【大相撲】21歳の"横綱キラー"藤ノ川が語る新関脇の景色受け継いだ四股名にも「プレッシャーはない」

梶礼哉●撮影 photo by Reiya Kaji

【大相撲】21歳の"横綱キラー"藤ノ川が語る新関脇の景色受け継いだ四股名にも「プレッシャーはない」

9月16日(水) 10:05

提供:
9月13日に初日を迎えた九月場所、伊勢ノ海部屋の藤ノ川(21歳)が新関脇として土俵に上がっている。初日は義ノ富士を寄り切りで破り、三役として初白星を飾った。

初土俵から所要22場所での新三役は、歴代10位のスピード出世(1958年の6場所制以降、幕下付け出しを除く)。京都出身の三役は1828年の緋縅(ひおどし)以来198年ぶり、伊勢ノ海部屋から新関脇が誕生したのは2016年の勢(現・春日山親方)以来10年ぶりだ。

初日を3日後に控えた9月10日、荒汐部屋への出稽古から戻った藤ノ川に、部屋で話を聞いた。

出稽古から戻り、回しを締めて撮影に応じた藤ノ川

出稽古から戻り、回しを締めて撮影に応じた藤ノ川





【新関脇でも「いつも通り」で迎える九月場所】伊勢ノ海部屋は、東京都文京区の住宅街に門を構える。取材当日、荒汐部屋での出稽古を終えて11時に部屋に戻った藤ノ川は、泥着(稽古着)姿から回しに着替え、撮影に応じた。

撮影の際、藤ノ川は「自分の身体のなかでお気に入りのパーツは?」という質問に、間髪入れず「肩」と答えた。首から肩にかけて盛り上がった僧帽筋は、重点的に鍛えたものではないという。

「普通にしてても、体つきがそういう感じなんです」

東京都文京区にある部屋の外にて

東京都文京区にある部屋の外にて





撮影後シャワーを終えると、部屋の上がり座敷で、伊勢ノ海親方、甲山親方、錦木関らと食卓を囲んだ。筆者が隣に座ると、藤ノ川はペットボトルの水を一本「どうぞ」と差し出した。

ちゃんこの豚の味噌炊きと白米、納豆ご飯を食べ終わると「今、いいっすよ」と向き直る。

「髪やりながらでいいっすか」

床山に髪を結われる間、藤ノ川は目を閉じたまま質問に答えた。

出稽古の感触を聞くと「いい感じでした」。時津風一門の霧島、阿炎、若元春、丹治らと相撲を取った。出稽古ではなるべく前に出ることを意識しているという。この日は九月場所前の最後の出稽古。新三役として参加する稽古も気負いはなく、「いつも通りですよ」と答えた。

今場所、意識する相手はいるのか。

「いないですが、(出稽古で対戦したなかでは)霧島関。勝っていないんで」

番付発表は8月31日。関脇の二文字を見た時について振り返ってもらった。

「やっぱ、なんかうれしかった。最高位あたりの人たちと並ぶわけですし、うれしいっすね。引退したら"元・関脇"じゃないすか」

昇進会見でも「番付に名前が大きくなってうれしい」と話していた。

伊勢ノ海部屋の歴史では、先代・伊勢ノ海親方(元関脇・四代目藤ノ川)以降、土佐ノ海(現・立川親方)、勢(現・春日山親方)に並ぶ最高位となる。今後の目標を聞くと「がんばります」。その先に向けては「とりあえず三役定着」と意気込んだ。

【四代目・藤ノ川からのメール「初心忘れず頑張れ」】先代・伊勢ノ海親方は、四代目・藤ノ川。明治から続く伊勢ノ海部屋伝統の四股名で、現在の藤ノ川で六代目になる。

四代目藤ノ川。先代・伊勢ノ海親方。(浅坂直人マネージャー提供)

四代目藤ノ川。先代・伊勢ノ海親方。(浅坂直人マネージャー提供)





新関脇の昇進会見で、藤ノ川は「これが終わったら先代に連絡します」と語っていた。会見後に電話をかけたところつながらず、メールが届いたという。

「関脇昇進おめでとう。初心忘れず頑張れ。」

六代目は「ありがとうございます。がんばります」と返した。

六代目・藤ノ川、本名は齋藤成剛(さいとう・せいごう)。父・甲山親方(元幕内・大碇)の影響で、5歳から相撲を始めた。育ったのは東京、江戸川区春江町にあった移転前の伊勢ノ海部屋で、幼い頃から弟と一緒に土俵で相撲を取っていた。

藤ノ川は三兄弟の長男。甲山親方が男手ひとつで3人を育ててきた。祖父が横綱・柏戸の大ファンで、父・甲山親方は「柏戸剛(つよし)」から「剛」の名をもらった。その一字を、成剛、次男の忠剛(ちゅうごう/幕下・碇潟)、三男の夕剛(ゆうごう/埼玉栄高1年)が受け継いでいる。

高校卒業後、父からの「早いほうがいい」という勧めもあって大学には進まず、すぐに入門した。2025年の名古屋場所での新入幕を機に、「若碇」から改名して「藤ノ川」を名乗った。

自分が元気なうちに藤ノ川を継いでほしい――。改名の裏には四代目の思いがあった。

伝統の四股名は肩にのしかからないのか。

「プレッシャーは感じないっすね」

部屋を背負っているという感覚も「ないです」とあっさり答えた。

【体重差をひっくり返す立ち合い】 新関脇として九月場所でさらなる躍進へ

新関脇として九月場所でさらなる躍進へ





藤ノ川の相撲の特徴は、"立ち合いの速さ"にある。先に両手をつき、相手が手をついた瞬間に当たる。2026年名古屋場所で金星を飾った両横綱戦は、どちらも突き落としで決めた。

同じ関脇の熱海富士は197kg。70kg以上の差を、藤ノ川は動きで補う。自分よりも大きな相手に正面から当たる以上、ケガの危険はつきまとう。

先に手をつくスタイルはいつ出来上がったのか。

「昔から、小学生の頃からっすね。気づいた時にはそうなっていました」

立ち合いは教わったわけではないという。相手を待つ間は、ただ「手をつくのを待っている」という。

父の甲山親方は「先に手をついたほうが、相手がパッとついた瞬間、コンマ何秒か早く当たれる」と話す。もともとは、少年時代のアマチュア相撲で身につけた作法だ。

「アマチュア相撲は、両方が両手をついた状態で主審が『はっけよい』やから、大相撲とは立ち合いが違う。もともと両手ついてるのがスタンダード」

これまでに横綱から挙げた金星は4つ。しかも横綱初挑戦からの横綱戦4連勝で、戦後初の快挙。巷では"横綱キラー"と呼ばれている。今年3月の大阪場所3日目に大の里、4日目に豊昇龍を、7月の名古屋場所2日目に大の里、同3日目に豊昇龍を下した。

藤ノ川は自分の取組をすべて覚えているという。一番記憶に残っているのはどの取組なのか。

「大阪場所の豊昇龍関戦かな。決まった瞬間を覚えてます。うれしかったですね」

【三役昇進に、父・甲山親方から「おめでとう」】

伊勢ノ海部屋の看板の前で

伊勢ノ海部屋の看板の前で





前頭筆頭で迎えた名古屋場所、勝ち越しを決めた時点で三役昇進はほぼ確実となった。甲山親方からは「おめでとう」とひと言。親子のやりとりはそれだけだった。個人的なお祝いも、特にはやっていないという。

「プレッシャーは感じない」「背負ってない」という本人の言葉を甲山親方に伝えると、こう答えた。

「プレッシャーは別にないでしょ。この地位を守ろうとか、落ちないようにしようとか思うと、変なプレッシャーがかかる。負けてもともと。上位の人とやるんやから」

三役になった今、父が息子に言うことはほとんどないようだ。

「もうそういうレベルではない。本人が、気持ちの持っていき方もわかってるし」

一番声をかけたのは「連敗してる時」だという。「『勝っても負けても切り替えが大事や』と前から言うてる。勝っても今日のことは終わり。明日は明日の一番やから」。それは、自分が現役時代にできなかったことだ。

「俺は現役時代、それができてなかった。負け出すと、『どうしよう』となってしまう。『俺は精神的に強いんや』と、自分に言い聞かせてなんとかやってたよ」

横綱に勝った翌日も同じ。「気分は乗ってもいい。でも、それに浸ってる場合じゃないからね」と続けた。

藤ノ川は「いつもどおり頑張ります」と、新関脇として迎える九月場所にも平常心で臨んでいる。ひとつひとつ順調に番付を上げ、今年の目標として掲げていた三役に到達した。その先に、どんな景色を描くのか。

【プロフィール】

藤ノ川成剛(ふじのかわ・せいごう)

2005年2月22日生まれ、京都市出身。身長177cm、体重123kg。伊勢ノ海部屋所属。本名・齋藤成剛。埼玉栄高校を卒業後、2023年の初場所で初土俵を踏み、24年の九州場所で新十両に。25年の名古屋場所で新入幕を果たしたのを機に、四股名を「若碇」から六代目「藤ノ川」を襲名。26年の名古屋場所で大の里、豊昇龍の両横綱を破り初の殊勲賞。九月場所を新関脇として迎えた。父は甲山親方(元幕内・大碇)、弟は幕下・碇潟。

内藤瑠那●取材・文text by Runa Naito

【関連記事】
【平成の名力士列伝:鶴竜】先輩とは異なる雰囲気を醸し出した4人目のモンゴル出身横綱
【平成の名力士列伝:碧山】仲間に支えられ春日野部屋の伝統を最後まで守り抜いたブルガリア出身の大型力士
【平成の名力士列伝:旭豊】常識にとらわれず己の信念を貫き続ける「角界の暴れん坊将軍」の稀有な相撲人生
第75代横綱・大の里はどこまで強くなるのか?偉大な歴代横綱の歩みと比較しながらその未来像を探る
【平成の名力士列伝:安美錦】関取在位史上1位タイ数多のケガを強さの源にしてきた「稀代の業師」
Sportiva

新着ニュース

合わせて読みたい記事

編集部のおすすめ記事

エンタメ アクセスランキング

急上昇ランキング

注目トピックス

Ameba News

注目の芸能人ブログ