教室に「先生がいない」。全国の公立小中学校で、こんな異常事態が常態化している。担任が急に交代し、授業を専門外の教員が受け持つ。産休や病休の代替教員も来ず、現場は疲弊する一方だ。限界を迎えた教育現場の知られざる実態と、深刻化する背景に迫った。
全国の学校で進む教育崩壊。先生も保護者も悲痛な叫び
「新学期になったら、担任の先生が代わっていたんです!娘も私も動揺してます」
小学3年生の子を公立小へ通わせる福岡県の母親は、こう話した。だが、同様のケースは全国の公立小中学校で相次いでいる。多くの学校の業務改善を手がけてきた妹尾昌俊氏が、実情を解説する。
「全国の公立学校教頭会の調査によれば、『欠員』が発生している小中学校は2年連続で約2割に達している。欠員とは、退職や産休・育休、病休を取得した先生の補充が来ない……などの理由で、配置予定の人数に満たない教員で学校を運営している状況のこと。全国で教員不足が常態化しているのです」
人手不足の学校では、当然、教員の負担は重くなる。
「昨年度から教員不足が続き、トイレに行けないほど忙しい。さらに、近々、同僚の先生が産休に入るという。校長はいい顔をしないし、その先生も申し訳なさそうでかわいそうでした。校長の立場もわかるけど、同僚の出産を喜べない職場って何なんでしょう。最近では、特別支援学級の生徒を、通常のクラスに入れて一緒に授業するようになった。本来、いけないことなのに……」(岡山県公立小・40代女性教員)
教員不足の原因はさまざま。時代を反映しているとも言えそうだ。
「女性も男性と同じように働く時代だから、女性教員も多い。男性に比べて結婚退職する人も多いし、産休を取られると一気に学校が回らなくなる。近頃は男の先生も育休を取るので、産休と重なったときはもう修羅場。授業が増えて、3クラスも担任した教務主任は日に日にやつれていって……。病む先生も多くて、新卒の先生は半年で辞めました。教員=過酷というイメージが広まり、そもそもなり手も減っている。先が見えず、私も病みそうです」(青森県公立小・30代女性教員)
教員不足が生み出す教育格差と地域格差
特に、教員一人で全教科を教える小学校では、過重労働に苦しんでいる。週26コマ以上の授業を担当する教員が約4割に上り、休憩も取れない“ワンオペ先生”も多い。
そもそも教員は残業代が一切出ず、“定額働かせ放題”と批判されてきた。昨年、教育公務員の給与を定めた元凶の「給特法」が改正され、給与面は若干改善された。だが、依然として残業代は出ない。
「法改正で残業削減が義務化され、文科省が『早く帰れ!』と圧力をかけた結果、表向き残業時間は減ってきてます。ところが、仕事を家に持ち帰る“隠れ残業”が増え、そこに教員不足が追い打ちをかけている。サッカーに例えるなら、常に9~10人しかいないうえに交代選手がいない状態で、『働き方改革どころじゃない!』と憤る教員は多いのです」(妹尾氏)
生徒と保護者への影響も深刻だ。山口県の公立中学2年の男児を持つ母親は、2か月病休していた数学の教員が新学期も休んだままだという。
「来年は受験だし、心配で塾を探したけれど、同じ理由で塾に通い始めた子供たちが多く、どこにも空きがない。田舎は都会のように多くの塾なんてない。塾に通えたとしても、夜10時に終わるのでクルマで迎えに行かなくちゃいけない。共働きでは無理です。結局、オンラインの塾に入り、月2万円の出費。買う参考書や問題集も増え、家庭にしわ寄せが来る。教員不足は、教育格差を生むんです」
島根県在住の母親も、中学1年の娘が通う学校で「英語の担任が長く病休中」だと話し、こういぶかしんだ。
「『最近、英語がプリントばかりなんだよ』と子供が言ってきて。他の先生が授業をしたり、課題や自習の日が増えたというんです。学校からは『時間割の変更』と連絡が来て、確かに授業時間が減っているわけじゃない。まさか代わりの先生がまだ来ていないとは……。学校は『教員不足ではない』という言い分ですが、じゃあこの状態はいったい何なの、って思います」
タワマン建設ラッシュの都市部では、生徒の急増で教員が足りなくなる学校が多い。それでも、学校は「教員不足」とは言わない。
「新設のマンモス校で、タワマンが一つ建つたびに教室を増やして対応してますが、先生が増えるわけじゃない。生徒が桁違いに多いので、『最近、元気がない』『給食を残している』といった変化に気づきにくくなっている。大規模校で怖いのは、実は、授業ができなくなることだけでなく、困っている子供に気づくのが遅れること。何とか担任を埋めているので『欠員ゼロ』ということになっていますが、この2年綱渡り状態。でも、保護者には言いづらい」(神奈川県公立小・30代女性教員)
「教員不足ではない」は調査データのマジック!?
支障が出ているのに、「教員不足」ではないのはなぜか。前出の妹尾氏が説明する。
「休職中の数学の教員の代わりに体育の教員が数学の授業をしてたら、保護者はおかしいと思うでしょう。でも、やむを得ない場合には免許外教科担任制度があり、例外的に専門外でもよく、実際、全国で約1万件も行われている。また、補充されたのが非常勤の教員でも、文科省では『欠員』とはならない。だから、明らかに先生が足りなくても『教員不足ではない』と言えてしまうケースも出てくる。ただ、非常勤教員がやるのは原則、授業のみで担任はできない。保護者との連絡、教員の会議や部活の顧問などの校務もしません。授業の穴埋めはできても、常勤教員の負担は重くなってしまう」
実際に弊害も生じている。
「非常勤の先生は、割り切って仕事をするタイプも少なくなく、授業も最低限のことしかしない。生徒や保護者とのトラブルも多く、尻ぬぐいする我々の仕事がむしろ増えている。ウチの学校では、補充の先生を待つ段階はとうに過ぎ、毎日『どの先生の空き時間を回せるか』四苦八苦している。学校が本当に欲しているのは、フルタイムで担任を受け持てる教員免許を持った人。でも、そんな人材が何十人も待機しているわけない」(愛知県公立小・40代男性教員)
学校や教育委員会が「教員不足ではない」と強弁できてしまう理由は他にもある。
「自治体が配置予定の人数を、あらかじめ少なく見積もっておけば、おのずと『欠員』も少なくなる。一方、山口県や山梨県のように、独自に国の基準より多い予算を投じて少人数学級を維持すると、配置予定の教員が増えるので欠員が増えてしまう。つまり、教育改革に熱心な自治体ほど、欠員の数字が大きくなりやすいのです」(妹尾氏)
まさに数字のマジックだが、その背後には過酷な労働に苦しむ大勢の教員がいる。教員不足はいつまで続くのか。
㈳ライフ&ワーク代表理事
妹尾昌俊
氏
OCC教育テック大学院大学教授。学校マネジメントの第一人者として知られ、中央教育審議会、有識者会議など政府委員を歴任
<取材/山本和幸、取材・文/齊藤武宏>
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