是枝裕和が監督・脚本・編集を務め、藤本タツキ氏の人気漫画を実写映画化する「ルックバック」が公開された。主演した出口夏希と蒔田彩珠は、秋田県にかほ市を中心に撮影をした今作で何を得たのか――。是枝監督、出口、蒔田に三者三様の思いを聞いた。(取材・文/映画.com編集長 大塚史貴、写真/間庭裕基)
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【動画スペシャルインタビュー】是枝裕和監督×出口夏希×蒔田彩珠が語り尽くす、映画化の理由から夢の話まで
第83回ベネチア国際映画祭コンペティション部門に選出された今作は、漫画の腕に絶対の自信を持つ藤野(出口/子ども時代:七瀬ふうり)と、彼女に憧れを抱きながらも圧倒的な画力を秘めた京本(蒔田/子ども時代:岡田六花)が主人公。漫画へのひたむきな思いで結ばれたふたりをある日、思いもよらない出来事が襲う。原作と同様に、小学生時代から始まるふたりの13年間の軌跡を、移ろう四季とともに繊細かつみずみずしく描いている。
今作のプロデューサーを務める小出大樹氏は、早稲田大学在学中に是枝監督に師事。いわば是枝門下生といえるが、是枝監督自身は小出氏から「オファーを受けた」という記憶はないという。
是枝監督「原作の漫画が出版されてすぐに本屋で手に取り、その日の夜に読んで衝撃を受けました。でも、すぐに『映画化したい』という気持ちになったわけではないんです。ただ、『すごく面白い漫画を読んだよ』みたいな話を直後に蒔田さんにはしていて、『もしやる(映画化する)ことになったら京本やってね』と話しているから、ぼんやりそんな気持ちはあったのかもしれないけれど……」
蒔田「漫画が発売された1週間後くらいにお会いして、一緒に書店へ買いに行ったのは覚えています。あれはもう、4~5年前かもしれませんね」
――高い評価を得たアニメ映画よりも早い時期から動いていたのですね。
是枝監督「そうなんですよね。その頃に小出さんから『何か一緒にやりたい企画、ありませんか?』と聞かれたときに『ルックバック』の話をしたんだと思います。藤本タツキさんに会いに行った時も、その時点では『実写化したいです』という覚悟が決まっていたわけではなく、『こんなに素敵な漫画を描いていただいてありがとうございます』と御礼を伝えに行くことが主目的でした。その帰り道に小出さんに『やろうか』と話したのは覚えているんですが、それが3年前なのか4年前なのか、もう区別がつかなくなってきました。昨日何を食べたかくらいしか覚えていません(笑)」
穏やかな表情で話す是枝監督だが、公式コメントでは「これをやらないわけにはいかない」と覚悟を決めたことを明かしている。ここまで惹きつけられた最大の要因はどこにあるのだろうか。
是枝監督「原作の漫画が本当に素晴らしかったことに尽きるのですが、その時に自分が置かれていた状況とリンクするものが大きかったというのがあります。また、藤本さんが『ルックバック』を書かれた出発点として、いろいろな出来事があるなかで、震災のボランティア経験も含まれていて。大惨事を前にしたとき漫画を描くことがどういう意味を持つのか、何ができるのかを考えさせられたと話されていたんですね。
僕が『ルックバック』と出合ったのはコロナ禍でしたから。自分が取り組んできた仕事が全部ストップして、不要不急なものにカテゴライズされたときに『自分に一体何ができるのか』『これまでやってきたことは何だったのだろうか』と、立ち止まらざるを得ない状況に陥りました。そこで立ちすくんでいたときに原作を手にし、『同じように立ちすくんでいる。だけどまた描き始めた人がいる』ということに励まされたというか、叱咤された感覚があったんです。それに対して、自分なりのアンサーとして映画にしよう、ということだったと思います」
出口と蒔田にとっては、Netflixシリーズ「舞妓さんちのまかないさん」以来の是枝組となった。今作の現場では藤野と京本として、どのように距離を縮めていったのか聞いてみた。
出口「『舞妓さんちのまかないさん』では、あまり同じシーンがなかったし、休憩中に話をする機会もそんなになかったので、初めましての気分で撮影しました」
蒔田「『舞妓さんちのまかないさん』の現場では、わたしが年上の役だったこともあり、(出口のことを)本当に年下だと思ってしまっていたんです。そうしたら、現場で『今日誕生日なんだ』って言っていたので『何歳になったの?』って聞いてみたら年上でした(笑)。誰に対しても気さくな印象があったので、藤野が夏希ちゃんだと聞いたときは安心したし、楽しみだなと思っていました」
――おふたりにとって、是枝監督というのはどのような存在ですか?
出口「わたしは『舞妓さんちのまかないさん』で初めて監督の作品に参加させていただいたのですが、お芝居が苦手だなと思っていたところを『もっと挑戦してみよう!』と思わせてくれた存在です」
蒔田「わたしにとっては、近所の……。『行ってきます!』と言いたくなるような……」
是枝監督「近所のおじさん(笑)?」
蒔田「小さい頃から見てくれているので(笑)」
出口「確かに、優しいおじさんです(笑)」
ほのぼのとしたやり取りが続いたが、幾つもの意味が込められた「ルックバック」というタイトルについて、3人に思いを馳せてもらった。作画担当として背景を描き続けてきた京本の役割に焦点を当てて考えることは容易にできるほか、互いの背中を見て影響を受け、刺激を受けて成長しあう意味合いをより強く感じることができる。3人にとって、「背中を見て刺激を受け、切磋琢磨できるような存在」はいたのだろうか。
蒔田「わたしにとっては、母です。母がわたしの背中を見ることはまだないと思うのですが、子どもの頃からずっと支えてくれているので。是枝監督と初めてお仕事をさせていただいたときも、現場には母がずっと付いて来てくれましたから。学ぶことがすごく多いし、母を支えたいとも思うので『ルックバック』できているのかなって感じます」
出口「幼い頃から一緒に育ってきた、地元の幼なじみです。お互いのことを気に掛けながら育ってきたので。今も仲が良くて、会えていない時間があっても『何しているんだろう』って考えたりしています」
是枝監督「背中を見るって、色々な意味があるからなあ。自分に関わってくれた人たちに背中を見られながら、背中に視線を感じながら日々過ごしているんですよね。その人たちの眼差しに応えられるように、ちゃんといい仕事をしようという感覚になってきているんですよね。亡くなった人たちもたくさんいるから、そういう人たちの視線も感じながら、頑張ろうって思っています。一方で僕が誰の背中を見ていたかっていうと、台湾のホウ・シャオシェン監督が憧れの背中だったからそういう存在になるのかな。
この作品の『描いたから出会えた』って良いコピーだなと思いますが、僕も映画を撮ったから色々な人と出会えた。別れもいっぱい経験しましたが、一生懸命やってきたことですごく成長もできたし、それが僕の中で大きな財産になっています」
今作は派手なアクションがあるわけではないが、ラージフォーマット、もしくは可能な限り音響に秀でたスクリーンで鑑賞することをオススメする。それは、藤野と京本が描くペンのタッチが心地よく、それでいて音の変化が2人の心情を雄弁に物語っているからだ。最初は1人で描いていた音が2人になることで躍動感を伴うようになり、再び1人になったかと思えばデジタルのタッチへと移行する。これは原作では描くことができない部分で、映画ならではの余韻を一心に浴びることができる。
さらに、原作では描かれていないけれど、確かにあったであろう余白も描かれており、それが観る者に無上の喜びを不意に届けてくれる。藤野の母(野呂佳代)が帰宅した娘に「ねえ、音はしないけど(京本が部屋に)いるんだよね?」と確認するくだりや、手を10回こすって耳に持っていくと海の音がする……というシーンなど、挙げればきりがない。実際に作品世界を生きた出口と蒔田は、メガホンをとった是枝監督は、理屈抜きに心惹かれるシーンとしてどこを挙げるのか興味が沸いた。
出口「わたしは、(子ども時代の京本を演じた)岡田六花ちゃんが雪を食べているシーン。もう、観ていて胸がキューっとなったのを覚えています。すごく好きなシーンでしたね」
蒔田「『街行こうぜ!』のシーンがお気に入りです。もちろん藤野ではあるんですが、夏希ちゃんで(笑)。2人が合致した瞬間というか……、まさに藤野だし、まさに夏希。すごくいいシーンだし、いいセリフでした」
是枝監督「自分で撮った作品なんだけど、好きなシーンばかりなんだよなあ、この映画(笑)。でもやっぱり、街へ出てさ、交差点でためらっている京本の手を引いて藤野が走り出すシーンは、何度観てもグッときますね。カメラワークも含めて、素晴らしいショットになったなと思って。藤野と京本の表情の違いが、人間性の違いも見事に表していたしね」
出口「あのシーンの彩珠の顔、大好き(笑)」
是枝「本当に素晴らしかったです」
藤野と京本が夢を語り合うシーンも、瑞々しく尊い。誰しもが仕事を始めたばかりの頃に抱く将来の夢、身近な友人たちと語らう展望など、身に覚えのある人は少なくないだろう。最後に恥ずかしげもなく聞いてみた。「皆さんにとって、いまの夢は?」と。
蒔田「うーん、ずっと好きな気持ちのまま仕事を続けられることかな。大変なこともいっぱいあるし、年齢を重ねるごとに責任も増えていくので、ただ好きというだけでやっていた頃とは変わっていかざるを得ないのですが、でも『好きだ』という気持ちをずっと忘れずにいるのが夢です」
出口「わたしは、夢はないです!いまは目の前に置かれている状況であったり作品のことで精いっぱい。それをやり遂げた先に、夢が出てくるんじゃないかなって。いまは待っています」
是枝監督「ずっと好きな気持ちのまま、この仕事を続けていきたいです!」
出口&蒔田「ずるい!」
是枝監督「いや本当に。生涯現役が夢です」
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ルックバック
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