2010年にTBSに入社し、『朝ズバッ!』『報道特集』などを担当したのち、2016年に退社したアンヌ遙香さん(40歳・以前は小林悠として活動)。
20年間生活した東京をあとにして、故郷北海道で自然や犬との気ままなシンプルライフを楽しむアンヌさん。本連載では、40代の今だから感じる日々のあれこれを綴ります。
第99回となる今回は、アンヌさんが北海道のお気に入りスポットを紹介。そこから、北海道ならではの魅力について綴ります(以下、アンヌさんの寄稿です)。
ロケの休憩時間に立ち寄った、私のお気に入りスポット
9月に入りました。私が暮らす北海道札幌市はもう完全に秋の風。
ちょっと寂しいと思いつつ、そんな秋の足音に耳をすましながら先日道内で泊まりがけのロケに行ってまいりました。出演者やスタッフ、機材を乗せたロケバスで、丁寧に時間をかけての移動。
私は昔から、乗り物に乗るとお手洗いが近くなるタイプでして。ディレクターさんが「ここでトイレ休憩を入れましょう」と予定を組んでくれているにもかかわらず、「あの……すみません、もう一回行きたいです」と言い出すタイプ。
本当に申し訳ないなと思いながら、何度かサービスエリアやパーキングエリアに寄らせていただきました。その中のひとつが十勝平原サービスエリア。
十勝平野と日高山脈の雄大な景色を一望する田園地帯の中にあるサービスエリアなのですが、畑があって、牧草地があって、ところどころに防風林のポプラの木が立っている。その向こうには遠く山並みが……北海道と聞いて、多くの人が思い浮かべるような雄大な景色が広がっている、個人的お気に入りスポットなのです。
「せっかくだから見たい!」大人の全力ダッシュ
今回も休憩でバスを降りた私は、せっかくだからその景色を観たい……と思ったものの、何度もトイレ休憩を取りたがる私のせいで他のスタッフさんたちを待たせてはならない……いや、でも少しならいけるか……と迷った挙句、私は一路、ビュースポットへ猛ダッシュ!! することにしました。
大人になってこんな全速力したことない、というくらいの走りっぷり。本当に走りました。
そして、肩で息をしながらスマートフォンを取り出しパシャパシャと写真撮影。ところが、その日はあいにくのお天気。遠くの山々は雲に覆われていて、ほとんど見えません。
それでも私は満足。またバスへ向かって走り出しました。すると、そんな私の背中に向かってある一人のご婦人が話しかけてきたのです。
「すみません! あそこからは、何が見えるんですか……?」
ちょっとワクワクした様子で、目を輝かせながら話しかけてくれるではないですか。
「あそこから何が見えるんですか?」突然声をかけられて
おそらく道外から北海道旅行に来ていた方だったのだと思います。ショートカットに少し夏にしては厚着ともいえる服装が印象的。
考えてみれば、傍から見れば私は、バスから突然飛び出して、ものすごい勢いで展望スポットまで走っていき、写真を何枚も撮って、また大急ぎでバスに戻ろうとしている人。
「この人があんなに急いで撮りに行くんだから、よほどすごいものがあるに違いない」
そう思われても仕方ありません。私は少しとまどいつつ、「何が見えるか」の最適解を瞬時に脳内で導きつつ、
「ああ……うーんと……遠くに山が見えるんですけど、今日は雲がかかっていて、ちょっと見えにくいかもしれません」
と答えました。するとそのご婦人は、
「じゃあ、雲があるってことは、雲海が見られるってことなんですかね?」
と、さらに目を輝かせるではないですか! うーん、雲海と呼ぶのか……いや、あれは通常の厚い雲のような気もする……と私は脳内でぐるぐる。
迷った挙句「お好みの景色だとよいのですが、よろしければぜひ!」と言い残し、再びロケバスへダッシュし、お別れとなりました。
北海道の不思議な魅力を考える
息を整えつつ、バスの中からそのご婦人の姿を改めて眺めてみた私ですが、彼女は少し立ち止まり景色を見ていましたが、さっと踵を返してバスへと戻っていかれました。
何を思ったのかな。もしかしたら、「思っていたほど特別なものはないな」と思ったかもしれません。
でも、そこで私はふと感じたのです。これこそが、北海道という考え方ができるよね! と。
北海道には、もちろん有名な観光地がたくさん。ラベンダー畑もある。青い池もある。小樽運河もある。釧路湿原だって知床の世界遺産だってある。
「ここに行って、これを見る」という目的地はいくらでもあります。ありすぎるほど。
でも北海道の魅力って、実はそれだけじゃない。何か特別なものが「ある」わけではなく、むしろなにも「ない」ときがあります。ただ、大空があったり、ただ、大地があったり。
「ないけど、ある。あるけど、ない」
そんな、ちょっと矛盾したような、仏教思想にも通じるような感覚です。私にとって十勝平原サービスエリアの景色もそう。
山が見えるから好きというより、その場所に立つと、子どもの頃に家族で十勝のリゾート地に行った記憶がよみがえったり、東京で20年以上暮らして、北海道へ戻ってきて仕事を再び始めたときに、「ああ、この景色、やっぱり好きだな」とぐっときた気持ちまで追体験できたり。
だから、山が見えても見えなくても私はよいのですよね。大空と大地があれば、それでいい。
まさに松山千春さんの歌に出てくるような「大空と大地の中で」の世界がそこにはあるのです。
北海道では「何か」を探しすぎなくてもいい
最近は、旅行に行くにも明確な目的を設定するパターンが多いような印象があります。SNSで見た絶景を実際に見に行って、その写真を撮って、投稿する。
もちろん、それも楽しい! 間違いない。でも、北海道に来たときくらいは、何かを探しすぎなくてもいいのではないでしょうか、なんて生意気にも思ったり。
知れば知るほど、帰ってくれば帰ってくるほど、好きになっていく不思議。
「ないけど、ある。あるけど、ない」そんな北海道の良さをぜひ多くの人に知ってほしい今日この頃。
<文/アンヌ遙香>
【アンヌ遙香】
元TBSアナウンサー(小林悠名義)1985年、北海道札幌出身、在住。現在はフリーアナウンサーとしてSTV「どさんこWEEKEND」メインMCや、情報番組コメンテーターして活動中。北海道大学大学院博士後期課程在籍中。文筆家。ポッドキャスト『アンヌ遙香の喫茶ナタリー』を配信中。Instagram: @aromatherapyanne
【関連記事】
・
40歳・元TBSアナが北海道に戻って「本当によかった」。愛する地元コンビニで最近知った“すごいサービス”
・
「怖い話が大好き」なのに、なぜか最後まで見られない…40歳になって気づいた意外な理由
・
40歳元TBSアナ、北海道在住の私が「持ち家より賃貸」に傾くワケ。持ち家に感じる“怖さ”とは
・
40歳・元TBSアナが「エアコン掃除」をプロに頼んで“ぐったり疲れてしまった“ワケ「お茶を出せる余裕がほしい」
・
「私、苦手なんだよねー!」女子トイレの順番待ちで“若い女性2人の会話”に40歳の私が驚愕したワケ