安田章大(SUPER EIGHT)が初めて企画から参加し、のんと共に主演を務めた映画「平行と垂直」(8月28日公開)。自閉スペクトラム症の兄と、その兄を幼い頃から支えてきた妹。ふたりの“これまでとこれから”を描く本作は、お互いを思いやる優しさとユーモアに満ちた、とびきり温かなヒューマンドラマとして完成した。
作品に込めた思いから、ふたりだからこそ生まれた大貴と希の関係、そして本作を通して見つめ直した人とのつながりまで、安田とのんがたっぷりと語った。(取材・文/成田おり枝、撮影/間庭裕基)
⚫「この物語が、誰かの支えになれば」作品に込めたふたりの思い
――大貴と希の兄妹を思い出すだけで、心が温かくなるような作品となりました。安田さんは本作に企画段階から参加されています。山野海さんによるオリジナル脚本と出会い、この物語をぜひ世に送り出したいと思われた理由を教えてください。
安田:人って、変えようと思っても変わらない生き物じゃないですか。そして今に満足している人って、さほど多くはないと思っています。“変わりたいな”と思っている人も多いと思うんです。そう考えた時に、一つ一つに満足して、一日一日を精一杯生きていくために、この物語は誰かの支えになるのではないかと思いました。この物語を体験して、何かを感じることによって、ほんのちょっとでもその人の人生が変わってくれたらいいなと。そしてお互いに理解し合うことや、自分の周りには味方がいるんだということを、この作品を通して伝えたいと思っていました。
――のんさんは、オファーを受けた時にどのような感想を持ちましたか?
のん:脚本を読ませていただいて、本当にステキな物語だと思いました。兄妹が困難を乗り越えながら、日々一生懸命に生きている姿が伝わってきて、とても心に響きました。安田さんと山野さんが始めた企画だと伺って、制作チームの皆さんとやり取りをさせていただく中でも、丹精を込めて、この作品を大切に育ててこられたんだということが伝わってきました。そこでやりたいという覚悟が決まり、“お受けするならば、生半可な気持ちではいけないぞ”と勇気を出してお受けさせていただきました。
――自閉スペクトラム症(ASD)の大貴を演じるため、安田さんは専門家のレクチャーを受けたほか、当事者の方々が通う教育機関を訪れ、交流を持たれたそうです。
安田:一言に自閉スペクトラム症と言っても、全員が全員、特性が違うんです。だからこそキャラクターの動きをどう作ろうかと考えたりするのではなく、みんなに会いに行ったこと自体が、すべて答えになりました。一緒にお話したり、遊んだりするなかで、みんなそれぞれ生きていくんだ、大貴もこれまでずっと生きてきたんだということが、自分の真ん中にストンと落ちてくるようでした。
⚫「幸せな演技ができた」大貴と希、ふたりで作り上げた兄妹の空気感
――おふたりの見せるコンビネーションがすばらしく、兄妹としてずっと一緒に生きてきたかのような空気感がにじんでいます。実際にお互いに「似ているな」と思ったところや、「この人だからこそ、こうした空気感を作れた」と実感したことはありますか?
安田:二人とも、音楽が好きなんですよね。
のん:芸能界に入る前からギターを弾いていたので、それは共通点です。
安田:僕がのんちゃんのことを分析するなら、パンクスな子なんですね。感情や伝えたいことがちゃんとあって、さらに自分は何を伝えたくて、どういう言葉を使って伝えたいのかということまで、自分の中で整理されている。そういったところは、僕もすごく似ていて、また相手のことをちゃんと見ようとするところも、似ている気がします。言葉だけでなく、空気や体温、匂いなど、相手が放っているものを察知しようとしている。だからこそ、相手の芝居を感じながらキャッチボールができるんだなと思います。
のん:まさに、安田さんがおっしゃる通りです。大貴と希の空気みたいなものを、二人で作っているという感覚はすごく大事にしていました。相手の演技をお互いに受け取り合って、返せているという充実感があると、本当に幸せな気持ちになります。確認し合ったわけではないですが、安田さんとはすごく幸せな演技ができているという充実感がありました。
――特にお互いから引き出されたと感じるような、思い出深いシーンについて教えてください。
安田:川のシーンかなあ。
のん:大好きなシーンです!
――隅田川のたもとで、希が抱えていた思いを打ち明ける、とても印象深い場面です。
安田:積み重ねていった大貴と希の空気感があって、そのなかでラリーしている実感がありました。もちろん撮影なので、カットを割ったり、カメラを切り返したりしているんですが、感情が一度も途切れていないような、ずっと繋がっている感覚があった気がしています。のんちゃんも、あのシーンが大好きなんだよね。
のん:そうなんです。希、そして大貴も精神的にぐちゃぐちゃになっていて、いろいろな感情が心に渦巻きながらぶつかり合っているシーンです。私は、大貴が『おあいこ』と返したときに、その表情を見てびっくりしてしまったんです。希が投げかけた言葉に対して悲しい気持ちがありながらも、面白い返しをして励まそうとしている大貴の気持ち。それまでの二人の歴史まで詰まっているような表情でした。“これは希の救いになる!”という感情が押し寄せてくるほど、大貴が本当にすばらしい表情をしていました。
安田:僕が大貴を演じられたのは、のんちゃんのおかげです。妹がそばにいることで、“こんなお兄ちゃんなんやろうな”と感じられたり、“大貴と希は、こんな感じなんやろうな”というのが、撮影初日から見えたような気がしました。
のん:私も安田さんが演じる大貴を初めて見た時に、“希はこの大貴に寄り添えばいいんだ”と腑に落ちたんです。その瞬間、希のことが分かったような気がしました。
⚫「人生は“ポコアポコ”でいい」――作品を通して見つめ直した、人とのつながり
――お互いを支え合いながら、歩みを進めてきた大貴と希。企画や脚本、キャラクターに丁寧に寄り添い、彼らの人生を体現していく中で、ご自身にとって新たな発見はありましたか。
安田:“人生、ポコアポコ(一歩一歩)”と言ったりしますが、本当にそういうもんやなと改めて感じました。僕自身、病気をしてここに至るまで、まさに“ポコアポコ”で、大貴と希を通して、改めて人生は“ポコアポコ”でいいんだなと感じることができました。また芸能界で生きることは大変なことでもありますが、このお仕事だからこそ、こうやっていろいろな思いや、自分が大切だと感じていることを届けられる。僕はやっぱり、自分のためではなく、人のために何かをすることが好きなんやなと、改めて再確認するような時間でもありました。
のん:私は、お芝居では空気感を大事にするのに、普段は言葉にこだわってしまうところがあるんです。“相手と心で繋がる”ということは、とても大事なことなんだと改めて感じることができました。あと私にとっては、安田さんという存在が衝撃でした。激震!
安田:ええ!僕みたいな人、街の商店街にいっぱいおるで!
のん:面白くて優しくて、いつも現場の士気を上げてくださる。そして安田さんは、誰に対してもフラットにお話をしてくれますよね。すべてのことをこんなにフラットに受け止められたらいいな、そんなことがありえるんだ!と感動しました。本当に尊敬します。
――劇中では、大貴と希を取り巻く周囲のまなざしも浮き彫りとなります。人との関わりの豊かさが余韻として残る映画だとも感じますが、おふたりが人間関係を築く上で、大切にしていることはありますか?
安田:性別や年代に関係なく、大切だと思った人には『めっちゃ大切に思っている』と伝えるようにしています。そう思っているなら、ちゃんと行動に移したり、言葉にして伝えたほうがいいよなと。人間関係って複雑なものですが、トライしてみようと努力すれば、そこから少しずつ理解が生まれ始める。トライしないとエラーも生まれないし、アンサーも出ないんじゃないかなと感じています。
のん:私は結構、自分勝手な方かもしれません(苦笑)。自分がかけられたい言葉や、教えてほしいことを相手に伝えていたような気がします。それが相手の感覚とは違うんじゃないか、間違えていたんじゃないかと気づき始めた頃に、本作に携わることになりました。今は、もうちょっと丁寧に人とのつながりを築けたらいいなと思っています。安田さんのように人と接することができれば、すごく円滑に人間関係を築けるんだなと、すごく大きな学びになりました。
【作品情報】
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平行と垂直
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