9月14日(月) 23:10
熟年離婚で特に注意したいのが、「年金分割=夫の年金の半分を受け取れる」という誤解です。実際には、夫の年金額そのものを単純に半分にする制度ではありません。
例えば、夫が会社員で、月約16万円の年金(老齢基礎年金+老齢厚生年金)を受け取る予定だった場合、妻は「年金分割をすれば、夫の年金の半分、つまり毎月8万円くらいは自分の口座に入ってくる」と思っていたとします。
しかし、実際に年金分割の手続きを終えてみると、年金分割によって自分の年金に上乗せされた金額は「月額でたったの3万円だった」というようなことが、なぜ起こるのでしょうか。その理由は、分割対象や婚姻期間、分割時の案分割合の考え方にあります。
年金分割の対象となるのは、原則として婚姻期間中の厚生年金記録にある「標準報酬月額」や「標準賞与額」です。国民年金の老齢基礎年金は、年金分割の対象ではありません。
例えば、夫が月16万円の年金を受け取っているからといって、その半分の8万円を妻が受け取れるわけではありません。
分割された記録をもとに、妻自身の老齢厚生年金額が計算されます。そのため、実際に増える年金額は、婚姻期間や夫婦それぞれの厚生年金加入期間・報酬などによって大きく変わります。
例えば、夫が40年間会社員として働いていても、妻との婚姻期間が20年間なら、基本的にはその婚姻期間に対応する厚生年金記録が分割の対象となります。独身時代の夫の厚生年金まで分割されるわけではありません。
また、妻自身にも厚生年金の加入期間がある場合、年金分割によって増えるのは「夫の年金の半分」ではなく、夫から移された記録を加味して計算された妻自身の老齢厚生年金です。そのため、場合によっては月数万円程度の増額にとどまることも十分に考えられます。
年金分割には、「合意分割」と「3号分割」の2つの制度があります。合意分割では、夫婦であった対象期間の標準報酬総額を基準に、当事者の合意または裁判所の手続きにより一定の範囲内で案分割合を決めます。
案分割合は、次の考え方により、その範囲が決められています。なお、案分割合の上限は50%とされています。
1. 分割によって、分割を受ける側である対象期間標準報酬総額の少ない人が、元々の持ち分を減らすことがないようにする。
2. 分割によって、分割される側の対象期間の標準報酬総額が、分割を受ける側の対象期間の標準報酬総額を下回らないようにする。
一方、3号分割では、2008年4月1日以降の婚姻期間中に国民年金第3号被保険者だった期間について、その第3号被保険者であった人からの請求によって、相手の人の厚生年金記録を2分の1ずつ分割できます。
なお、3号分割では、当事者の合意は必要ないとされています。ただし、分割される側が障害厚生年金の受給権者であり、分割請求の対象期間が年金額の算定基礎となっている場合は、3号分割の請求を請求できません。
また、合意分割を請求した際、婚姻期間中に3号分割の対象期間が含まれている場合には、合意分割とあわせて3号分割の請求も行われたものとみなされます。
熟年離婚後の生活破綻を防ぐためには、感情に任せて離婚届を出す前に、冷静に「お金の現実」を把握しておく必要があります。
熟年離婚を検討しているなら、離婚を決める前に「年金分割をすれば、毎月いくら受け取れるのか」を確認することが重要です。
日本年金機構では、50歳以上の人または障害年金の受給権者から、年金分割のための情報提供請求を受け付けています。夫婦それぞれの年金記録を確認し、年金分割をした場合の見込みを把握してから、離婚後の生活設計を考えることが大切です。
年金分割は、離婚しただけで自動的に行われるわけではありません。手続きをしなければ、年金記録は分割されません。
2026年4月1日以降に離婚した場合、年金分割の請求期限は原則として離婚日の翌日から5年以内となりました。なお、2026年3月31日以前に離婚した場合は、従来どおり原則2年以内です。
「離婚したから、そのうち年金分割の手続きをすればいい」と放置するのは危険です。
熟年離婚では、年金だけでなく、住居費、医療・介護費、預貯金、退職金、財産分与などを含めた生活設計が欠かせません。
特に「夫の年金の半分をもらえるから大丈夫」と考えて離婚すると、実際の年金額とのギャップに驚く可能性があります。年金分割は熟年離婚後の生活を支える重要な制度ですが、それだけで老後の生活費をまかなえるとはかぎりません。
「年金分割をすれば夫の年金を半分もらえる」という誤解をしていたら、まずはその認識を改める必要があります。年金分割で分けられるのは婚姻期間中の厚生年金の記録であり、夫の年金額そのものを半分受け取る制度ではありません。
そのため、実際の年金の増額は数万円程度にとどまる場合もあります。離婚を決断する前に、自分自身の年金額に加えて年金分割後の見込み額を確認し、住居費や医療・介護費なども含めて老後の生活が成り立つかを具体的に試算しておくことが、熟年離婚で後悔しないための重要なポイントです。
日本年金機構 離婚時の年金分割
執筆者 : 小山英斗
CFP(日本FP協会認定会員)
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