5日ぶりの先発フル出場。「試合に出ているほうがラクではあります」とは偽らざる本音だろう。
けれども、「それほど気にしてはいません。出た試合でいかに自分のパフォーマンスを上げられるかが、選手としての強さだと思っているので。そういう気持ちで臨んでいます」と語る口ぶりそのものが実に強い。
リベロ・小川智大(ボグダンカ・LUK・ルブリン/ポーランド)のことだ。
クオリティの高いプレーで勝利に貢献したリベロの小川智大photo by Yukihiro Taguchi
バレーボール男子アジア選手権(福岡県北九州市)は9月10日から決勝トーナメントに突入し、日本は11日にインドとの準々決勝に臨んだ。その試合で小川は6日の予選ラウンド第2戦のバーレーン戦以来となる先発に選ばれた。
そもそもリベロのポジションに関しては、ここまで山本智大(大阪ブルテオン)と1試合ごと交互に先発起用されている。今回も小川の先発は順番どおりだ。
とはいえ、所属先のクラブでは絶対的守護神として君臨し、国内リーグでベストリベロ賞などの個人タイトルをこれでもかと手にしてきた小川だ。試合感覚が空くことによって生じる調整の難しさがあるのではないか──。そう質問をぶつけてみた際の回答が、冒頭のセリフだった。
続けて、小川はしみじみとこぼした。
「もう6年くらい同じことをやっているんでね。慣れたといいますか」
振り返れば、東京2020オリンピックが終わった直後の2021年アジア選手権から、小川は本格的に日本代表の守護神に名乗りを挙げた。目下のライバルは山本。ふたりのチーム内競争は熾烈を極めている。
かつて日本代表を指揮したフィリップ・ブラン監督は「世界トップレベルのリベロ同士」と称賛。現在のロラン・ティリ監督は「どちらを起用すればいいのか、とても難しい」と頭を抱えながら、本人たちには「お互いに競い合ってくれていることが俺は好きだよ」と伝えたほどだ。世界最高レベルのチーム内競争は、今回のアジア選手権大会でも繰り広げられている。
【インドのブロッカー陣を分析】そうして迎えた2試合ぶりの先発出場。小川は第1セットの11-9から相手のエース、チラグ・ヤダブの強烈なサーブで得点を許したものの、「あれはいいサーブでしたね。広い範囲に打ってくる選手でしたが、十分対応できるボールでもあったと思います」と冷静に受け止め、以降は1本もサービスエースを許さず。安定感抜群のサーブレシーブで攻撃の起点を作っていく。
さらにディグ(スパイクレシーブ)に関しても、終わってみれば失敗はゼロ。相手アタッカーの強打レシーブを何度も拾い上げた。ただし本人は試合後、さらりと口にする。
「相手のレベルを踏まえたら、手応えはそれほどです。プレー中はしっかり拾わなければというイメージもなかったですし、ブロックを抜けてきたボールもスピードがそれほどあったわけではなかったので。むしろ『凡ミスをしないように』と心がけていました」
余裕?違う、矜持だ。世界トップクラスのリベロからすれば、このレベルの相手(日本が世界ランキング6位に対してインドは49位/試合前時点)にこれくらいできて当然というわけである。
またこの試合で、小川はサーブレシーブやディグだけでなく、アタッカーへの2本目のパス、つまりセットアップ(トス)においても、そのクオリティの高さを披露した。
相手の粘りもあってネット上空を何度もボールが行き来するラリーになった際には、自チームのリズムを落ち着かせるように、丁寧にアンダーハンドパスでアタッカーへボールを託す。第2セットにはアタックライン後方からジャンプし、ライト方面にいたオポジットの宮浦健人(ウルフドッグス名古屋)へ、アンテナ付近までしっかりと伸び、それでいて打点を高く確保できるトスを上げて、得点をアシストしてみせた。
このシーンを、小川はこう振り返る。
「まずはしっかりと高さを作って、スパイカーに打ってもらうことを。また、戦っていてインドのブロッカーたちがクイックやレフト方面のアタックに対して強い印象があったので、ライト方面へのボールを増やそうと思っていました。そこで今日は、体をライト方面に向けて、しっかりトスを上げることを意識しました」
【価値のあるセットアップ】「守備専門のポジション」と称されるように、リベロは主に数字として明確なレシーブ力が評価の指標となる。一方で、小川がこの日見せたような2本目のトスは、なかなか数字には表れない。さらに言えば、それはセッターの役目でもある。
けれども小川は、そのクオリティの高さで守備面での貢献のみならず、立派に「攻撃参加」を果たしている。小川がコートに立つに値する理由は、そこにもある。
「取りたい場面で1点を取る。試合はその積み重ねだと考えています。そこでミスをしてしまうと、『ここは1点がほしかったのに』と悔やむものです。
たしかにきれいにトスを上げたとしてもシャットされるケースはありますが、トス自体にミスがあったかどうかでも、失点の意味合いは変わってきます。ですから、まずはクオリティの高いトスを上げること。2本目の精度は大事だと常に意識しています」
トスが正確で、かつ丁寧であれば、あとはアタッカーが得点につなげてくれる。もちろん、それを決めきれるだけのアタッカーが今の日本代表にそろっているからこそ、小川のセットアップがさらに価値あるものになっているのだ。
日本はインドをストレートで下し、次は9月12日に韓国との準決勝を迎える。これまでの順番どおりにいけば、先発リベロは山本だろうか。それでも、あえて小川に投げかけてみる。明日(準決勝)も試合に出たいですか?
「毎試合、出たいですね!試合に出たいですけれど、そこはやはり監督が決めることですし、リベロの僕らふたりは出場した試合で結果を出すことしか考えていませんから。しっかり準備しながら過ごしたいと思います」
サーブレシーブ、ディグ、そしてセットアップ──。いつだって、試合では自分の力を最大限に発揮する。それが小川智大の「強さ」だ。
坂口功将●取材・文text by Kosuke Sakaguchi
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