(撮影/唐松奈津子)
9月1日(火) 12:00
東急池上線の御嶽山駅・久が原駅周辺は、都心へのアクセスの良さと落ち着いた住環境を兼ね備えた住宅街です。2026年9月、リクルートから「SUUMO住み続けたい街ランキング2026 首都圏版」が発表されました。そのうち「家賃が手頃×住み続けたい街ランキング」(ファミリータイプ・家賃16万円以下)において東京23区で1位に輝いた「御嶽山(おんたけさん)」。背景には神社・商店街・銭湯・消防団……さまざまな場所で人と人が交わり、支え合う「ご近助」の文化がありました。この街が住み続けたいと思われる理由を探ります。
東京23区の「家賃が手頃×住み続けたい街」1位は「御嶽山」SUUMOでは2年に1度、実際にその街に暮らす住民へのアンケートをもとに「住み続けたい街ランキング」を発表しています。2026年9月発表の最新版では、「家賃が手頃×住み続けたい街(駅)ランキング」において、ファミリータイプ・家賃16万円以下の街を集計した結果、東京23区1位は「御嶽山」、2位は隣駅の「久が原」となりました。
「住みたい街」が憧れやイメージを含むのに対し、「住み続けたい街」は実際に暮らす住民の満足度や愛着が反映されるのが特徴。東急池上線で隣り合う御嶽山・久が原の両駅は、手頃な家賃と住み心地の良さを兼ね備えた街として支持を集めているようです。
家賃が手頃×住み続けたい街(駅)ランキング
東京23区・ファミリータイプ家賃16万円以下
御嶽山・久が原の両駅は大田区北西部に位置し、東急池上線沿線の静かな住宅街として知られます。多摩川方面や田園調布(徒歩約30分)へとつながる低層住宅地です。
「五反田」駅~「蒲田」駅間を結ぶ、東急池上線の中ほどにあり、五反田までは約20分、蒲田まで約10分と都心・横浜方面へのアクセスも良好。旗の台では大井町線に接続し、自由が丘や渋谷方面へも乗り換えできます。
御嶽山駅からの所要時間
条件:平日8:00~8:30の間に出発するダイヤの中で有料特急を除く最短の分数(「駅探」調べ)
沿線・駅の一部を省略して表記
(出典/「SUUMO住み続けたい街ランキング2026 首都圏版」記者発表会資料(リクルート))
羽田空港へは蒲田からバスで1本、京急線の利用も可能で、タクシーでも20~30分ほどと好アクセス。御嶽山駅の真下を東海道新幹線・横須賀線が通っており、その上を池上線が横切る立体交差は全国的にも珍しい景観で、鉄道ファンにも知られたスポットです。
このエリアに注目する大きな理由の一つが、住宅相場の手頃さです。カップル・ファミリー向けの家賃相場は月16万円程度。JR沿線の「五反田」駅や「大井町」駅、「蒲田」駅などと比べて割安感があり、同じ東急池上線内でも都心寄りの「旗の台」駅などと比較しても家賃が抑えられています。
大規模な再開発が行われず、低層住宅地のまま維持されていることで、地価の上昇が抑えられてきた面もあるのでしょう。
御嶽山は「御嶽神社」由来の住宅街。商業、公共施設、自然、医療などが集まる御嶽山という駅名は、天文年間(1535年頃)の創祀(そうし、神さまを祀り始めたこと)と伝えられる御嶽神社に由来します。木曽御嶽山信仰の拠点として多くの参拝者を集めてきた地域の守り神で、境内には大田区指定文化財の社殿彫刻や樹齢約400年の夫婦松があります。商店街の中にあるとは思えない、静かで厳かな雰囲気を醸しています。
駅前から続く商店街には、大型スーパーやチェーン店とともに多くの個人店が軒を連ねています。銭湯や駄菓子店などもあり、昭和の面影を残す生活感と静けさが共存するエリアです。
徒歩圏内には寺社、児童館、図書館、公園、文化センターなどの施設が集まり、「わざわざ遠出しなくても暮らしが完結する」街でもあります。駅から御嶽神社へ向かって商店街、東調布公園、旧六郷用水散策路、多摩川緑地へとつながる動線は、日常の散歩コースとしても人気。桜坂の桜、街のいたるところに点在する梅の名所など、季節ごとの見どころも満載です。
さらに医療面においても、都立荏原病院があるほか、駅近で複数のクリニックが入居する1棟ビルがいくつもあり、内科・小児科・耳鼻咽喉科・眼科・歯科などが揃っています。
御嶽山・久が原エリアを歩いていると、レトロな雰囲気とともに街全体にゆったりとした時間が流れていることに気付きます。起伏のある台地に低層住宅が広がる中で、御嶽神社の木々や坂道、水辺などが日常の風景に溶け込んでいます。
住民からは「多摩川から見る夕日」「富士山が見える景色」への愛着を挙げる声も多く、再開発の波が及んでいない街並みが、暮らしやすさ、住み続けたいと思う気持ちにつながっているようです。
これだけ支持の高さを誇る街の魅力を一言で表すなら「ご近助」というキーワードが浮かびます。ご近助とは、近所や地域の人同士が困ったときに気軽に助け合える関係性のこと。今回のアンケート調査では街の魅力として1位の「街が閑静である」こととともに「地域に顔見知りや知り合いができやすい」が3位と高スコアを記録。また、街での行動としても2位に「街でのご近所や馴染みのお店での挨拶や会話などの交流」が挙げられており、日常的なつながりの豊かさが評価されています。
安全面でも、街の魅力2位の「自然災害が少ない/防災対策がしっかりしている」、7位「防犯対策がしっかりしており治安が良い」と高い評価を受けています。その背景には、さまざまな地域イベント、今なお積極的に活動する町会や商店会の存在、そして消防団による夜間警戒活動や防災訓練など、長年にわたる地域コミュニティの積み重ねがあります。
御嶽山駅を中心とした生活圏。商店街では年間を通して多彩なイベントも実は、大田区には商店街が約125カ所(東京都産業労働局「令和7年度 東京都商店街実態調査 報告書」より)あり、その数は東京都の中でもトップクラス。御嶽山・久が原の各駅前の商店街では、ハロウィンなどのイベント、ライラック祭り、文化センターまつりなどを開催しています。
「街に知り合いができやすい」という声の背景には、こうした地域行事の存在があるのでしょう。「転居後もお祭りやイベントのためにわざわざ足を運ぶ人がいる」と言われるほど、地域の人々の心の拠り所になっているようです。
街のシンボルであり、地域コミュニティの中心となっている御嶽神社でも、節分祭・五月祭・例大祭・酉の市など、年間を通じて祭りを中心とした行事が行われています。例大祭では子ども神輿や女神輿、山車、本神輿が街を練り歩き、多くの住民が参加します。
地域のイベントは、商店会や町会が中心となって開催していますが、防犯・防災に対する高い評価の裏には、地域の消防団の活躍もあります。
田園調布消防団第2分団の分団長、片桐範之(かたぎり・のりゆき)さんは、御嶽山・田園調布エリアを中心に、年3回の防災訓練や夜間警戒活動を実施。近隣の小学校での総合防災教育にも参加し、子どもたちへの防災教育も担っています。
「消防車の台数や消防署の人員は限られています。だからこそ、大規模災害時に備え、地域に住む私たちのような消防団員が近所の状況を把握していることが大切です。例えば、あのお宅には足の悪いおばあちゃんがいる、といった情報を共有することが、本当の意味での地域防災につながると考えています」(田園調布消防団第2分団片桐さん)
消防団では仕事を持ちながら20代~70代の老若男女25名のメンバーが活動しています。スローガンとして掲げる「守ろう、この街。この未来」の“未来”という言葉には、子どもたちへの思いが込められているそう。
団員の一人であり、現在、子育て中の40代男性は「イベントや訓練を通じて地域の方々の顔が分かっていることが、いざという時の力になる。この街では子どもたちも安心して育てられると感じている」と言います。
大田区では、学校防災活動拠点や地域防犯パトロール、こどもSOSの家なども整備され、防災・見守りが生活に近いところで機能している様子。
地域のにぎわいや「ご近所」の要として“地域のハブ”としての機能を実質的に担っているお店が点在していることも、この街の大きな特徴です。
例えば、古くから文化として根付いている銭湯文化もその一つ。大田区内には33軒の銭湯があり(2025年12月時点)、その数は東京都内でトップです。
久が原駅前にある「COCOFUROますの湯」は、昭和30年代(1950年代)から地域に親しまれてきた銭湯「益の湯」を、2019年3月リニューアルオープンという形で現代的に再生した施設です。都内固有の天然温泉・黒湯を引き、地域住民だけでなく、羽田に近い立地を生かして遠方からも多くの人が訪れます。
店長の日高晃治(ひだか・こうじ)さんは、銭湯が担う地域コミュニティとしての役割について語ります。
「近所の方が集まって話すなど、コミュニケーションの場になっているのを感じます。『ここで初めて友だちになった』というお客さまの話を聞くと、銭湯が本当に地域のコミュニティになっている、と実感。家族で来ていた小さな男の子が数年経って話しかけてくれることも。日々の中で子どもたちが大きく成長した姿を見る喜びも味わえます」(COCOFUROますの湯日高さん)
また、もう一つ、子どもたちが集まる場所になっているのが2023年8月にオープンした駄菓子屋「パンだがしほんわか堂」です。御嶽山エリアの小学校が母校という店主の中村成吾(なかむら・せいご)さんは、大学時代に塾講師のアルバイトをする中で、子どもたちのある変化に気づいたと言います。
「今の子どもたちは、知らない大人と話す機会が少なくなっているように感じます。先生以外の大人と話す場所、日々をちょっと楽しく過ごせるような居場所が必要なんじゃないかと思い、駄菓子屋を始めました」(パンだがしほんわか堂中村さん)
週5日オープンしているほんわか堂には、放課後になると近所の子どもたちが自然と集まってきます。子どもたちの笑顔が、大人にとっての“ご近助”の原点ともいえる温かさをつくっているのかもしれません。
御嶽商店街の中でも存在感を放つのが、約50年前に創業した藤乃屋書店です。現在、店主を務める甲地康代(こうち・やすよ)さんの父の代に御嶽山に出店。地域に定着し、25年前から甲地さん姉妹が店を支えてきました。
2024年11月のリニューアルによってカフェを併設したコンセプチュアルな書店は、同じビルの3階に小児科があることからも、子育て世帯が気軽に立ち寄りやすい場所。ベビーカーが通れる動線の確保、アイスクリームをはじめとする無添加フードの提供とともに、大人一人でも心地よく過ごせるオシャレな内装など、子育て中の母でもある甲地さん姉妹の細やかな配慮が随所に光ります。
「駅前のお店なので、遠方から訪れたと思われるお客さまから『桜坂にはどう行ったらいいの?』『○○というお店はどこにあるの?』とよく尋ねられます。近所に住んでいると思われる方たちは、お店の中で顔見知り同士で手を振ったり、立ち話をしたり。私自身も年配の方から挨拶やお声がけをしてもらえることが多いので、私も返したい気持ちになって年下と思われる若いお母さんに声をかけたり……そういう自然な交流が広がっていく雰囲気がこの街にはあるように思います」(藤乃屋書店甲地さん)
書店もまた、地域の“ハブ”として機能しているようです。
子育て世帯にも人気の理由。大型公園や充実した支援環境も調査で街の魅力5位となった「子育て環境が充実している」ことは、イベントや商店などでの交流だけに限りません。ファミリー世帯の多くが「よく行く場所」として挙げるスポットの一つが「東調布公園・東調布児童交通公園」です。SL展示、児童交通公園、プールなどがあり、休日には多くの家族連れでにぎわいます。住宅街の中には小さな公園もたくさんあり、子どもたちの遊び場が身近に揃っています。
児童館、おおたっ子ひろば、田園調布本町児童館東嶺町分室など、行政の施設も多く整っています。大田区は地域ボランティアが子育て世帯に寄り添う「ホームスタート・おおた」などの支援体制も充実。地域で「孤育て(孤独な子育て)」を防ぐ仕組みです。
住民アンケートでも子育て系のコミュニティやボランティアへの参加率が高く、子育てにおいても街全体で支える「ご近助」の精神が根付いていることがうかがえます。
日常の延長にある文化と学び。「地域の歴史を大切にする」空気も魅力前述した藤乃屋書店に加え、大田図書館、池上図書館、久が原図書館、嶺町文化センターなど、日常の延長で本・地域史・学びに触れられる公共施設も点在。御嶽神社に限らず、周辺には寺社が多く、街の歴史を感じさせます。大きな文化施設ではなく、生活圏の中に小さな知的拠点がある――それがこの街らしさです。
中でも注目したいスポットが「昭和のくらし博物館」です。1951年(昭和26年)に建てられた民家をそのまま活用した博物館で、当時の台所や茶の間が生活感そのままに展示されています。身近でふらりと立ち寄れる、昔からの時を重ねたコト・モノを大切にする、この地域らしい文化を体現するスポットと言えるのではないでしょうか。
「住み続けたい街」として選ばれ続ける御嶽山・久が原エリア。その根底にあるのは、神社・商店街・銭湯・公園や自然――さまざまな場所で人と人が交わり、支え合う「ご近助」の文化です。
便利さだけでなく、人とのゆるやかなつながりが日常にある。そんな御嶽山・久が原エリアは、日々の安心・安全な暮らしに必要で、けれども近年多くの人が忘れていた懐かしいつながりと温かみを示してくれているようです。
SUUMO副編集長の江原亜弥美(えはら・あやみ)氏は「住んでいる人が自分のことのように街を大切にしている。そういう人が多い街というのは、自然と地域の目ができて、治安も防災も良くなっていくのだと感じる」と評します。この言葉からも、数字だけでは見えない、この街の豊かさを感じてもらえるのではないでしょうか。
●取材協力
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御嶽神社
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藤乃屋書店
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田園調布消防団第2分団
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大田区
・明神湯
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COCOFUROますの湯
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パンだがしほんわか堂
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昭和のくらし博物館
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ホームスタート・おおた
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