9月12日、福岡県北九州市。バレーボール男子・アジア選手権の準決勝、日本は韓国をセットカウント3-0(25-13、25-11、25-14)とストレートで撃破した。優勝=ロサンゼルス五輪出場権獲得まであと1勝だ。
その韓国戦で、山本智大(31歳)はリベロの極意を見せている。
第1セット、左手1本の奇跡的なディグ(スパイクレシーブ)で、石川祐希のバックアタックの得点につなげたシーンは、場内のモニターに何度も映し出された。第3セットも、韓国の選手を絶望させるようなディグで、石川の一撃につなげている。どのような仕組みでボールを腕に当て、それをセッターへ返せるようにコントロールできるのか。ほとんど神業だ。
リベロはスパイクやサーブで得点を挙げることはない。しかし、チームを救うディグやレセプション(サーブレシーブ)は1点、あるいは1点以上を意味する。1本目のパスの質が低かったら、守備も攻撃も成立しないのがバレーボールだからだ。
「パスを返すのは当たり前」
山本は、そう言いきれるほどレシーブを極めてきた――。
韓国戦で奇跡的なディグを見せて場内を沸かせた山本智大 photo by Yukihito Taguchi
「世界一のリベロ」
山本にはそんな称号がふさわしい。年月を重ねることでその名を定着させたと言えるだろう。「あのディグは世界一だったね!」という"点"ではない。継続的にボールを拾い、チームを鼓舞し、味方のサポートを続け、点をつなげた"面"だ。
少年時代の山本には確信に近い野望があったという。
「僕が小さい頃、日本の男子バレーはラリーがあまり続かなくて、女子バレーのほうがつながっていましたね。だから男子を見ていて、『このボールは拾えるんじゃないか』と、密かに思っていました」
なんと、彼は少年の日のイメージを具現化したのだ。
今や世界中が山本を警戒し、敬意も表している。2025年の世界クラブ選手権で得点ランキング1位タイとなりベストオポジットに選手されたチュニジア代表のワシム・ベンタラ(現サントリーサンバーズ大阪)は試合中に「ヤマモト!」と叫ぶほど、好敵手として認めている。世界トップレベルでも「ヤマモトに打つな!」は合言葉になった。渾身のスパイクが続けて拾われると、超一流のスパイカーでも心が揺らぐ。
【「当たり前を当たり前に...」】今年1月のインタビューで、山本が明かしていたことがあった。
「すべてのボールを取れるとは思っていません。でもバレーは流れのスポーツなので、『ここで1本上げたら』『ここで1本返せたら』という勘が大事。それについては、自分はいいほうなのかなと」
「勘」にまで熟成された技量は、貫禄十分だ。
「バレーは小1からずっとやっていますけど、僕にはこれまで、『やばい、どうしようもない』と感じた試合があまりないんです。安定したプレーが自分の強みかもしれません。ディグを得意とするリベロとしては、スーパーなプレーも求められますけど、普通にセッターに返すとか、当たり前を当たり前にプレーするっていうのがすごく大事で......」
普通にやる。それはやるべきことを怠らずにやることだが、それが一番難しい。
「ブロックフォローひとつとっても、やり続けることが信頼につながる。そこをなおざりにすると、日本代表にはなれない。目立つプレー以上に、普通を続けられるか。日本には僕や小川(智大)選手だけじゃなく、いいリベロが多く出てきましたけど、声かけ、連係、指示出し、人との信頼関係など、全部がつながらないと代表で活躍するのは難しいですね」
ミドルブロッカーのエバデダン ラリーは、山本や小川からの「レッツゴー」という掛け声に「背中を押されている」と明かしていた。リベロは専守の後衛ポジションだけに、どの選手よりも広角にプレーの成り行きを認知、予測できる。そこでのコーチングも、リベロとしての技術のひとつと言えるだろう。
「(スパイカーに)いけそうなタイミングは伝えています。コールすることで、アタッカーも『決めてやろう、トス持ってこい』って気持ちにもなるので。数字にはならないことだけど、とても大事なことかなって思っています」
コールやブロックフォローはなかなか査定しにくい。しかし、リベロの本質はそこにあるのだろう。その継続と追求こそ、山本が世界一のリベロである理由で、並外れたディグは象徴でしかない。
「(ブロッカーを減らした)いいトスになっているとしたら、1本目のパスのおかげです」
セッターの深津英臣の言葉には、山本への賞賛の響きがあった。
韓国戦も、山本は"平常運転"のディグやレセプションを見せている。ブロックフォローも献身的にポジションをとって、スパイカーにはコールをし続け、少しでも悪い流れになれば積極的に声をかけた。彼にとっては、"いつものこと"だ。
「自分は『より波を少なくする』『普通のプレーを続ける』というのを心がけています」
守護神は粛々と臨戦態勢を整える。特別なことではない。だからこそ、コートに立った彼は神がかったプレーを連発できる。
13日、日本はロス五輪をかけてイランとの決戦に挑む。
小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
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