東京・千駄木の「蛸八」さんへ
「もやしソバ」をこよなく愛するピエール瀧が、名店をめぐりながら、もやしソバとは何なのかを考えたり考えなかったりするこの連載。今回は下町情緒が残る街、東京・千駄木にやって来ました。そして、そこにはやはり人情に厚いお店があったのです。気取らずに食べるもやしソバで、ほっこりしてください。
***
――今回は東京・千駄木の「蛸八」さんです。たこ焼きのお店じゃありません。中華料理店です。
ピエール瀧(以下、瀧)
そうだろうけど、なんで蛸八っていう名前なんだろう?とにかく入ってみよう。おじゃましまーす。
店主の五十嵐さん(以下、五十嵐さん)
いらっしゃいませ。
瀧
中華料理屋さんなのに「蛸八」っていう名前なんですね。
五十嵐さん
よく聞かれるんですけど、うちのおじいちゃんが昔、東京大学の前(本郷)で屋台のおでん屋をやっていたんですよ。
瀧
それはまた、風情があっていいですね。屋台でコップ酒を飲んで、おでんをつまむ。
五十嵐さん
でも、国や都などが屋台をなくそうという方針になって、この場所(千駄木)を用意されたんです。もちろん、土地はタダじゃなくて、お金を払って買ったそうなんですけど......。それが昭和25(1950)年頃です。
瀧
なるほど。じゃあ、そのときの屋台の名前が「蛸八」だったわけですね。きっとタコのおでんが売りだったんでしょうね。
五十嵐さん
そうです。おでん屋の常連さんが、名前を変えたらわかんなくなるからって、そのままにしたようです。
瀧
で、ここに移ってきて、おでんから中華料理店になったと。
五十嵐さん
いや、もともと中華料理店で修業をしていたんですけど、屋台だと中華ができないということで、おでんをやっていたみたいです。
瀧
じゃあ、念願かなってやっと中華料理店を出せたわけですね。
五十嵐さん
はい。ここは「すずらん通り」っていうんですけど、昔はスナックとか飲み屋さんがもっといっぱいあったんですよ。
瀧
お店がすずらんの花みたいにたくさん並んでるから、すずらん通りなんでしょうね。で、スナックで飲んできた人が最後にここに来てラーメンを食べるみたいな。
五十嵐さん
そうですね。
瀧
じゃあ早速、そのラーメンをいただくことにします。まずはもやしソバなんですけど、看板に「かくれた人気もやしそば」って書いてありますよね。しかも、800円って安いですよ。
五十嵐さん
ええ。
――なんと、お店のメニューにある普通の「中華そば」(800円)と同じ値段ですよ。
瀧
ありがたいねえ。値段が一緒なのは、なんでですか?
五十嵐さん
もやしはそんなに値段が高くないですから。
瀧
とはいえ、ひと手間かかるわけですよね。
五十嵐さん
それはしょうがないです。
瀧
そうなると、やっぱりもやしそばを頼む人が多くなりますよね。ちなみに、かくれていない人気ナンバーワンのメニューは?
五十嵐さん
平日の昼だとセットメニューがよく出ますね。
――「ラーメン+半チャーハン」「ラーメン+ミニマーボー丼」「ラーメン+ミニナス丼」があって、どれも1100円です。
五十嵐さん
はい。でも、平日の昼だけは、100円引きの1000円で出しているんです。
瀧
平日の昼はサラリーマンの人とか、働いてる皆さんが来るからですよね。優しいなあ。で、このナス丼っていうのが気になるんですけど、どんな感じなんですか?
五十嵐さん
ナスのあんかけご飯です。
瀧
それは気になりますねえ。じゃあ、もやしそばとミニじゃない普通のナス丼(900円)をお願いします。
五十嵐さん
はい。承知しました。
瀧
なんか、こぢんまりしていて落ち着くお店だよね。
――麺類は、中華そば、もやしそばのほかに「タンメン」(900円)や「五目そば」(950円)なんかもありますね。
瀧
ほかにも「レバニラ炒め」(750円)、「麻婆豆腐」(750円)、「野菜炒め」(750円)などもある。レギュラー感のあるお店だわ。
――きっと地元の人がよく食べに来るんでしょうね。
五十嵐さん
お待たせしました。
「もやしそば」(800円)
瀧
ありがとうございます。まずはもやしそばから。具はもやし、ニンジン、キクラゲ、細切りの豚肉かな。で、とろみはなし!
――スープはどうですか?
瀧
どれどれ......。うまい!スープは醤油ベースのあっさり系なんだけど、上にのってるもやしが単品のもやし炒めになるくらいの味だから、あっさりスープとのマッチングがすごくいいんだよ。
――麺は?
瀧
細麺のストレート。で、それぞれがへんに主張することがなく、バランスの取れた町中華のど真ん中といった感じ。好きだわ~。
バランスが取れていて、町中華の「ど真ん中」といった感じのもやしソバ
――ナス丼はどうですか?
瀧
ナス丼もすごくいい香りがする。そして、うまい!初めて食べる味だ。ナス丼は昔からあるメニューなんですか?
シンプルであっさりした味。下町に似合う「ナス丼」(900円)
五十嵐さん
僕が開発したんです。
瀧
そうなんですか。でも、なんでナス丼なんですか?麻婆ナス丼でもいいのに。
五十嵐さん
麻婆ナス丼よりも、サッパリした味のほうがいいかなと思ったんです。
瀧
なるほど。こんなこと言うと失礼かもしれませんが、ナス丼は、下町にピッタリな味という感じがしますよ。めっちゃ、うまいし。
五十嵐さん
今のラーメンとか中華料理って、なんか凝りすぎてる気がするんですよ。それよりもシンプルなほうがいいかなと思って。
瀧
確かに、どこどこの小麦を使った麺ですとか、こだわりの製法で造った醤油を使ってますとか、なんか食べる側もなんとなくありがたがって食べなくちゃいけない感じもありますよね。
五十嵐さん
ええ。だから、気取らないで楽に食べてもらいたいと思ってるんです。
店主の五十嵐さん(中央)と看板娘(!?)のお母さん
――瀧さん、もやしそばもナス丼も完食してるじゃないですか!
瀧
うん。おいしかったし、なんか正気に戻る味なんだよ。読者の皆さんには、ぜひ気取らないもやしそばとミニナス丼セットを食べてもらいたいな。平日昼は100円引きみたいだしね。
***
■蛸八
東京都文京区千駄木3-44-10
03-3821-2795
※営業日時、メニュー、価格などは変更になる場合があります
※おいしいもやしソバなどの情報は
【moemoyashisoba@gmail.com】
まで
■ピエール瀧(ぴえーる・たき)
1967年生まれ、静岡県出身。ミュージシャン、俳優、声優、タレント。
「無駄こそ宝なり」が信条。好物はもやしソバ。
公式Instagram【@pierre_taki】
構成/TAKA-HO
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