推理小説の巨匠・横溝正史が生み出した名探偵・金田一耕助は、今年で初登場から80周年を迎えた。9月18日には、「呪怨」シリーズの清水崇監督がメガホンをとり、尾上松也が金田一に扮する完全新作「八つ墓村」が公開される。
金田一映画の歴史は1947年の「三本指の男」(片岡千恵蔵主演/原作「本陣殺人事件」)にさかのぼるが、私たちの知る“お釜帽子に袴姿”の金田一が定着したのは1970年代のこと。本記事では、その転換期にあたる1975年以降に劇場公開された金田一耕助映画13本を紹介する。
※【あらすじ】は事件の発端までにとどめ、真相には触れていません。
●「本陣殺人事件」(75)
【作品概要】
原作における金田一の初登場作品で、第1回探偵作家クラブ賞(現日本推理作家協会賞)受賞作を映画化。地方の由緒正しい旧家で起きた“密室殺人”を描いたミステリーで、自主映画出身の高林陽一が脚本・監督を手がけ、これが初の商業映画監督作となった。音楽は大林宣彦。金田一を演じたのは中尾彬で、ジーンズにデニムのベストというスタイルで、時にサングラスもかける型破りな探偵像は、後の横溝ブームに先駆けるものだった。
【あらすじ】
三方を山に囲まれた小集落。江戸時代からの宿場の本陣であり、この地方きっての旧家である一柳家で、長男・賢蔵の婚礼が営まれた。相手は高校教師の久保克子。身分違いと反対する周囲を、賢蔵が押し切っての結婚だった。四月も末だというのに雪の降り始めたその日、式はとどこおりなく済み、新郎新婦は母屋から庭ひとつ隔てた離れで床に就く。そして午前4時15分――。
●「犬神家の一族」(76)
【作品概要】
角川春樹事務所が製作した、角川映画の記念すべき第1作。監督は市川崑、金田一を演じたのは石坂浩二。原作通りの“よれよれの袴にもじゃもじゃ頭”の金田一が初めてスクリーンに現れた作品であり、書店での原作フェアやTVCM・ラジオスポットを大量投下したメディアミックス展開も奏功して大ヒットを記録。横溝正史ブームを巻き起こした。市川監督の「映画は光と影」というモットーのとおり、徹底的にこだわり抜かれたライティングと、豪華な美術にも注目してほしいが、中でも犬神家の一族が勢ぞろいした大広間での遺言状開封のシーンは、超高速のテンポでカット割りされており、今見ても色あせない。今年5月に世を去った大野雄二さんが手掛けた音楽も見どころのひとつです。
【あらすじ】
日本の製薬王といわれた信州・犬神財閥の創始者、犬神佐兵衛が、自らの死後の骨肉の争いを予期したかのような不可解な遺言状を残して他界した。犬神家の顧問弁護士の助手・若林は、莫大な遺産相続をめぐる一族の不吉な争いを予見し、金田一耕助に助力を求める手紙を送る。だが若林は、那須に着いた金田一と顔を合わせぬまま、何者かに毒入り煙草で殺害されてしまう。奇怪な連続殺人事件は、この死から第一幕が切って落とされた。
●「悪魔の手毬唄」(77)
【作品概要】
「犬神家の一族」のヒットを受け、配給元の東宝が自社製作で急遽シリーズ化を決定して生まれた第2作。重要な登場人物である青池リカ役には、当時フランス在住だった岸恵子を、市川監督が国際電話で口説き落として起用。磯川警部には、東映の任侠映画の看板スターだった若山富三郎を配した。
【あらすじ】
古い因襲に縛られ、文明社会から隔離された岡山と兵庫の県境、四方を山に囲まれた鬼首村。この村を二分してきた由良家と仁礼家の勢力争いは、二十年前、恩田という詐欺師に由良家がだまされて以来、大きく傾いた。その渦中で、亀の湯の源治郎が判別のつかない死体で発見される。事件を執念で追い続けてきた磯川警部は、謎を解くため金田一耕助に調査を依頼した。そして村では、人気歌手となった娘の里帰りを祝う席で、第一の殺人が起こる――。
●「獄門島」(77)
【作品概要】
シリーズ第3作。脚本は市川と脚本家・日高真也の合作名義である久里子亭(アガサ・クリスティをもじったペンネーム)。封建的な古い因習の中で本鬼頭と分鬼頭が対立する獄門島を舞台に、俳句の見立てになぞらえた連続殺人が展開する。第1回日本アカデミー賞で監督賞(市川崑)、助演男優賞(加藤武)、技術賞(村木忍)にノミネートされた。
【あらすじ】
終戦から一年たった、昭和21年9月下旬。戦地から帰国の途中、引き揚げ船の中で、「死にたくない。おれが帰ってやらないと、三人の妹たちが殺される」と故郷の妹たちを憂いながら死亡した鬼頭千万太の遺書を友人から預かった金田一は、それを獄門島の千光寺・了然和尚へ届けにやってきた。島へ来て三日目、千万太の通夜の日に、三姉妹の三女・花子の姿が忽然と消える。その夜、千光寺の梅の古木に、帯で逆さ吊りにされた花子の死体が見つかる。
●「八つ墓村」(77)
【作品概要】
石坂金田一がブームを巻き起こすさなか、松竹が製作した一本。脚本は「七人の侍」など、黒澤明作品を多く手掛けた橋本忍、監督は「砂の器」の野村芳太郎。金田一役を渥美清が務め、麦わら帽子に開襟シャツという“放浪の旅人”のような風貌で、物語の狂言回しに徹する姿が新鮮だ。実在の“津山事件”をモデルにした村人の惨殺シーンは、横溝作品の中でも壮絶な修羅場となっている。惨殺者・多治見要蔵を演じた山﨑努の怪演、落ち武者を演じた夏八木勲、田中邦衛らの最期は強烈な印象を残す。
【あらすじ】
羽田空港で国際線発着誘導員として働く寺田辰弥は、奇妙な新聞の尋ね人欄の呼びかけに誘い込まれるように、大阪北浜の法律事務所を訪ねる。そこで初めて会った母方の祖父・井上丑松は、その場で何者かに毒殺されてしまう。見えない血縁の糸にたぐり寄せられるように、辰弥は未亡人・森美也子の案内で、自らの生まれ故郷である八つ墓村へと向かう。四百年にわたる怨念が息づくその地で、血腥い殺人事件が続発する。
●「女王蜂」(78)
【作品概要】
市川崑×石坂浩二による金田一シリーズ第4作。ヒロインには、松竹の二枚目スター・佐田啓二の遺児である中井貴恵(中井貴一の姉)を大型新人として起用した。さらに市川のアイデアで、「犬神家の一族」の高峰三枝子、「悪魔の手毬唄」の岸惠子、「獄門島」の司葉子という過去3作の主演女優が勢揃いし、そこに仲代達矢が加わるという、シリーズ随一の豪華キャストが実現。前作「獄門島」を上回るヒットとなった。
【あらすじ】
昭和27年、伊豆天城の月琴の里。大道寺家の大時計の中で、当主の娘・智子の求婚者のひとりである遊佐三郎が、廻る歯車に体を引き裂かれて死んでいた。しかも遊佐のポケットには、智子からの誘いの手紙が入っていたのだ。金田一耕助は事件直後、京都の弁護士の依頼を受け、19年前に起きたある事件の真相を調査するため大道寺家を訪れる。絶世の美女をめぐる求婚者たちの死は、なおも続いていく。
●「悪魔が来りて笛を吹く」(79)
【作品概要】
角川春樹事務所の企画でありながら、製作は東映。金田一に西田敏行を迎え、人間味あふれる三枚目の探偵像を打ち出した。脚本は「柳生一族の陰謀」の野上龍雄、監督は「太陽にほえろ!」などテレビシリーズで手腕を発揮してきた斎藤光正。原作者の横溝正史、企画の角川春樹も出演している。
【あらすじ】
昭和22年、銀座の宝石店で店員数名が毒殺され、宝石が奪われる凶悪な事件が発生する。犯人と酷似していた元子爵・椿英輔は容疑者の一人として取り調べを受けるが、関西旅行中だったアリバイが立証され釈放される。だが英輔は、「父はこれ以上の屈辱に耐えていくことができない。ああ、悪魔が来りて笛を吹く」という謎の遺書を娘の美禰子に残して失踪してしまう。父の無実を信じる美禰子は、金田一耕助に調査を依頼した。
●「病院坂の首縊りの家」(79)
【作品概要】
市川崑監督・石坂浩二主演による70年代シリーズの最終作。原作でも、金田一耕助がこの事件の解決を機に姿を消す“最後の事件”として知られる一編だが、原作と映画で犯人が違うのも見どころ。シャンデリアの鎖に風鈴のように吊るされた生首という強烈なイメージをはじめ、ショッキングなシーンがが連続する。
【あらすじ】
昭和26年、渡米を控えた金田一耕助は、久しぶりに昔馴染みの老推理作家を訪ね、パスポート用の写真屋を紹介される。本條写真館を訪れた金田一は、経営者の徳兵衛から「最近、誰かに狙われているようだ」と調査を依頼された。その夕方、ある少女が結婚写真の撮影依頼にやってくる。指定された場所は、明治から終戦直前まで栄えた病院の跡地――終戦の翌年にある女性が縊死したことから“首縊りの家”と呼ばれる廃屋だった。
●「金田一耕助の冒険」(79)
【作品概要】
テレビドラマ版で金田一を当たり役としていた古谷一行が、映画で唯一金田一を演じた作品。横溝の短編「瞳の中の女」を下敷きに、後に「転校生」(82)「時をかける少女」(83)を手がける大林宣彦が監督したパロディ満載のコメディで、シリーズ屈指の異色作。撮影は木村大作。古谷が袴姿でローラースケートを履いて疾走する場面もある。無声映画パートでは、三船敏郎が金田一に扮するという遊び心も。
【あらすじ】
いまや有名人と化した金田一耕助は、今日も盟友・等々力警部とグラビアの撮影に臨んでいた。ある日、散歩をしていた金田一は、突然現れた謎のローラースケート軍団に拉致されてしまう。その正体は、美術品専門の窃盗団「ポパイ」。軍団を率いるマリアは、金田一の大ファンだった。やがて彼女は、かつて金田一が唯一真犯人を突きとめられなかった「瞳の中の女」事件の鍵を握る石膏像の首を持ち込んでくる。
●「悪霊島」(81)
【作品概要】
横溝正史の最後の長編小説を、原作発表から間もなく映画化した角川映画。監督は篠田正浩、撮影は宮川一夫という布陣で、金田一を鹿賀丈史が演じた。ジョン・レノン暗殺のニュースを聞いた人物の回想から物語が始まる構成に改められ、ビートルズの「レット・イット・ビー」「ゲット・バック」が使用されたが、ソフト化の際、権利上の都合でカバー音源に差し替えられた。
【あらすじ】
アメリカ帰りの億万長者・越智竜平から尋ね人の依頼を受け、金田一耕助は岡山へ赴く。だが、その尋ね人はすでに怪死を遂げていた。真相を究明すべく金田一が渡ったのは、瀬戸内海に浮かぶ刑部島。そこはつい先ごろ、ある男が「鵺の鳴く夜には気をつけろ」という謎めいた言葉を遺して死去していた島でもあった。島を牛耳る刑部家の人々と出会った金田一を、やがて連続殺人事件が待ち受ける。
●「八つ墓村」(96)
【作品概要】
市川崑が金田一映画6本目として手がけた、東宝版「八つ墓村」。脚本は市川と大藪郁子、撮影は「忠臣蔵 四十七人の刺客」の五十畑幸勇。金田一を演じたのは、186センチの長身を誇る豊川悦司で、スタイリッシュかつ冷徹な美しさをまとった新しい金田一像をつくりあげた。共演は浅野ゆう子、高橋和也、岸田今日子、岸部一徳ら。
●「犬神家の一族」(06)
【作品概要】
1976年の角川映画第1作を、市川崑監督・石坂浩二主演という当時のコンビのまま、30年ぶりにセルフリメイクした一本。プロデューサーは「呪怨」「リング」の一瀬隆重が務めた。第19回東京国際映画祭のクロージング作品として上映され、市川監督の遺作となっている。76年版で大滝秀治や加藤武が演じた役どころが引き継がれるなど、旧作を知るファンへの目配せも。本作をもって、石坂は計6作で金田一を演じたことになる。
●「八つ墓村」(26)
【作品概要】
過去にも数多く映像化されてきた横溝の代表作を、「呪怨」シリーズの清水崇監督が完全新作として映画化。新たな金田一耕助を演じるのは、歌舞伎や映画、ドラマで活躍する尾上松也。共演に奥智哉、堀田真由、髙嶋政伸、高島礼子、滝藤賢一ら。清水監督は「新解釈やオリジナル展開を盛り込みながらも、現代にこそ通じる人の闇と業を描いた」とコメントしている。
【あらすじ】
就職の内定も得られず、彼女もいない大学生の井川辰弥のもとに、母の訃報が舞い込む。辰弥は一風変わった探偵・金田一耕助に誘われ、岡山県の山奥に潜む、亡き母のルーツである「八つ墓村」を訪れる。名家・田治見家の莫大な遺産の相続人である辰弥の来訪に合わせたかのように、村では不可解な連続殺人事件が発生。辰弥は母のルーツをたどるなかで、金田一とともに事件に巻き込まれていく。
【作品情報】
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八つ墓村
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