スタンリー・キューブリック監督の遺作「アイズ ワイド シャット」には、監督の急死後に削られた20分がある、といううわさが長く語られてきた。公開された版は159分だが、本来は179分あったとされる。そのうわさについて、娘のビビアン・キューブリックが自身のXで説明した。
「アイズ ワイド シャット」が公開されたのは1999年で、当時夫婦だったトム・クルーズとニコール・キッドマンが主演した。旅行先でほかの男に惹かれたと妻に打ち明けられた医師が、深夜の街をさまよったすえ、郊外の館で開かれている秘密のパーティに足を踏み入れるという筋書きだ。
うわさが立つ理由は、監督が亡くなった時期にある。キューブリック監督は1999年3月2日、ニューヨークのワーナー本社で、クルーズとキッドマン、それにワーナーの幹部に編集を終えた版を見せた。心臓発作で亡くなったのはその5日後だ。作品はまだ完成しておらず、整音と音楽の仕上げが残っていた。葬儀の翌日から編集技師のナイジェル・ゴルトが作業を再開し、米国で公開されたのは4カ月後の7月16日で、監督はそのバージョンを見ていない。
実際、監督の死後に手が入った箇所はある。仮面をつけた女の声は、死後、ケイト・ブランシェットが吹き替えた。米国公開版では、乱交場面の性的な描写を人の姿で覆い隠すCG処理も加えられている。NC-17指定を避けてR指定に収めるためのもので、ワーナーが施した処置だ。
いま憶測を呼んでいるのはこの秘密のパーティの正体だ。本来の結末では、パーティを開いていたのが子どもを対象にした性犯罪の組織だと明かされる。クルーズとキッドマンが演じる夫婦は、最後に自分たちの娘をその組織に差し出す。ワーナーがこの結末に反発し、監督の死後に作り直したのだという。
うわさが一気に広まったのは2024年12月だ。「パルプ・フィクション」でアカデミー賞を受けた脚本家のロジャー・エイバリーは、米国で人気のポッドキャスト司会者ジョー・ローガンの番組に登場。ここで「アイズ ワイド シャット」の結末が違っていたことに加え、もともと三人称のナレーションが入っていたが、ワーナーがそれを認めなかったとも述べている。エイバリー自身はこの作品に関わっておらず、又聞きだと断っている。
うわさはその後、未成年者への性犯罪に問われて2019年に死亡した米富豪ジェフリー・エプスタインの事件と結びついた。キューブリック監督はエプスタインの犯罪か、それに近い組織の存在を知っていたのではないか、というものだ。
このたびの投稿でビビアンは、父の死後に20分が削られた事実は確認できていないと書いている。
「当時も、その後も、そんな部分が存在したと確認できるような話は、私は何も聞いていません」
当時耳にした変更も、CG処理の1点だけだったという。かりに20分が削られていたなら、いずれ自分の耳に入っていたはずだ、とも書いている。
そもそも技術的に無理がある、というのがビビアンの主張だ。父が亡くなった時点で、編集はすでに確定していた。確定した編集に合わせて撮影フィルムの原版が切られるため、あとからつなぎ替えることはできず、素材も残っていないという。
作業を引き継いだゴルトも、キューブリック監督の最終的な編集は公開されたものとほぼ同じだと語っている。
結局のところ、「アイズ ワイド シャット」で描かれるパーティが世間を騒がせたエプスタイン事件を彷彿とさせることから広まった都市伝説といえるかもしれない。
【作品情報】
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アイズ ワイド シャット
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写真:Everett Collection/アフロ