「女性騎手に2kg減」はもう必要ないのか…小林美駒「女性騎手最速100勝」で問われる“菜七子ルール”の是非

小林美駒騎手写真/橋本健

「女性騎手に2kg減」はもう必要ないのか…小林美駒「女性騎手最速100勝」で問われる“菜七子ルール”の是非

8月31日(月) 15:49

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JRAの女性ジョッキーが存在感を増している。8月29、30日の中央競馬では、JRA所属の女性騎手が計9勝。小林美駒騎手は先週末だけで4勝を挙げ、土曜にはJRA女性騎手史上最速で通算100勝に到達した。

さらに小林美駒騎手は翌日、9番人気のワタシマツワとのコンビで札幌メインの日高Sを逃げ切り。今年は今村聖奈騎手がオークスでG1初制覇を果たすなど、かつて女性騎手の1勝そのものが話題になったことを考えれば、ずいぶん景色が変わってきたといえるだろう。

女性騎手の騎乗機会を広げた「2kg減」の仕組み

そんな今だからこそ、改めて気になる制度がある。2019年にJRAが導入した女性騎手の減量制度だ。一部では“菜七子ルール”とも呼ばれてきたこの制度のもと、100勝を超えた小林美駒騎手は引き続き、対象レースで2kg軽い斤量で騎乗が可能なのだ。

この制度が発表されたのは藤田菜七子騎手が活躍していた時期だった。それだけに、“菜七子ルール”と呼ばれたのも無理はないだろう。ただ、当時の武豊騎手は自身の公式サイトで、この呼び方に違和感を示している。

騎手会が女性騎手への減量を要望したのは藤田騎手のデビュー前だったと説明する一方、制度そのものについては「世界的な流れ」として歓迎していた。

そもそもこの制度の目的は、女性騎手の騎乗機会を増やすことだった。競馬には、免許取得から一定期間内で勝利数が一定以下の騎手を「見習騎手」とし、斤量を軽くする仕組みがある。

男性騎手の場合、見習の期間中は勝利数に応じて3kg減、2kg減、1kg減と段階的に縮まり、見習期間を終えれば減量はなくなる。一方、女性の見習騎手は50勝以下なら4kg減、51~100勝なら3kg減だが、見習騎手を卒業した後も、対象レースでは2kg減が残る。

活躍が日常になった今も「最後の2kg」は必要なのか

ここが今回のポイントだ。女性騎手の活躍が珍しいものではなくなってきた今も、この“最後の2kg”を同じ形で続けていくべきなのだろうか。

もちろん、「女性が勝つようになったのだから、もう優遇はいらない」と片づけるのは乱暴だろう。制度の目的は女性を勝たせることではなく、騎乗機会を確保することにあるからだ。

実際、JRAは2025年に制度導入後の騎乗数や成績を検証している。同世代の男性騎手と比べても、女性ばかりに騎乗機会が集中したり、成績が極端に高くなったりする傾向はみられないとして、減量幅は「適切」、制度も「有効に機能している」と評価。その時点で見直す考えは示さなかった。

だからといって、全く見直す余地がないというのも少し違うのではないか。小林美駒騎手が9番人気で勝った日高Sは特別競走で、女性騎手の減量は適用されていなかった。56kgを背負っての逃げ切りである。少なくとも、この勝利まで「2kg減のおかげ」で片づけることはできない。

効果を認めつつ減量幅を見直したフランスの選択

では、制度導入から7年以上が経った今、その先をどう考えるのか。ここで参考になるのが、同じように女性騎手への減量を導入した海外の歩みだ。

フランスでは2017年、女性騎手に2kg減を導入。騎乗数が倍増し、勝利数も大きく増えるなど効果が確認されると、翌2018年には1.5kgへ縮小している。

さらに2021年には、女性の若手騎手が受けられる複数の減量が重なるなか、男性の若手が騎乗機会を得にくくなっているとの声も踏まえ、重複する減量の上限を引き下げた。

成功したから廃止したのではない。効果を認めながら、新たに生じた問題に合わせて手を入れた格好だ。

女性限定の減量なしでも存在感を増す豪州の女性騎手

一方、オーストラリアではこれとは違う形を取っている。見習騎手への減量はあるものの、それは男女共通で、女性だからという理由で追加される減量制度はない。

それでも近年、オーストラリアの主要州では見習騎手の7~8割を女性が占めており、女性騎手は存在感を強めている。

女性騎手への2kg減を続ける日本、制度を残しながら調整したフランス、そしてそもそも女性限定の減量がないオーストラリア。まさに三者三様だ。

当然、「海外がこうだから日本も」とコピペできるほど単純な話でもないだろう。それでも、制度が一定の成果を上げたのなら、次に考えたいのはその“次の形”だ。

支援と公平性を両立する「次の線引き」を考える時期に

今の2kg減をそのまま残すのか。たとえば、経験や勝利数に応じて1kgへ縮めるのか。それとも、斤量とは別の形で騎乗機会を支えるのか。

これは「女性騎手を応援するか、しないか」という話ではなく、女性が騎乗機会を得やすい環境を守りながら、男性騎手との公平性をどう確保するのかという話だ。いま必要なのは、制度の是非を決めつけることではなく、新たな線引きを考えることではないだろうか。

小林美駒騎手が女性騎手最速で100勝に届いた2026年夏。この数字だけで制度の是非を決めるのは乱暴だ。それでも、“成功した後の菜七子ルール”を考え始めるきっかけとしては、これ以上ないタイミングなのかもしれない。

文/中川大河

【中川大河】
競馬歴30年以上の競馬ライター。競馬ブーム真っただ中の1990年代前半に競馬に出会う。ダビスタの影響で血統好きだが、最近は追い切りとパドックを重視。競馬情報サイト「GJ」にて、過去に400本ほどの記事を執筆。

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