「スパニッシュ・アパートメント」「ダンサー イン Paris」のセドリック・クラピッシュ監督が、ある家族に遺された古い屋敷と1枚の絵画をめぐる謎を描いた映画「モネと時間旅行」が公開された。
現代と19世紀ベル・エポックというふたつの時代を交差させ、劇中には印象派の巨匠モネをはじめ、ルノワール、セザンヌら実在した芸術家たちと絵画が登場。パリやノルマンディーの景色とともに、時間を超えた人間たちの営みに思いを馳せることができる、芸術の秋にぴったりなドラマだ。クラピッシュ監督が映画.comのオンラインインタビューに応じた。
※インタビュー本文にはネタバレ描写を含んでいます。
――ベル・エポックの時代と現在の家族の物語をシームレスにつなげるというアイデアは、どこから来たのでしょうか。
最初は写真のことや、写真が芸術や絵画にどのような影響を与えたかという変化について、現実的な描写をするつもりでスタートしたんです。ですが、共同脚本家と話しているうちに「1895年という枠組みだけで語るのではなく、現代とシームレスに交互に語るのが良いのではないか」という話になりました。廃墟になった家、そこに残された古い写真、そこから展開していく家族の物語――という流れになり、今回の時代を行き来する構成になりました。
――監督ご自身も、ご自身のルーツをたどったり、遺産相続などで調査を試みたりされた経験はあるのでしょうか。その際のエピソードなどがあれば教えてください。
個人で家族のルーツ探しや遺産相続の調査をしたわけではないのですが、今回のインスピレーションソースの一つに、私の家族に語り継がれているフォトアルバムがあります。母方の祖父がとても写真好きで、母が9歳になるまで、そして彼が第2次世界大戦で亡くなる直前まで撮り続けていたアルバムなんです。彼の若い頃や母の幼少期の写真が残されていて、私にとってとても感動的なものでした。それが今回の作品のインスピレーション源の一つになっています。
――それは素敵なお話ですね。本作の日本公開時のタイトルは「モネと時間旅行」で、劇中にも印象派の絵画がたくさん登場します。選ばれた絵画はどのような基準で選ばれたのでしょうか。
印象派の画家のなかで、私の一番のお気に入りはやはりクロード・モネでした。リサーチを進めるうちに印象派という言葉のルーツになったのが彼の作品(「印象・日の出」)だと知り、とても感動しました。彼がその絵を生み出しているまさにその瞬間を今回の作品でも取り上げていますが、そこに強く胸を打たれます。
芸術家が何かをクリエイトしている瞬間というのは、「これで芸術に革命を起こそう」などと考えているわけではなく、軽い気持ちで描いていたりするものです。しかしモネの場合、「印象・日の出」という絵が印象主義を生み出し、美術における絵の描き方を大きく変えることになりました。
芸術の生まれる瞬間というのは、往々にして本人の何気ない一歩から始まっています。最近ピーター・ジャクソン監督によるビートルズのドキュメンタリーを見たのですが、彼らも「Let It Be」のような名曲を「さあ大傑作を作るぞ」と意気込んで作ったのではなく、鼻歌交じりにメロディーを作っていたんですよね。芸術が生まれる瞬間はそれほど肩に力が入ったものではないというところも、今回見せたいと思いました。
――おっしゃるように、「印象・日の出」に関するエピソードは象徴的でしたね。モネの絵画(複製)を使用するにあたって、モネ財団やご遺族に許可を取られたのでしょうか。
実はクロード・モネには1960年代頃に直系の子孫がいなくなってしまったんです。そのため遺族に意見を聞くというよりは、彼の絵画を所有している美術館の方々に許可を取ることになりましたが、ほぼ快諾でした。彼らは私がこれまでどのような作品を撮ってきたかを知っていたので、「モネの名誉を傷つけるようなことはしないだろう」と、割とすぐに許可をいただけました。
美術史家や美術館勤務の方々の反応としては、自分たちが研究している時代が再現され、映画の中で時間旅行ができるということで、彼らのファンタジーが映画化されたようだと非常に喜んでくれました。
唯一フィクションを取り入れたのは、アデルがモネの非嫡出子(正妻との間の子ではない子ども)であるという設定です。これはこの物語の上での、私の創作です。
――その部分はセンセーショナルな描写でしたので、少し気になっておりました(笑)。今回、本格的な時代劇は初めてかと思いますが、どのような経験になりましたか。また、今後も時代劇に挑戦されたいですか。
時代劇やコスチュームプレイを映画化する際は、写真や絵画など多くのリサーチが必要です。それを一つひとつ細かく描くというよりは、その時代を代表する「一つのスタイル」を見つけ出さなければいけません。大変ですがとても快適で楽しい作業でした。
ただ、スタイルを生み出すには非常に時間がかかります。そういった意味では、すぐにまた時代劇に挑戦するわけではなく、しばらくは何年か挑戦しないと思います。しかし、1900年以前のパリという、文化・技術・政治が活況を呈した時代に没頭できたことは素晴らしい経験でした。
これはフランスに限らず、どの国にも社会や文化が活性化していた時代があると思います。例えば日本で言えば1980年代や1990年代は文化が非常に盛況だったのではないでしょうか。フランスに日本料理が導入されたのも1980年代ですし、ヨウジヤマモトやイッセイミヤケといったファッションが発見されたのもその時代ですよね。1900年以前のパリが世界に向けて文化を発信したように、どの国にもそういった時代があるのだと感じます。
――過去のパートを演じた若い俳優陣に対して、当時の話し方や仕草を演じてもらうにあたり、どのようなアドバイスをされましたか。
当時の写真をたくさん見ること、そして当時を描いた小説を読むように伝えました。言葉遣いに関しては、現代的なアクセントやスラングは絶対にやめてほしいと伝えました。フランス語も150年前とはかなり違いますからね。
ただし、昔の映画などを観てコピーすることは求めませんでした。それよりもシンプルにその時代の人物になりきって話すことで、時代を超えた普遍性が生まれるのではないかと考えたからです。あえて真似のようなことはさせませんでした。
――美術セットや衣装、言葉遣いなど、時代考証の専門家は入られたのでしょうか。
言葉に関しては専門家に助言を仰ぐことはせず、衣装や美術セットに関して専門家の意見を取り入れました。間違いがあってはいけない部分ですからね。
私がいつも考えているのは、時代劇であっても、例えばスタンリー・キューブリックの「バリー・リンドン」やミロス・フォアマンの「アマデウス」のように、描かれている時代は過去であっても、映画を通して監督自身が生きる現代について語っているということです。時代背景というのは、自分の時代について語るためのフィルターのようなものだと考えています。
――撮影に関して、現代パートと過去パートで特にこだわった点や工夫された点を教えてください。
過去パートと現代パートは明確に分けて捉えていました。過去のパートに関しては即興(アドリブ)は一切なしです。しっかりとストーリーボードを描き、色彩や美術も綿密に決め込んで作り込みました。
逆に現代パートはもっと自発的で自由です。デジタルカメラで撮影し、その場で湧き上がるアイデアを取り入れていきました。
作り込んだ過去パートの色彩についてですが、デジタル撮影特有の冷たさや無機質さが出ないよう配慮しました。初期のカラー写真技術であるリュミエール兄弟の「オートクローム」のような、少し色が褪せて粒子感のある昔風の色彩や画質を、最新のデジタル機器を使って作り出しました。
――パリという街は、昔から地方や外国から多くの人がやってきて定住する場所でもあります。監督ご自身もパリでの生活が長いかと思いますが、近年の街の変化や、逆に19世紀から変わらない普遍的な魅力についてどのように感じられますか。
私は1961年生まれですが、1960年代・70年代の子供の頃に知っていたパリと今のパリは比較にならないほど変化しました。一方で変わらないのは、パリという街が常に「祝祭」の状態にあるということです。ファッションもガストロノミー(食文化)もどんどん変化していきますが、それは伝統に根ざした革新です。伝統を知っているからこそ一歩前に進めるという点は、日本とも共通しているのではないでしょうか。
パリは過去の存在感が非常に強い街です。ノートルダムに代表される歴史的建築がある一方で、非常に現代的な建築も生まれています。伝統と革新が常に対話をしているのがパリ的なクリエーションだと思います。
ファッションデザイナーのジョン・ガリアーノはパリ出身ではありませんが、「パリには生きる喜び(Joie de vivre/ジョア・ドゥ・ヴィーヴル)があるからここに来た」と語っていました。まさにその通りで、いつもお祭りのような生きる喜びがパリにはあると私自身も感じています。
「モネと時間旅行」は、9月18日からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下ほか全国公開。
【作品情報】
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モネと時間旅行
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