A24製作、第75回ベルリン国際映画祭銀熊賞、第83回ゴールデン・グローブ賞女優賞(コメディ/ミュージカル部門)を受賞したローズ・バーン主演作「ワンオペレーション」。9月7日に都内で「『ワンオペレーション』113分、笑ってしまうほど、もう限界試写会」を開催され、上映後トークイベントに映画監督の大九明子が登壇し、司会進行を務めた物書きのSYOと作品を語った。
本作は、本来は複数人で担うべき育児や家事、仕事を一人で背負う“ワンオペレーション“という現代社会の構造的問題を、スリラー、心理ドラマ、ダークコメディが融合した予測不能な物語として描き、主人公の日常とアイデンティティーが崩壊していく悪夢を、観る者に追体験させる衝撃作。監督・脚本は、本作が長編2作目となるメアリー・ブロンスタイン。
まず大九監督は「皆様とご一緒に拝見したんですけれど、すごい緊張感だった」と振り返り。オンライン試写で一度鑑賞していたものの、劇場で改めて観ると「音の再現性とか全然違う」と劇場鑑賞ならではの感想を述べる。
SYOが、主人公リンダを捉える極端なクローズアップについて「当事者のしんどさみたいなものを体験させる映画でもある」と語ると、大九監督は、個人の辛さを表現するためのひとつの手段として、「クローズアップばかりを撮る」カメラワークがあるのではないかと語った。
一方で大九監督は、本作を「ものすごく楽しんで作っている映画」だと感じたという。激しい場面に突然キラキラとした可愛らしい音が入る演出について、「ものすごいものを、激しいものを表現しようとすればするほど、ちょっとふざけたり、ちょっと可愛くしたりしたい」と、自身の感覚とも重ねてコメント。幻のように現れる光の表現にも触れ、「一つ一つがとても可愛らしくて、そういうところもとても楽しい」と語った。
SYOは、大九監督の過去作に触れながら、本作との共通点について話を振り、「『勝手にふるえてろ』との共通点があるのかもしれない」とコメント。大九監督はそれを受け、本作の冒頭に原題「If I Had Legs I’d Kick You(足があったら蹴ってるわ)」という言葉が赤字で大きく映し出される場面が印象的だったと語り、自身も「以前はもっと“怒り”があった、その怒りをスクリーンに叩きつけるような表現を楽しんでいたので、本作のブロンスタイン監督もその感覚があるのではないか」と語った。
SYOはさらに、リンダが周囲から差し伸べられた手を払いのけたり、モーテルの店員にきつく当たったりする姿に触れ、「『かわいそうでしょ』って描いていない感じ」「好かれようとしていない感じが非常にリアル」とコメント。主人公を単純に“かわいそうな人”として描かない本作について共感した。
A24作品を数多く手がけてきたスタッフが参加している本作について、SYOは、A24作品に通じる魅力として、「地べたを生きてる人のこの切れ気味な感じに、物語的・寓話的な面白さを混ぜてくる」と述べ、「これがあなたたちの映画なんですと作家性を押し出してくるような感覚がある」と語る。大九監督も「久々に“らしい”やつが来たなって感じがしました」とコメント。続けて「編集や音の付け方、ゆっくりとカメラを動かすような演出など、私もすごい好きでやっちゃいます」と笑顔で明かした。さらに、極限まで張り詰めた場面の直後に、楽しそうに歌う場面へ切り替わる構成についても触れ、「場面があっちこっちへ行ってしまう、それがまさに日常のリアルさを感じさせる演出でした」と称賛した。
主人公リンダを演じるローズ・バーンの演技について、大九監督は、片方の目や頬の筋肉をわずかに動かす細やかな表現に注目。「本当にそのほっぺの筋肉だけを上手に動かして」と絶賛し、「どうやって自分を追い込んでやっていったんだろう」と、その演技に驚きを見せた。SYOも、カメラが極端に近い距離まで迫るなか、リンダ自身は必死で切迫しているにもかかわらず、「ちょっと笑えちゃう」という絶妙なバランスを指摘。
終盤では、ラストシーンで、今まで見えてこなかったことが現れる、その解釈についての話題に。SYOが「ようやく視野が広がったのかな」と語ると、大九監督も「視点がひっくり返ったということ」なのではないかと共感した。海などの開けた場所が登場することにも触れ、それまでの「息苦しさ」から「抜ける感じ」についても語った。
本作が観る人に何を問いかけているのかと問われると、大九監督は「問いかけてるの?」と笑いながらも、本作は「色々話したくなる映画ですよね、作者の作為的な遊びについても、あれってなんなんだろうね、と。邦題の通りワンオペレーションを経験したことがある方も気づきがあると思います」とコメントした。
最後に大九監督は、「気に入らないなって思う方もいるでしょうし、気に入ったなって思う方もいるでしょう。でも、それこそが優れた映画だと私は思います」とし、続けて「私は本当に優れた素晴らしい映画だと思いました」と絶賛した。9月18日からヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開。
【作品情報】
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ワンオペレーション
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