是枝裕和が監督・脚本・編集を兼任し、藤本タツキ氏の人気漫画を実写映画化する「ルックバック」が、現地時間12日まで開催中の第83回ベネチア国際映画祭コンペティション部門に正式出品され、同7日に是枝監督、ダブル主演を務める出口夏希と蒔田彩珠、共演の七瀬ふうり、岡田六花、小出大樹プロデューサーが公式記者会見とフォトコールに参加した。
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【フォトギャラリー】実写「ルックバック」ベネチア国際映画祭公式記者会見とフォトコールと公式会見の模様(16点)ベネチア・リド島の「Palazzo del Cinema」で開かれた公式記者会見には、世界各国から約120名の報道陣が集結。満席となった会場にスタッフ、キャストが登壇し、質疑に応えた。
質疑応答では、まず是枝監督に原作漫画との出会い、そして実写映画化を決めた理由について質問が寄せられたが、是枝監督は、原作と出会ったのは「漫画が出版されてすぐ、2021年ぐらい」と明かし、当時はコロナ禍の影響で、自身が関わってきた映画制作がすべてストップし、「立ち止まらざるを得なくなっている状況だった」と振り返った。
そして「自分が関わっている映画が、世界が非常事態に陥った時に、どんな意味があるのか、価値があるのかを考えざるを得なくなった時に、この作品と出会って、覚悟を問われたような、背中を押されたような、もう一度映画を作ってみようという強い気持ちが自分の中に蘇ってくるような、そんな出会いでした」と素直な心境を吐露し、「なので、藤本(タツキ)さんにお会いした時にまずお礼をお伝えして、『こんな漫画を作っていただいてありがとうございます』ということをお伝えしました」と語った。
さらに「お礼を形にするのであれば、自分は監督なので映画にしようという流れに自然になりました」と実写映画化の経緯を説明。「普段あんまり映画化を前提に漫画を読むことはないのですが、この作品も映画化作品を探しながら出会ったわけではなく、ふと、背中が表紙になった漫画が気になって手に取ったという、偶然の出会いから生まれたものです。とても良い出会いだったと思います」と、原作との運命的な出会いを振り返った。
続いて小出プロデューサーに、原作漫画とアニメ映画が大きな支持を集めた理由について質問が飛ぶと、小出プロデューサーは、藤本氏が大学生として上京し、美術大学に通っていた頃に東日本大震災を経験したことにも触れ、「本当に何もできない」と感じていたという藤本氏の思いを説明。絵を描くことに長け、美術大学に進んだが、震災を機に創作することが完全に止まってしまった時期があったと紹介し、「本当にクリエイターとして自分の将来、どういう風に進めばいいんだろうというところの悩みがあって、ボランティアに行っても、瓦礫を運ぶことが何に繋がるんだろうみたいなことを自問自答する。ただその時には技術もなくて、まだデビューもしていなかった時のモヤモヤというか、この衝動が、月日を経ってこういう形で『ルックバック』という作品になったという話を聞いていまして」と明かした。
さらに、「自分が何をできるのかどうなのかっていうところの、完全に形にならないけど何か行動したいという気持ちって、みんな持っているある種不変的な気持ちみたいなところに、藤本先生が描かれた『ルックバック』は通じていったところがある」と分析。そして、「アニメのヒット、カルト的なという風に今お話があったかと思うんですが、ヒットだったり漫画が強い共感性を持った原体験が、3.11やコロナに起因しているところがあるからではないかなと、プロデューサーとして感じています」と自身の考えを語った。
過去作でも子どもや若者、少年少女の視点から描かれた物語を多く描いてきた是枝監督だが、今回もそうしたテーマを選んだ理由、そして日本文化における漫画の存在について質問が寄せられると「確かに僕の映画の中には子どもがたくさん出てくるんですけれども、作品によって子どもの描き方は変わっていると思います」とコメント。「大人の社会を批評する目としての子どもという存在もありますし、作品によっては大人が失ってしまったある種の純粋さみたいなものが、時には暴力的にもなることもありますけれども、そういうものを描くこともあります」と、これまで作品ごとに異なる子どもの姿を描いてきたことを語る。
一方で、本作については「今回の子どもたちは正直言うと、自分で撮りながら、何かに一生懸命になっている子どもの背中というのはなんでこんなに尊いんだろう、美しいんだろうと思いました」と明かし、「現場にいる大人たちはみんなそう考えながらこの子たちを取り囲んで、尊いものとして撮ったという意識が強いかな」と振り返った。
日本社会における漫画の存在感については、「たぶん僕が子どもの頃、漫画ばかり読んでいるとダメな大人になると言われてました」と回想し、「そういう価値観が、たぶん日本で突出して漫画文化というものが発展して以降も、日本以外の国ではまだ残っていたんじゃないかな。大人が漫画を読むということがそれほどポジティブに捉えられなかった時代が長く続いた気がするんです」と語った。その上で、「それがここ10年、15年、20年ぐらいで、価値観が変わったなというのはすごく感じています」といい、「僕も、漫画を読みながら、僕の場合はもちろん最初は手塚治虫さんからスタートしてますけども、そういった漫画と出会いながら大人になってますので、文学を読むのと同じように漫画を読むという意識を持っているんじゃないかな、多くの人は」と自身の考えを述べた。
映画に登場する印象的なロトスコープアニメーションに質問が及ぶと、是枝監督は「藤野と京本がどういう夢を思い描いたかという部分で、自分が連載した漫画がアニメになることだというのが、とても重要なセリフとして、コンビニからの帰り道で2人で語り合うシーンがあって」と説明。「お互いが別々のルートをたどりながら、同じようにその夢を思い描いていたということが分かるといいなと思ったんですよね」と語り、「その結果として、あのシーンで、藤野の中で2人が出会ったかもしれない。架空の設定だと思いますけれども、自分たちが過ごしてきた時間がそのままアニメーションになるという描き方をしたいと思いました」と、その演出に込めた思いを明かした。そして、「それは、過去を共有していると同時に、未来も2人は共有しているのだという意識で最後のあの背中を撮りたいと思ったのが1番大きいと思いますね」と語った。
映画制作にあたって苦労したこと、そして楽しかった思い出については、小出プロデューサーは、「プロデュースするにあたって、僕が心がけたところは、日本の映画作りのお金の集め方だったり、ファイナンスだったり、ディストリビューションのあり方だったりを、もう一度捉え直して作りたいなと思って」と説明。東映を退社し、是枝監督に企画を提案したところから自身の映画作りが始まったと振り返り、「日本の映画(業界)の働き方だったり、賃金がフェアになるのかということが、どうやったらもっと良くなるんだろうかというところを、是枝監督とディスカッションしながら」考えてきたと明かした。
そして「そのために1日の撮影時間を、それまでの標準的な日本映画よりどれだけ取ることができるのだろうか、それを回すためにはどういうファイナンスのチームを組むことができるのだろうかというところを、1つ1つ、K2 Picturesという会社を作る中で整えていくことが非常に、僕にとってチャレンジングでした」と明かし、「ここにいる素晴らしいキャストや、是枝監督をはじめとするスタッフのおかげで、実際に映画という形になったことが本当に嬉しいことではあるんですけど、それは僕にとってもすごく挑戦だったので、楽しく難しいことだったなと思っています」と振り返った。
さらに「そういう時間の中で、この作品が1年を通して四季を追うことができたり、子どもたちがすごく天真爛漫に演じてくれる時間がしっかり取れたということは、僕としてはいい時間を作ることができたんじゃないかなと」と語り、「観ていただいて、そう思っていただけたら本当に嬉しいなと思います」と思いを寄せた。
七瀬は、漫画の練習が大変だったと明かし、「藤野を演じる前は、ちょっと絵に興味があって落書き程度で楽しんで描いてたんですけど、こんながっつりちゃんと描いたことがなくて」と振り返り、楽しかった思い出については「撮影期間に、スタッフの皆さんがすごくノリが良くて優しくて、話しやすくてすごく楽しかったし、キャストの夏希ちゃん、彩珠ちゃん、六花ちゃん、この3人もすごく優しくて、ずっと(一緒に)いて幸せでした」と笑顔を見せた。
岡田は「漫画練習も大変だったんですけど、方言が大変でした」と告白。「秋田弁は全然触れたこともなかったし、聞いたこともなかった方言だったので、本当に練習がとっても大変でした」と語った。楽しかった思い出については、「多すぎて一番が選べないんですけど」としながら、「やっぱりふうりちゃんと藤野の部屋とか京本の部屋のセットで、一緒に絵を描いたり、桜餅食べたり、漫画読んだり、こたつに入ったりしたのが、私にとっての楽しくていい思い出でした」と撮影の日々を振り返った。
蒔田は「大変だったことは、漫画練習と、京本は美術の大学で油絵もやったので、その練習も大変でしたね」と回答。「あと方言もあまり聞き馴染みのない方言だったので、時間をかけて練習しました」と語った。楽しかった出来事については、「お昼ご飯のケータリングに、たまにラーメンカーが来てくれて、監督が最前列に並んでいました。そういう光景が私は好きでした(笑)」と、現場での微笑ましいエピソードを明かした。
出口も「大変だったことは、やっぱり漫画練習が本当に大変でした」と回答。「大人になってから絵を描く機会が本当になくて、マメができて、手が痛く、すごく大変だったのを覚えています」と当時を振り返った。一方、楽しかったのは、秋田県にかほ市での撮影だったと明かし、「すごく撮影期間が一番楽しくて。秋田で本当に住んでいるような、生活しているような感じだったんですけど、みんなでスイカ割りしたり、花火したり、撮影じゃないところなんですけど、すごく楽しい夏の思い出になりました」と笑顔を見せた。
是枝監督は「楽しかったことしか思い浮かばないですけど、大体つらかったことは忘れるので(笑)」と会場を和ませ、「楽しかったがゆえに、最初の約束だと春夏秋冬で、一旦クランクアップをして花束も渡した後に、多分楽しかったからだと思うんですけど、もう一回冬と春と追加撮影をさせていただいて、それが素晴らしかったですね」と振り返り、「それが作品にも活きてますし、とてもいい時間だったなと思います」と語った。
一方で大変だったことについては、「最初の撮影でとてもとても素晴らしい白鳥が偶然撮れてしまって。脚本にあったわけではないんですけど、それが撮れてしまったことをどう活かすかということで、脚本を書き直し、撮影で通うごとに白鳥を見つけるという作業が、僕ではなくてスタッフが大変だったと思います」と明かした。
さらに、本作における色彩や、四季の移り変わりの表現について質問が寄せられると、是枝監督は「最初にこの作品を映画化する時に、藤本さんの出身地である秋田のにかほ市で、4つの季節、要するに4種類の光を撮りたいという、その4種類の光の中に、4人の、2人ですけども、成長を捉えていきたいという風に企画書に書かせていただいた」と明かした。
そして「色というよりは光の変化をフィルムで撮って、作品の中に閉じ込めるという意識でスタッフ全員いたと思います」と語り、「本当に贅沢に時間を使わせていただいたことが、とても大きかったですし、その共通の価値観を、特に撮影の上野千蔵さんをはじめ、スタッフの方たちと共有できたのが良かったかなと思います」と締めくくった。
会見後に行われたフォトコールには、アーティスティックな刺繍が映えるエレガントで華やかな衣装で登場した出口と、深みのあるボルドーレザーのコートドレスをまとったシックなファッションの蒔田をはじめ、落ち着いた佇まいを見せた是枝監督、フレッシュな装いの七瀬ふうりと岡田六花が勢ぞろい。集まった現地のファンから大きな声援があがると、登壇者たちは笑顔で手を振り、サインや写真撮影に応じるなど、丁寧なファンサービスで会場を魅了した。
「ルックバック」は、9月11日から公開。
【作品情報】
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