歌舞伎俳優である尾上松也が金田一耕助を演じると聞き、膝を打ったファンは少なくないはずだ。歌舞伎はもちろん映画、ドラマ、舞台と八面六臂の活躍を続ける松也は、このオファーをどう受け止め、足場を固めていったのだろうか。松也が確立した、愛嬌と色気が同居した金田一像までの道程に迫る。(取材・文/映画.com編集長 大塚史貴、写真/間庭裕基)
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【独占/動画インタビュー】尾上松也が明かす金田一耕助像の作り方
シリーズ累計発行部数5500万部を超える横溝正史のベストセラー「八つ墓村」が、“日本三大名探偵”とも称される人気キャラクター・金田一耕助の初登場から80周年という記念すべき節目に、完全新作として映画化。「呪怨」シリーズ、「犬鳴村」「あのコはだぁれ?」などで手がけた清水崇監督がメガホンをとり、金田一に息吹を注ぐ松也とタッグを組んだ。
映画でこれまでに金田一を演じたのは、13人。初代は片岡千恵蔵、直近では1996年に豊川悦司が体現している。石坂浩二や古谷一行が息吹を注いだ金田一のイメージが強いが、過去には高倉健、中尾彬、渥美清、西田敏行、鹿賀丈史らも演じている。松也の脳裏に浮かぶ金田一について、どのような姿が思い浮かぶか聞いてみた。
「私も石坂さんや古谷さんの印象が強いです。金田一は変わり者で自分の外見などに無頓着。典型的な天才肌の変人……でしょうか。いつも頭をかきむしっているイメージですね」
初登場から80年、テレビドラマ版も含めると更に多くの名優たちが金田一役を担ってきただけに、オファーを受けて全くプレッシャーを感じなかったといえば嘘になるだろう。
「(オファーを受けたのは)クランクインの半年ほど前で、その時点では『八つ墓村』を映画化する、金田一は僕で、ということ以外は決まっていなかったというか、オファー段階では分かっていませんでした。『八つ墓村』に携わることができるということにとても驚きましたし、金田一役でのオファーでしたので、即決というわけにはいきませんでした。ですが、こんなに光栄な機会をいただけるのは、この長い芸能の歴史の中でも数限られた役者だけだと考え、ぜひお受けしたいと思いました。
とはいえ、お受けした後に『大丈夫かな…』と不安に思う要素もありました。そんな時に監督が清水崇さんに決まったと連絡を受け、とても勇気をいただきましたし『これは面白くなりそうだ』と感じることができました。
ホラーを得意とされている清水監督の視点、切り口で『八つ墓村』を作られるのであれば、これまでとは全く違う『八つ墓村』ができるのではないか。となると、僕が演じる金田一もこれまでとは少し違う形で作れるのではないかと考え、楽しみが大きくなりました」
名優たちが扮した、それぞれの金田一耕助という参考事例が多すぎるほど存在するなかで、松也は「これまでとは異なる金田一」を“愛嬌”と“色気”のバランスを絶妙に取ることで、確かに体現してみせた。清水監督の世界観を金田一として生きるなかで、いかに肉付けしていったのだろうか。
「まず設定が現代となりましたので、少し感覚は違うのかなと最初から感じておりました。また、清水監督と金田一について少しお話しする機会がありました。僕も含めて、パブリックイメージにあるような金田一像を一度取っ払おうと。髪をかきむしる描写や、服装も羽織袴姿ではなく洋服にして一新したものを作ってみたいというお考えをお聞きしましたので、自分の中でも参考になりました。
衣裳合わせをしていくなかでも、羽織袴姿からただ洋服に置き換えるのではなく、かなり洗練されたものを使っていて、色合いやバランスが計算され尽くしていました。そういった服を身に着ける時点で、身だしなみに無頓着な金田一ではなくなっていますよね。これまでの金田一のようにズカズカと何事にも臆することなく猪突猛進で突き進んでいく変人ではなく、現代的なインテリ感のある変人を目指そうかなという意識がありました」
取材前に本編を観て感じた良い意味での違和感が、「現代的なインテリ感のある変人」という表現で妙に腑に落ちた。全ての金田一耕助を観ているわけではないので断言はできないが、金田一が歯磨きをするシーンはこれまでになかったのではないだろうか。その点も、松也版金田一耕助らしさといえる。
「その通りですね。僕もこれまでそういう描写はなかったような認識ですし、かといってどの金田一も髪をかきむしっているわけでもない。それにしても、歴代の中でも自分のファッションなどにきちっとこだわりのある人なので、置いていかれているわけでも、我が道を行き過ぎているわけでもなく、時代の波に乗りながら自分の個性を生かす人物というイメージでした。明らかな変人の態度というよりは、きちんとマナーや道徳をわきまえているのかと思いきや、やっぱりネジが飛んでいるところもあるね……という雰囲気を作り出せたらいいなと思いながらやっていました」
実写映画への出演という観点で振り返ると、「シベリア超特急2」を皮切りに「源氏物語千年の謎」「すくってごらん」「Gメン」「ミステリと言う勿れ」に続く6作目。主演は「すくってごらん」以来5年ぶり2度目となる。歌舞伎の世界とでは、声の出し方にも大きな違いがあるなかで、今回最も難儀した点について聞いてみた。
「僕が目指した変人すぎない、現代的でありたいという部分のニュアンスですね。監督とも相談しながら、自分なりの要素を踏まえたうえでの金田一らしさをどこかに出せたらなと考え、シーンごとにちょっとトライしてみて監督に判断いただくというチャレンジの期間でした。
難儀したということでもないのですが、監督は『かきむしる感じはなしにしながら、彼のクセみたいなものはどこか違う形で出したい』とおっしゃっていらしたんです。それは、僕自身にあるクセを生かせないかと。それで僕は、子どもの頃から人の耳をいじるのが大好きだという話をしたら『それ、いいかも』となって、今作では物思いにふける金田一が何か考えるときには、髪をかきむしるのではなく耳を触って考えるというのを取り入れていただきました」
本編ではバディ的な立ち位置となる奥智哉、美しき未亡人役の堀田真由との芝居場が多く見受けられた。若い2人とのキャメラの前で対峙することは、松也にも大きな刺激となったようだ。
「奥さんや堀田さんとも初共演でしたし、それ以外の共演者の方々もほとんどが初めてご一緒させていただきました。金田一が言葉を交わす登場人物は限られていましたが、初めて対峙する俳優さんたちがどのような演技をされるのか分からないですし、どう仕掛けてくるかも分からない。それだけでも俳優としては鍛えられる瞬間といえます。
年齢にかかわらず勉強になりますし、自分にとって実に多くの引き出しを開けてくれて、引き出しの要素を作ってくれる体験にもなります。奥さんはキャストの中で一番若かったと思うのですが、年長の先輩たちを相手に臆することなく、しっかりとお芝居ができて凄いなと思いながら共演をさせていただきました。堀田さんもセリフに対して背景と重みというものが表情に出ていらっしゃるのを間近で見させていただいて、僕自身も勉強になりました。
映像作品であっても舞台だとしても、役を通して演じているという意味では同じですが、(劇場に集う)何千人の方に分かっていただけるように表現するのと、カメラの前で表現するのではサイズ感も含めて全く変わってくるので、映像作品への出演回数がそれほど多くない僕も、出させてもらうたびに少しずつ吸収させていただいているところです」
今作は、田治見家をめぐる血筋が起こす悲劇について描かれる側面があるわけだが、亡くなった人々の積年の思いが引き起こした事件ともいえる。死んで肉体が消えたら全ておしまい、と割り切れる人ばかりではないだろう。先人たちの「残した思い」について、松也に聞いた。
「先輩たちからの教訓というか伝承というものがないと、歌舞伎は成り立ちません。どこの世界も実は同じなのかなと思うのですが、歌舞伎の世界は特に形としてはっきりと不可欠な要素として残っています。亡くなられた先輩方が作ってきてくださった礎があるからこそ、今も歌舞伎を上演させていただけることを常に意識していますし、僕ら自身も先輩方から受けている指導や教訓を、また後輩たちに伝えていかなければならないという意識を常に持っています。
おっしゃるように歌舞伎は肉体芸術ですので、いくら映像やビデオに残っていてもその方が亡くなってしまったら、その方の芸はもちろん生で観ることは叶わなくなってしまう。役を通して教えていただくことによって、僕らがその精神を受け継いで後に繋げていくということは重要なことですし、歌舞伎にとって不可欠なこと。『魂は死なない』という意味では、常につながっているのかなという気はしています」
歌舞伎俳優としての活躍はもちろん、前述の通り映画のほかテレビドラマ、舞台、吹き替え声優など活動の範囲は枚挙にいとまがない。劇中、堀田のセリフに「みんなが望んでその場所で生きているわけではないでしょうけれど、何か意味があると思いたい」というものがある。松也は俳優として生きる意味をどう捉えているのかを最後に聞いてみた。
「根本的に俳優は好きではないと続けていかれない職業とも思っています。僕自身は仕事がモチベーションになっていますし、仕事が趣味みたいなところがありますので、意義としてはもう『自分が好きだから』。これに尽きます。
ただその中で、歌舞伎や作品を観て日々の糧にしてくださるファンのお客様方がいらっしゃることを理解しなければなりませんし、自分のためだからって自己満足でやっていたら、それはもうやる意味がない。僕らは観てくださるお客様があってこそのエンタテインメント、パフォーマーですから。責任が重くなればなるほど、その感覚は強くなりますし、同時に自分が培ってきたものを違った表現で更に楽しんでいただけるように進化していきたいという感覚にもなります。
それがまた観てくださるお客様にとっても新たな楽しみに繋がり、例えば同業者であれば『こういう表現、こういうやり方もあるんだ』ということで、後輩たちの後押しに繋がる可能性もある。その両面で役に立てるようになれたら嬉しいですし、そういうエンタテインメントを作る俳優になっていきたいと思っています」
【作品情報】
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八つ墓村
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