障害者の訪問介護をする30代の花さん(@kgw206012793791)にはもうひとつ、別の顔がある。実は、障害者専用のデリヘル「らぶ・すけっと」の代表でもあるのだ。
未経験の業界だったため、デリヘルドライバーやキャストを経験してからお店を開業したという花さん。彼女はなぜそこまでして、障害者の性問題と向きあいたかったのか。
介護の現場で知ったショッキングな現実
もともと福祉に携わることが好きだった花さんは、産後、障害者専門のホームヘルパーとして働き始めた。そんなある日、偶然テレビで特集されていた障害者の性介助の映像に衝撃を受ける。
「会話や笑顔はなく、手袋をはめて淡々と作業のように行われていました。その光景が強烈で、頭から離れなくなったんです」
普段はしにくい話題に花を咲かせたり、肌が触れ合ったりする非日常を楽しむのが性行為の醍醐味ではないか。それなのに、特集されていた性介助はあまりにも無機質で冷め切っていた。
違和感を抱いた花さんは、重度の身体障害を持つ利用者に「性処理はどうされているのですか?」と率直に疑問をぶつけた。
「返ってきたのは『ただただ我慢だよ』という衝撃的な答えで……。障害があるというだけで、性という部分がタブー視されていると感じました」
未経験だった「夜の世界」へ飛び込んで
障害者の性問題をなんとか解決したい。そう思うようになった花さんは、大胆な行動に出る。まずは業界の仕組みを知ろうと思い、夜の世界へ飛び込んだのだ。
とはいえ、風俗業界は未経験。恐怖心もあったため、初めはデリヘルのドライバーになった。
「テレビで見るようなオラついた人ばかりがいる世界というイメージでしたが、実際に働いてみると、ごく普通の主婦の方もたくさんキャストとして働いていて。何事も経験しないと分からないなと感じました」
ドライバーを経験した後は、デリヘルのキャストとして働いた。まずは、健常者を対象とする店舗で、業界の一般的なサービスや接客法を学ぼうと思ったからだ。
「良い人も悪い人もいて、いいことも辛いこともたくさん経験しました。キャストは働く環境やお客様を選ばないと壊れてしまうんだと身をもって学びました」
当時は心が折れそうになると長期休暇を取り、心身を休めていたという花さん。ただ、この経験は後に自身の店舗を立ち上げた際、キャストの心身を守るために役立った。
高齢客が口にした感謝の言葉
2021年、花さんは実店舗を持たない出張型の障害者専用デリヘルを開業した。その先で知ったのは、性欲という人間が持つ根本的な欲求を満たせずに悩んでいる人が想像以上に多くいるという現実だった。
家族と同居している障害者は多いため、障害者向けの風俗店では、まずお店の利用について理解を得るハードルが高く、事前の打ち合わせがスムーズに進まないこともある。
「健常者であっても、性の悩みや風俗の利用を家族に言うことはほとんどありませんよね。それは障害を持つ方も同じ。家族の同意が得られない、恥ずかしくてヘルパーさんに話せないなど、利用が難しい人はたくさんいます」
料金形態は、一般的なお店と同じである。接客中に花さんが一番心がけているのは、最初の会話で障害に関する話や困っていること、やりたいことなどを聞くことだ。
「なるべくご希望に添いたいからです。例えば、首の角度が変えられず下を向けない方で、『自分がされているところを見たい』と希望される場合はパソコンやスマホを2台使ってビデオ通話をしました」
これまで受けた依頼の中で特に印象に残っているのは、長期入院に控えた高齢のCさんとの時間だ。遠方に住んでいたCさんは、数日後には二度と自宅に戻れない長期入院が決まっていた。
「『人生で最初で最後の利用』とお問い合わせいただきました。諦めていたけれど、ヘルパーさんがお店を見つけてくれたと嬉しそうに話してくれて」
入院したら、もう自宅には戻れないから本当にありがとう。そう言われた時、花さんはお店を立ち上げてよかったと心から思った。
安心してサービスを受けてほしい
障害者専門風俗店の運営を続けていくには、メンタルの強さも必要である。利用者が急変した時に圧し掛かるプレッシャーが段違いに重いからだ。
「ひとりひとり異なる障害の特性を、会って数分で把握し、対応しなければならないので大変なことも多いです。だからこそ、事前の打ち合わせが重要なんです」
花さんの店には、福祉経験者や看護師、介護士の資格を持つキャストが在籍している。それは、知識をもったキャストさんが向かうことで、安心して性的サービスを受けてほしいという想いからだ。
「だから、キャストの確保が難しいです。当店では理念に共感してくれた方のみを採用しています。現在、キャストは12名。特に20代の応募が少ないと感じています。少しずつ当店のような取り組みを知ってもらい、人間の三大欲求のひとつが当たり前に満たせる世の中になればと願っています」
現状では、障害者の風俗店の利用は家族や周囲の理解が得られにくく、協力者も少ない。また、障害を持つ女性向けの風俗店の立ち上げはリスクが大きいため、健常者向けの女性用風俗が注目されている今でも、当事者が抱く悩みに具体的な解決法を打ち出すことが難しい。
自分自身が当事者にならないと気づけない苦悩が障害者の性問題には多くあるのではないか――。花さんの開業ヒストリーは、そんな気づきももたらすことだろう。
<取材・文/古川諭香>
【古川諭香】
フリーライター。生まれつき心臓病で脾臓がない。得意な執筆ジャンルは生きづらさ、障害、猫。おキャット様と快適に暮らせる家を建てたほど、私生活では猫の下僕。X:@yunc24291
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