小林虎之介演じる竹内虎太郎は、いつ再登場して、主人公を愛する気持ちをいつ伝えるのか? 見上愛と上坂樹里W主演の連続テレビ小説『風、薫る』(NHK)には、そんな期待をつい抱いてしまう。
実際の虎太郎はなかなか気持ちを伝えられず、その度に視聴者は、彼の再登場を待ち焦がれ、恋い焦がれるしかない。明治時代を描く物語も大きく動き出している。小林演じる虎太郎役はそんな時代の空気を表現している。
西欧化する社会の中で、再登場した虎太郎がまとう洋装もその一つだ。“イケメン研究家”加賀谷健が解説する。
虎太郎の再登場を待ち焦がれる
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『風、薫る』で小林虎之介が演じる竹内虎太郎は、主人公・一ノ瀬りん(見上愛)の幼なじみだが、虎太郎の方ではずっと恋する気持ちを温めてきた。だが本作もそろそろ終盤に差し掛かるというのに、虎太郎は未だに気持ちを伝えられていない。
第2週第7回で、まだ地元にいた頃のりんを、嫁ぎ先から東京に逃がしてやる夜の場面が決定的だったのだろう。うまく追っ手を巻いた虎太郎は、りんを乗せて遠ざかる小舟に大きく手を振った。
「りーん、俺ぇ……」と言いかけてどうしても愛の告白が口から出ず、それでも何か込み上げる思いを表現しようと、彼はエールを送ることしかできなかったのだ。
そこから舞台は東京に移り、再登場した虎太郎もやはり煮え切らない。東京で新たな職を得た2人はすれ違ってばかりで、恋のライバルたちも現れる。
でもきっと今度こそ、虎太郎はりんに気持ちを伝えるはず。視聴者は彼の再登場を待ち焦がれ、いちいち歓喜しては、なかなか進展しない恋模様に悶々とするしかない。
小林虎之介がまとう洋装の魅力
第12週第60回、上京した虎太郎は驚くほど様変わりしていた。農民の子であり、鍬で畑を耕して汗を流していた彼も、明治政府の欧化政策によってしっかり洋装になっていた。でも単に順応したわけではない。では、農具を捨てた虎太郎は、なぜいきなり洋装になったのか?
明治は前時代の封建的な身分制社会を刷新した。新政府が四民平等に再編し、虎太郎のような農民(平民)も苗字を名乗ることが許され、りんの出自である士族と結婚できるようになった。
他の職業に就くことも可能になったため、虎太郎が製薬会社に勤めた背景がある。
元農民であっても新しい社会では洋装になり、自由にビジネスチャンスを得られる。りんと再会した虎太郎が「自分の力で上に上がれる」と強調していたのは、この時代らしい立身出世の言葉だ。
このように服装はその時代を映す鏡でもあるのだが、小林虎之介がまとう洋装の魅力は他作品にもある。
時代の空気を表現する独特の間合い
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虎太郎が着るジャケットにはボタンが4つあり、これは明治初期のスタイルだ。彼がいったい、どこのテーラーで仕立てたのか気になるところだが、昭和になると実業家たちは仕立てのいい高価なスーツを着て事業に精を出すようになる。
小林の出演ドラマ『ながたんと青と-いちかの料理帳-2』(WOWOW、2026年)の時代設定はまさにそのあたり、GHQ占領下の1951年だった。
小林演じる川島栄は、大阪でホテルを経営する実業家一族の次男で、第2話の初登場場面で仕立てのいいスーツ姿を印象づけた。この栄役と虎太郎役の洋装を見れば、服装による時代の変化がよくわかる。
そして小林はその時代ごとにキャラクターがまとう空気感を、独特の間合いで表現している。
何ともミステリアスな雰囲気がある栄役では、その後日本が高度経済成長期に入ることを見越してか、あからさまな野心をぎらぎらさせ、ねっとり持続する眼差しで相手を見つめた。
虎太郎にも出世欲はあるが、それはりんに気持ちを伝えられないもどかしさの裏返しでしかない。
第21週第105回、朝鮮の支配権をめぐり日本と清が争う日清戦争の戦地に志願したことをりんに報告する虎太郎が、本心をぐっと飲み込む間合いと眼差しもまた、小林虎之介が表現する時代の空気なのだ。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
イケメン研究家 / (株)KKミュージック取締役“イケメン研究家”として大学時代からイケメン俳優に関するコラムを多くの媒体で執筆。アーティストマネジメント、ダイナマイトボートレース等のCM作品やコンサートでのクラシック音楽監修、大手ディベロッパーの映像キャスティング・演出、アジア映画宣伝プロデュースを手掛ける。他に、LDHアーティストのオフィシャルレポート担当や特典映像の聞き手など。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。X:@1895cu
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