(画像/PIXTA)
9月8日(火) 7:00
2026年発表のリクルート「SUUMO住みたい街ランキング首都圏版」では、東京23区北西部の4区(北・板橋・練馬・豊島)が「東京ノース」と呼ばれ話題となりました。そんななか、実際の居住者を対象とした「SUUMO住み続けたい街ランキング2026(東京ノース版)」も発表。知名度重視のランキングとは一味違う、リアルな住み心地が見えてきました。今回は、同ランキングで上位に輝いた練馬区の「桜台駅」に注目し、その魅力に迫ります。
暮らす人の満足度が表れる「住み続けたい街」対象となる4区にホームがある駅のなかで、今回の「SUUMO住み続けたい街ランキング2026首都圏版」の上位150位内に入ったのは、豊島区の「駒込」「雑司が谷」、そして練馬区の「桜台」の3駅でした。
今後住んでみたい街を聞く「住みたい街ランキング」では、一般的に知名度の高い池袋や赤羽といった主要駅に票が集まりやすい傾向があります。一方で、実際に暮らす人の満足度をベースにした「住み続けたい街ランキング」では、治安や地域コミュニティの温かさといった、よりリアルな「暮らしの質」が評価されます。その結果、派手さはなくとも落ち着いた住環境が広がる住宅街が選ばれる傾向が浮き彫りとなりました。
なかでも今回注目したいのが、主要駅の影に隠れがちでありながら、住民から根強い支持を集めて上位にランクインした「桜台駅」。詳しく見ていきましょう。
練馬区の東部、板橋区と接する静かな住宅街である桜台。練馬と江古田という個性の強い街に挟まれたがゆえ、良い意味で人にあまり知られていない穴場的な存在の街です。
都心への交通アクセスがよく、池袋までは西武池袋線で4駅。練馬や新桜台駅利用で副都心線、大江戸線の利用も可能。新宿、六本木、渋谷方面にも簡単にアクセスできます。環状七号線、千川通り、目白通りといった主要幹線道路へも出やすく、車移動にも便利なエリアです。
桜台駅からの所要時間
条件:平日8:00~8:30の間に出発する
ダイヤの中で有料特急を除く最短の分数
(「駅探」調べ)
沿線・駅の一部を省略して表記(マップ作成/SUUMO編集部)
桜台駅周辺は、大部分が低層・中層の建物で占められた閑静な住宅地です。隣の練馬駅や江古田駅に比べ駅の乗降者数が少ないこと、また駅至近からすぐに入り組んだ住宅街が始まるため大規模商業施設は進出しにくく、個人商店が育ちやすい街でもあります。
もちろん、静かな住宅街であっても食材の購入や日常使いできる飲食店など、暮らしに欠かせない施設はしっかりとそろっています。桜台駅周辺では、西武池袋線の高架下スペースを活用した「西友桜台店」が深夜25時まで営業しているほか、深夜24時まで営業している「ライフ新桜台駅前店」もあります。さらに、地域密着型の「スーパーあまいけ 練馬店」や小規模なスーパーの選択肢もあり、仕事帰りに立ち寄ったり、休日にまとめ買いをしたりとシーンや住まいとの距離感に応じて便利に使い分けることができます。
また、こうした日常の買い物や外食、遊びの選択肢を広げるのが、両隣にある練馬、江古田の存在です。交通のハブであり、行政施設や飲食、エンタメもそろう練馬駅。学生街でエネルギッシュ、コスパのよい飲食店がある江古田駅。ホームである桜台駅周辺に加え、これら2つの強烈な個性を持つ街を自転車や徒歩で自在に使いこなせることも桜台が住みやすいと評価される理由のひとつと言えそうです。
池袋から始まった「アトリエ村」の西進さてここで、桜台・江古田をはじめとする練馬区の東部エリアの街がどう形成されていったか、その歴史を紐解いてみましょう。1920年代~1930年代にかけ、現在の池袋の西側エリアで芸術家たちのコミュニティ(通称:池袋モンパルナス)が形成され、貸しアトリエが立ち並ぶ「アトリエ村」が誕生します。
やがて1930年代以降、池袋周辺の都市化が進み家賃が高騰すると、美術学校の学生や若い芸術家たちは、さらに西に隣接する江古田・桜台・練馬エリアへと活動の場を広げていきます。当時の桜台や練馬駅周辺は、のどかな農村風景が広がる写生に最適な環境であり、手頃な活動拠点として芸術家たちに好まれました。
学生と若きクリエイターが集う街へこうした芸術的な土壌が耕されていたエリアに、武蔵野音楽大学が開校し、日本大学藝術学部(日藝)が移転してきます。江古田から一駅の徒歩圏内に位置する桜台は、閑静な住宅街でありながら家賃も手頃だったため、芸術系の学生や卒業生、若いクリエイターたちがこぞって暮らす街へと発展していきました。
1950年代に入ると、現在の大泉学園駅付近に東映アニメーション(旧・東映動画)の前身となる撮影所が設立されます。これを契機に、練馬区は「映画・アニメの街」としての歩みを本格化させました。
現在でも練馬区内には100社を超えるアニメ関連事業者が集積しており、桜台周辺にも複数のアニメ制作会社が存在します。江古田・桜台・練馬の情緒ある住宅街は、『のだめカンタービレ』(二ノ宮知子)、『アンダーニンジャ』(花沢健吾)、『究極超人あ~る』(ゆうきまさみ)など、数々の著名なマンガ・アニメ作品の舞台として描かれ、ファンに広く親しまれています。
並行する中央線沿線駅よりも住居費は抑えめ次に家賃相場や中古価格相場を見ていきましょう。主要ターミナル駅までの距離やポジションの似た他路線の駅と比べてみると、練馬・桜台・江古田はやはり家賃、中古価格とも抑えめです。練馬や桜台の居住者は、家探しの過程で高円寺や中野を比較検討するケースも多く、家賃や不動産購入価格の高騰する昨今は、特にコスパ的な面で練馬や桜台へ目を向ける人も増えてきている様子です。
【調査対象物件/賃貸】駅徒歩:15分以内/築年数:35年以下/
シングル向け:10平米以上〜40平米未満(1R,1K,1DK)/カップル&ファミリー向け:40平米以上〜80平米未満(定期借家を除く)
【調査対象物件/ 中古マンション】駅徒歩:15分以内/築年数:40年未満/カップル&ファミリー向け専有面積:50平米以上~80平米未満(所有権のみ)
【調査対象物件/中古一戸建て】駅徒歩:20分以内/築年数:30年以下
【データ抽出期間】2025/10/1〜2026/3/31
【算出方法】上記期間で SUUMO に掲載された賃貸物件(マンション/アパート)の管理費を含む月額賃料、また中古マンション・中古戸建ての掲載価格から中央値を算出(SUUMO編集部調べ)
では、桜台住民の間ではどんな点が街の魅力として評価されているのでしょうか。以下の上位10項目の中から、気になるトピックや自治体・街の取り組みをいくつか見ていきましょう。
まず、街の魅力1位となったのが防犯対策や治安の良さです。警視庁の「区市町村の町丁別、罪種別及び手口別認知件数」を見ると、桜台周辺の犯罪認知件数は総じて低く、治安のよいエリアと言えます。
練馬区全体としての取り組みでも、町会・自治会および商店会などが設置した防犯カメラで一定の要件を満たすものについて、練馬区が維持管理費を補助。2026年度には一般家庭向けに「カメラ付きインターホン」などの購入・設置費用の助成を始めるなど、防犯対策への手厚いサポートがあります。
さらに、桜台は古くから定住する世帯が多い住宅街ということもあり、町会や自治会主導の防犯パトロールが定着していること、顔なじみの関係が構築されているなど、人の目による見守りも機能しています。
築古の物件を魅力的な拠点へと再生「顔の見える関係」を育むことで、自然発生的な見守りの目を街に根付かせている興味深いプロジェクトも見られます。それは桜台の静かな住宅街の中にある低層賃貸アパート。かつての日本の町家のような、手前で生業(なりわい)、奥を生活の場とした店舗兼住宅で、入居者がそれぞれの生業を街に発信しながら、地域とつながって生活するという、昨今注目の「住み開き」を実践するものです。
古い賃貸アパートを再生し、地域活性化に役立てたいというアパートオーナーの思いから実現したナリ間ノワ プロジェクトは、『欅の音terrace』『vita passo楓の樹』の2棟合計25室に、飲食やクラフト雑貨などのお店を営む人々が入居しています。敷地向かいに小学校があり、子どもの往来が多い場所であることもプラスに作用し、年に2回のマルシェを開催。イベント時には近隣に住む多くの親子連れでにぎわいます。
2股の道路に接した見通しの良い場所に立つのはメイン棟の『欅の音terrace』。
「改修以前は道路寄りの敷地はアパートの駐車場として使われていて、建物は道路から少し後退した余裕のある配置でした。そこで、この駐車場だった空間を利用して、建物前面に大きなテラスを設け街に開く形に。こうした動線をつくることで、手前の生業スペースは人がふらりと立ち寄りやすく、同時に常に誰かの目がある温かい場所にもなっています」(ナリ間ノワ プロジェクト 賃貸募集担当/スタジオ伝伝藤沢百合さん)
居住者同士が活発にコミュニケーションを取ることは、防犯や防災における住民自治の役割としても不可欠な機能を担っています。実際、学校行事などで周辺の人出が増えそうなときや、落とし物、不審者情報があれば入居者やオーナーらのグループLINEで即座に共有されるそう。街の中にこうした見守りの目があることは、結果として地域の防犯力を高め、住み心地を高めてくれると言えるでしょう。
ちなみに、メイン棟から徒歩2分の場所にはシェアキッチンも設けられています。この離れの有料貸しスペースは、2棟の賃貸アパート入居者以外の人も、申し込みをすれば誰でも利用が可能。菓子・惣菜製造業や飲食店営業の許可を取っているため、シェアキッチンでつくった商品は道路側に面した窓を店先にして販売することもできます。小商いのスタートアップ支援として、つくり手と買い手、地域をつなぐ場としても大いに活用されています。
そして、街の魅力6位として評価されているのが、コスパの良い飲食店や個人商店です。桜台は個人経営の小規模な飲食店、地域に根差した専門店が新旧入り交じっているのも魅力のひとつです。隣の江古田駅はおいしいベーカリーのある街として知られていますが、桜台もなかなかの実力派ぞろい。駅周辺の桜台1丁目だけでも5件のベーカリーがあります。
そのひとつ「ブーランジュリー ルニーク」の店主は桜台の魅力を次のように語ります。
「9年前にここ桜台で店をオープンしたときは、まだ周囲にパン屋はなく、翌年に1軒、1年後に1軒と増えていき、いつの間にパンの街になっていましたね。それぞれお店ごとに個性の異なるパンをつくっているので、パン好きの人にはたまらない街かもしれません。この地域にお住まいの方々は、すぐに都心にも出られますし、美味しいものに対する感度も高く、センスの良いものをたくさんご存じだと思います。そんなお客様の生活の楽しみの一つとして当店のパンを買いに来ていただけることが日々のやりがいにも繋がっています」(ブーランジュリー ルニーク店主/大橋哲雄さん)
最近は江古田地区との共催で「えこだパンさんぽwith桜台」が開催されており、パン好きが集まる街としてしっかりと認知されているようです。
ほかにも街中に魅力的な飲食店、専門店が点在する桜台。地元商店街が中心となったイベントも活況です。
毎年春には千川通り沿いで「桜台のさくら祭り」が、秋には桜台駅周辺の街全体をバルに見立てた「桜台フードフェスタ」が開催されています。どちらのイベントも、2日間の開催で延べ約1万人が来場。2026年秋も「桜台フェス」と名称を変え、10月24日、25日の2日間の開催が予定されています。
こぢんまりとした商店街でありながらフードフェスタなどの面白い試みもある──そんな桜台の不思議な活気の背景には、古くから芸術家の卵や若いクリエイターを受け入れてきたことによる「カルチャーを育てる」「面白い人を応援する」街の寛容な雰囲気もあるのでしょう。
さらに練馬区が商店街空き店舗入居促進事業として、店舗改修費や賃借料の補助、コンサルティングなどの起業・経営支援を積極的に行ってきたことも関係しています。今も昔も、都心に比べ家賃水準が抑えめなこともあり、住む人だけでなく起業する人にも選ばれる街となっていることは想像に難くありません。
大学連携や人的資源を活かした催し・学びの場を提供住民が評価する街の魅力8位に挙がっているのが、自治体による子育てサービスの充実です。
例えば練馬区では、通常より長い「11時間」の預かり保育を通年で実施する私立幼稚園を区が独自に認定。未就学児の保育の受け皿拡大に努めています。
一方で、就学児家庭への施策としては、小学校の施設を活用して就労家庭向けの「学童クラブ」と、全児童を対象とした「ひろば事業(放課後子ども教室)」を一体的に運営し、子どもたちの放課後の居場所をより柔軟に、安全に提供する仕組みをつくっています。
加えて、練馬区ならではと言えるのが、区内にある大学との連携です。学生による区内事業者のPR動画制作や、合同学園祭(江古田カレッジトライアングル)の開催、地域の魅力発信などを行っています。
日本大学藝術学部、武蔵野音楽大学といった芸術系大学があることから、卒業生などの豊富な人的資源を活かして、子どもから大人まで楽しめるアートや音楽の催しも多く企画されています。
桜台からは練馬文化センターや練馬区立美術館も徒歩・自転車圏内。都心に出かけなくても身近で気軽に、子どもに芸術に触れる機会を与えられるのも、この街が持つ豊かな教育環境のポテンシャルです。
そして、住宅街の一角で土や緑と触れられるのもこの地域ならではの贅沢です。練馬区は東京23区の中でも都市農業が盛んな地域で、区内には多くの貸農園、観光果樹園があります。
桜台・江古田エリアは、練馬区の中でも最も都心寄りに位置した地域ですが、住宅街の中には民間による貸農園も存在します。必要な道具類は借りられ、手ぶらで畑仕事へ。現地にはアドバイザーが常駐しており、初心者でも無理なく作物を育てることが可能。都会の中で子どもと一緒に土いじりができる貴重な場所です。
豊かな緑と農地があり、都市と自然が共存する住みやすい街づくりの一端には区内にある大学の存在も寄与しています。
練馬区では前述の通り、区内の大学と連携した取り組みも数多くあります。その中で、注目したいのが2010年にスタートした「江古田ミツバチ・プロジェクト」。武蔵大学の学生と地域住民が協力して都市養蜂を行う取り組みです。大学のキャンパスを拠点とすることで、都市緑化の推進や地元商店街での特産品開発、さらには世代を超えたコミュニティ形成など多岐にわたる価値を生み出しています。
「2025年度から大学の公認サークルに認定されたこともあり、2026年度は学生会員が大きく増加して70名超に。地域会員の方々も定例の活動日には10名前後参加されています」(武蔵大学3年・学生会員代表)
地域住民や地元商店街の人々が活動に参加することで、大学のキャンパスが地域の交流拠点となっています。プロジェクトでは、採取したハチミツを地元の洋菓子店などに卸し収益化するほかに、学校や地域イベントでの出前授業やワークショップを通じ、地域住民に自然環境や環境問題について学ぶ機会を提供しています。
「出前授業で子どもたちにわかりやすく説明するのは難しいですが、貴重な経験でやりがいを感じます。活動を通じて地域や企業など、日ごろあまり接点のない方々と関わる機会が持て、刺激を受けています」(武蔵大学2年・学生会員)
大学周辺の江古田・桜台・練馬地域は果樹園や畑、住宅街や街路の植栽にミツバチが飛来することで、植物の受粉を循環させ、都市部の緑化や自然豊かな環境づくりに貢献しています。また、地域と大学とが連携した取り組みは、学生にとっては地域社会とつながり実践の場を経験する貴重な学びの機会。地域にとっても若者の活気が街に還元されるという相互メリットも生んでいます。
桜台は江古田と練馬に挟まれ、目立たない静かな住宅街ですが、新しい人を受け入れるウェルカムな気風や温かさを街のあちこちで感じることができます。人と自然、そして世代を超えた豊かな『循環』が息づいていることが、多くの人から『住み続けたい街』と評価される理由なのかもしれません。
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●取材協力
ブーランジュリー ルニーク
ナリ間ノワ プロジェクト『欅の音terrace』『vita passo楓の樹』
江古田ミツバチ・プロジェクト
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