バスが遅れているのは、運転手のせいではない。頭ではわかっていても、車内で突然、怒鳴り声が上がる場面に出くわしたことのある人は少なくないのではないでしょうか。
国土交通省近畿運輸局が近畿圏の交通事業者を対象に行い、2026年3月に公表した調査では、乗合バスの運転手などの42.5%が、過去3年間に利用者からの暴言や威圧的な言動を受けたと答えています。
今回ご紹介するのは、過去に大きな反響を呼んだ人気記事から、その怒りの矛先が運転手ではなく、たまたま乗り合わせた自分に向いてしまった女性の話です。しかも降りたあとに、さらに思いもよらない展開が待っていました。
記事の後半では、こうしたトラブルの意外な実態と、2026年10月に始まる新ルールについてもご紹介します。
***
時間に余裕を持ってバスに乗り込むことに
バスはその日の天候や交通渋滞に左右されるので、予定時刻に遅れることも珍しくありません。会社員の町田薫子さん(仮名・35歳)は通勤時間帯のバスの中で、思いもよらない出来事に遭遇した経験があると語ります。
「ある日、バスに乗るなり、大きな怒鳴り声をあげる男性に出くわしました。すると、目が合ったと勘違いした相手に言いがかりをつけられてしまって……」
その日は、初めて会社に出勤するということもあり、早めに家を出たそうです。
「結婚を機に仕事を辞めたのですが、このたび子どもを保育園に預けて働き始めることにして。やっとの思いで就職先を見つけ、初出勤の日は余裕を持って早めにバスに乗り込みました」
バスの到着は少し遅れており、座席がいっぱいだったのでつり革を持って立つことにしたと言います。
大声で不満をぶちまける男性が現れて…
「すると、次のバス停で50代くらいの男性が乗車してきました。彼はすぐに『バスが10分も遅れているじゃないか!』と大声で怒鳴り散らして。静かな車内に響き渡るように何度も舌打ちを繰り返したのです。そのあまりの剣幕に驚いて、私は彼の姿をふと見てしまいました」
そうすると、にらみつけられたと勘違いした相手がグッと近づいてきたのだとか。
「彼は、怒りで血走った目で『何見てんだよ!俺にケンカ売ってんのか』とたんかを切りました。私は、どうにかこの場を乗りきろうと『そんなつもりはなかったんです』『気に障ったのなら謝ります』とひたすら相手をなだめて。あまりにも詰め寄ってくるので『誰か助けて』と、いつ声をあげようかと悩んだくらいです」
助けてくれた男性の言葉に衝撃
次の瞬間、近くにいた30代くらいの男性が助けに入ってくれたそう。
「すぐさま『八つ当たりするのもいい加減にしろ』『バスが遅れるなんてよくあることだ』と50代くらいの男性を叱り飛ばしてくれました。そして、最後に、痛いところをつかれてぐうの音も出ない彼に『こんなオバサン相手に大声を出すことはないだろう』とダメ押ししたのです。私のために相手を厳しく注意してくれたものの、同世代と思われる男性に“オバサン”呼ばわりされたことにショックを隠し切れませんでした」
その後、50代くらいの男性はすぐに黙り込んだと言います。でも、悲しげな薫子さんの顔を見て「ざまあみろ」と言わんばかりにニヤニヤ笑っていたのだとか。
「このタイミングで、会社が近くなったのでバスの降車ボタンを押しました。けれども、50代くらいの男性が目の前に居座るので『降りるのでそこを通してください』と声をかけたのですが……。なぜか彼はモタモタするばかりで一向に動こうとしません。一体何がしたいのかと思い内心いらいらしました」
すると、さっきまでやり合っていたせいか、運転手が「これ以上、揉め事を起こすようなら二人ともバスを降りてください」とアナウンスしたと言います。
話し合いを申し出たものの…
「彼の煮え切らない態度にだんだん嫌気が差してきました。まだ出社まで時間があったため『他の人に迷惑がかかるので、降りて話をしましょう』『不満があるのなら、私が話を聞きますよ』と声をかけたのです。そしたら、50代くらいの男性は『そんなこと言われなくても、最初から俺はここで降りるつもりだったんだ』とにらみつけてきて。『オバサンに用はない』と捨て台詞を吐いたものの、私にダメージを与えるために発言したことが見え見えでした」
相手がわざと「オバサン」という言葉を使ったと気がついたので、薫子さんはめげずに「なんて頑固なオジサンなの」と反撃したそう。同じバス停に降りる割には「行動を起こすのが遅い」と感じたのだとか。
「結局、私と50代くらいの男性はそのバス停で一緒に下車しました。しかし、降りるなり、彼はそそくさと逃げてしまって。初出勤なのに思わぬ形でトラブルに巻き込まれ、かなりむしゃくしゃしていたので、いったん心を落ち着かせるため近くのコンビニに寄ることにしました」
そこのイートインでコーヒーを飲んでから、薫子さんは気持ちも新たに出社したと言います。
新しい会社で挨拶、まさかの上司が…
「早速、職場の人たちの前で挨拶をすることになりました。『本日付で入社いたしました町田薫子です。結婚を機に退職したのですが、今回ご縁がありこちらで働かせていただくことになりました』『一生懸命頑張りますので、ご指導のほどよろしくお願いします』と自己紹介をして。
その後、社長に『この人が君の上司だよ』と紹介されてびっくり。なんとさっきバスでケンカになった50代くらいの男性じゃないですか。まさか同じ会社だったとは夢にも思っていませんでした。今までの振る舞いを見るに、とてもいい上司とは思えず……。入社したばかりなのにすでに先が思いやられます」
信じがたい現実を目の当たりにした薫子さん。もう二度と同じ時間帯のバスには乗るまいと思っていたものの、相手が同じ職場となると、嫌でも顔を合わせることになるでしょう。これから長いお付き合いになるので、つかず離れずの距離感を心がけたいところです。
<取材・文/菜花明芽>
***
■怒鳴り声は「日中の車内」で起きている
冒頭でも触れたように、薫子さんが遭遇したトラブルは、決して珍しい光景ではありません。
先の調査を詳しく見ると、被害の76.3%が平日9時〜18時に発生。深夜の酔客というイメージとは違い、通勤・買い物といったごく普通の時間帯に集中しています。被害の内容も、暴言・暴力が57.3%と最多で、薫子さんが遭遇したような大声で怒鳴りつける行為が、現場の疲弊の中心にあることがうかがえます。
ちなみに同じ調査では、こうした場面を「見たことがある」という利用者は15.7%にとどまりました。報告書は、問題が起きていないのではなく「見えにくい課題」だと指摘しています。薫子さんは、その少ない目撃者のひとりだったわけです。
そして2026年10月1日からは、改正労働施策総合推進法により、企業にカスタマーハラスメント対策が義務づけられます。国が示す指針で典型例に挙げられているのが「大きな声をあげて労働者や周囲を威圧すること」。バス会社も、運転手を守る措置を取ることが求められます。
怒鳴っても、バスは早く着きません。そして薫子さんのように、降りたあとに誰と顔を合わせることになるかは、誰にもわからないのです。10分の遅れに払う代償としては、少し大きすぎる気がします。
<再構成/日刊SPA!編集部>
【菜花明芽】
ライター。ゾッとする実録記事を中心に執筆中。カフェでのんびり過ごすことが好き。
【関連記事】
・
「ウチの駐車場を勝手に使っていた」隣人の年配女性に怒り心頭。防犯カメラの映像を突きつけた結果…/駐車違反の取り締まり、最近は増えたのか減ったのか調べてみた
・
電車内は満席状態なのに…「通路をふさいで酒を飲む若者4人組」を追い払った60代男性の“静かな一言”/電車内で迷惑がられている行為ランキングを調べてみた
・
義父の葬式に次々とやってくる“強面の男”たち…「隠しててごめん」妻が明かした義父の正体とは?/葬儀に関するトラブル相談はどれくらいあるのか調べてみた
・
軽自動車に“あおり運転”したハイエースの末路。片側一車線を突き進んで「ざまあみろ!」/ドライバーが知っておきたい、2026年にスタートした新ルール2つ
・
駅の券売機で何度もやり直す“80代男性”。善意で「代わりに切符を買ってあげた」結果、まさかの一言/駅の「みどりの窓口」はどれくらい減ったのか調べてみた