですが、最終的には筆談や携帯でのやり取りという、より削ぎ落とす形になりました。

僕はこれまでに、ドラマでろう者の役をやったり、映画「愚か者の身分」では目を失った役も経験しました。今回はろう者とはまた違う、聞こえるけれど発せないという、ある意味一番苦しい状態です。でも、難しさというよりは、逆に何かを失うと何かを得ることと同義な感じがしていて、人の言葉がより聞こえ、目に見えるものが鮮明に見える。自分の言葉で説明しないからこそ、解像度高く何かも聞こえて見えるので、お芝居自体はすごくやりやすく、のびのび演じられました。

また、「僕からノーということは絶対に言わない」と決めたんです。実際に新潟の街で撮影していたこともあり、内山監督が見てきた景色を今全員でどう捉えるか、どう見るか、どう匂いを嗅ぐか、どう歩くか。そこだけをピュアにやり続けようと。苦しい役柄でしたが、大地を演じることはすごく楽しかったです。

――内山監督が北村さんに、大地という大役を託そうと思った決め手は何だったのでしょうか。

内山監督:「目は心の窓」だという思いが自分の中にあります。匠海君に子どもたちを寄せる、あるいは子どもたちが匠海君に寄せる…そういう考えではなく、それぞれが生きていてそれぞれが大地である。その「目」を通したら僕の想像もつかない大地という人物像が見えるのではないか、その目を僕が拾い集めてわずかな演出さえできれば、その人の目で大地ということが体現できるという人を求めていました。

匠海君がなぜそんな目をしているのかは分かりませんが、僕が想像するに、幼い頃から俳優やアーティストとして、様々な角度から物事を見てきた稀有な人だからこそ、生も死も感じるような、引き込まれるような目をするんです。形容しがたいのですが、生きているし死んでいるという、その目の先に想像もしていない部分がある感じがして、とにかく彼の目を大事に撮りたいと思っていました。

そういう意味でも、大地と亜樹はスペシャルな人でなければいけない。僕の知る限りのスペシャルな人を想像したら北村匠海であり、宮沢りえだったんです。

――宮沢さんは、俳優として長いキャリアをお持ちです。今回、若手の内山監督の作品への出演を決めた理由を教えてください。

宮沢:私はとにかく内山監督の作品がすごく好きで、お話が来たら必ずご一緒したいと思っていました。まず企画書をいただいて、最終的なこの脚本になるまで――色々な旅をしているのを監督から見せていただきました。表現者として、監督として脚本でもがいている姿の過程までも共有していただいたので、内山監督がそこにたどり着くまでのエネルギーがどんどん自分の中に伝わってきました。

ですから、どんな役であれ一緒にやりたい気持ちは揺らがなかったですし、最終的にこの本にたどり着いた時には、役者としては結構過酷なシーンもあるな……とは思いましたが、私自身が生きてきた中で浄化しきれないことや消化しきれないものを、この作品に参加することで一緒に浄化させていきたいなと思ったんです。監督がここにたどり着く前にもがいたように、私も作品の中で心からもがこう、そう思いました。

――女性として、母として、つらい境遇にありながらもなんとか自分の力で生きようとする亜樹の姿に胸を打たれました。「過酷なシーンがある」とおっしゃるように、劇中後半はかなりお痩せになっていましたが、そのあたりの役作りはいかがでしたか。

宮沢:(極端な肉体改造は)あまりお勧めはしませんが……亜樹を全うするには自分なりにやるべきだと思いました。もちろんお芝居で見せることが私たちの一番大事なことですが、それまでに新潟の空気感を吸って景色を見て、大地たちと向き合ってきた亜樹を全うするために体重を落としました。でも、役者にとってはそんなこと、何でもないんです。

そこで初めて、北村さんの大地に出会うんです。私は幼少期、少年期を演じた3人の大地たちと向き合ってきて積み重ねてきたものがあったので、それをとにかくそのままぶつけようと思いました。その時に出会った北村さんの大地は、それまでの大地を演じた子どもたちの瞳と繋がっていて。最後に北村さんの大地に出会った時に、お芝居を超越して色々な感情が湧いてきました。北村さんの想像力や、幼少時代からの大地をちゃんと背負っていたからこそ、何も考えずに演じることができました。

――亜樹の服装やメイクなどの外見も含め、実際の監督のお母様に似せた部分もあるのでしょうか?

内山監督:全てにおいて再現することはしていません。ですが、自分の中にスイッチというか、自分の想像力の先、そして今対峙している世界や、役者さんの身体性を伴って初めて映画になるので、自分の想像していた範囲を超えていく世界線を構築しようという考えでした。見てきた景色と見ていない景色が合わさって、自分の中でしっくり落ちるところを見ようとしていました。

宮沢:リアリティを再現しようという考えは、もちろん監督やスタッフの中にありました。亜樹という役に監督のお母様の話はあるけれど、撮影が始まってからは、ひとつの監督の作品として息づき始めていた気がして、真似をするのではなく亜樹としてのリアリティを持って生きることが大事だったと思います。(物語の時代設定で)当時流行していたヘアスタイルやメイクを体験するのも楽しかったですよ。

――新潟でのロケ撮影のエピソードで印象深かったことを教えてください。

北村:本来の撮影であれば恵まれない天気ということになってしまうのでしょうが、この「しびれ」においては、雪や雨や曇り空が恵みでした。土地が僕らに微笑んでくれているとしか思えない景色で、忘れられないです。実は撮影中、車が故障して動かなくなった時があったのですが、大地たちの命の炎のように、車もあそこで燃え尽きて止まって、後に繋がっていくという奇跡のような出来事もありました。

内山監督:カメラマンも「どこへ行ってもいい、僕が記録するからついていく」と言ってくれたシーンでしたね。

宮沢:プレハブの家がある場所が海の目の前で、日本海の灰色の強い波がずっと押し寄せていました。毎日のようにそのグレーの色の中に自分の心が染まっていく感じがして、すごくつらい時もありました。

でも最終日、二人のシーンが終わった後に「幸せな二人でいてほしい」という監督からのリクエストでポスター撮影をした時、少し場所は違いましたが同じ海が全く違う景色に見えたんです。「同じ日本海なのに、幸せだとこんなにも景色が違って見えるんだな」というのが印象的でした。

あと、容赦ない寒さだったのにスタッフさんたちが全く寒そうではなかったことが心に残っています。作品への集中力、ものすごい熱量が燃えていたからこそ、寒さを感じずにいられたのだなと思いました。

―― 最後に、これから映画をご覧になる方へのメッセージをお願いします。

内山監督:お二人の話を聞いて、撮影時のことを懐かしく思い出しています。特に、りえさんは全体の撮影期間を通して現場にいらっしゃった唯一の方なので、一緒に全ての場所を見てきた思い出が宝物です。

自分の過去と握手して、みんなと抱きしめ合った作品です。抱きしめて前に進むというメッセージを、僕は映画を作る上で初めて込めました。いつもは、自分の作品にメッセージは込めずに目の前で立ち上がっていく瞬間を見つめるということをしてきましたが、初めて希望や明日といった言葉を本気で込めた映画にしたつもりです。友人でも恋人でも親でも誰かに連絡したり会いたくなったりする――そんなきっかけになる映画になればうれしいです。

ある映画が終わり、映画館を出て自分の生活に戻っても、ふとした時に、旧知の友人や知人を思うように「あの人は今、どうしているだろうのか?」そんな風にいつまでもスクリーンの中の人物たちのことを考えてしまう作品がある。「しびれ」はそんな映画だ。不器用ながらも懸命に生きた親子の姿、そして大地の心象とも重なるような、フィルムで記録した鈍色の新潟の景色もぜひスクリーンで体験してほしい。9月25日全国公開。

【作品情報】
・しびれ

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北村匠海/ヘアメイク:小原梨奈、スタイリスト:丸尾里奈 宮沢りえ/ヘアメイク:黒田啓蔵、スタイリング:佐々木敬子(AGENCE HRATA) 内山拓也監督/スタイリング:入山浩章
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