「脱ぐ」より難しい!?山本耕史が英語で挑む、日米合作ミュージカル「フル・モンティ」【若林ゆり舞台.com】

山本耕史(中央)

「脱ぐ」より難しい!?山本耕史が英語で挑む、日米合作ミュージカル「フル・モンティ」【若林ゆり舞台.com】

8月29日(土) 10:00

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山本耕史が、またしてもとんでもないことに挑戦している。2024年の日米合作ブロードウェイミュージカル「RENT」に続き、今度は「フル・モンティ」。ブロードウェイで活躍する俳優たちに交じり、全編英語で歌い、演じる。しかも単独主演だ。

1997年に公開されたイギリス映画「フル・モンティ」は、鉄鋼業の衰退によって職を失った男たちが、一攫千金を狙って一夜限りの男性ストリップショーに挑む姿を描いた社会派人情コメディ。失業、貧困、離婚、男性としての自信の喪失といったシビアな問題を描きながら、情けなくも愛すべき男たちの奮闘を笑いに変え、最後にはなんともいえない幸福感を残した。その映画をもとに、テレンス・マクナリーが脚本、デイヴィッド・ヤズベックが作詞・作曲を手がけ、2000年にブロードウェイで初演されたのがミュージカル版だ。

舞台はイギリスのシェフィールドから、かつて製鉄業で栄えたアメリカ・ニューヨーク州バッファローへ。ロバート・カーライルが演じていたガズはジェリーという役名にチェンジ。映画で既成のヒット曲が絶妙なタイミングで使われていたのに対し、ミュージカル版は全曲オリジナル。アメリカに舞台を移したことで、より陽気で賑やか、ミュージカルらしい高揚感を持った作品に生まれ変わっている。映画版にあった、どうしようもない生活の重さやイギリス労働者階級独特の湿り気はかなり薄くなっているので、映画を愛する人には少々軽く感じられるかもしれない。それでも「ビリー・エリオット」や「キンキー・ブーツ」のように、社会の片隅に追いやられた人たちが仲間と出会い、自分自身を肯定していくミュージカルが好きな人なら、きっとハマるはずだ。

個人的には、この作品にはちょっとした縁がある。「舞台.com」の連載第1回で取り上げた作品が、2014年に上演された日本版「フル・モンティ」だったのだ。主演は山田孝之、演出は福田雄一。ブロードウェイ版をそのまま持ってくるのではなく、日本の観客にどうすればこの笑いが伝わるかという工夫が、そこかしこになされていた。

一方、今回の公演は山本耕史とゆりやんレトリィバァという日本人俳優が参加してはいるものの、全編英語のブロードウェイ版。演出も2024年の「RENT」に続いてトレイ・エレットが手がけ、彼ら以外の主要キャストにはブロードウェイで活躍してきた俳優たちがずらりと顔をそろえる。そんな今回の舞台には、笑えるコメディでありながら、12年前の日本版以上に、映画版に通じる哀愁が漂っている。

主人公ジェリーは勤務していた鉄工所の閉鎖で失業中。養育費を払えず、別れた妻からは息子ネイサンに会わせてもらえなくなりそうになっている。プライドはズタズタ。親友デイブも職を失って意気消沈、太った体型へのコンプレックスから妻との関係までぎくしゃくしている。やがてジェリーは町の女性たちが男性ストリップショーに熱狂するのを目にし、「自分たちも脱げば金になるんじゃないか」と考える。

そんなジェリーを演じる山本耕史を見ながら、つくづく思った。この人、きっとマゾッ気があるに違いない。もちろん妙な意味ではない。自分を極限まで追い込み、「そんなこと、できるの?」という課題をクリアすることに無上の喜びを感じるタイプなのではないか、ということだ。そうでなければ、日本人俳優がブロードウェイで活躍する俳優たちの真ん中に立ち、膨大な英語のセリフと歌詞を覚え、そのうえ発音やリズムを崩さず、そこに感情まで乗せて演じるなどという芸当をできるはずもない。それも、二度も。

「RENT」でも驚いたが、今回も山本の英語にはほとんど「日本人が英語で演じています」という引っかかりがない。相手のセリフを受け、間を取り、感情を動かしながらネイティブの発音で会話を成立させている。そのこと自体が、まず恐ろしくハードルの高い仕事である。

ただし、問題がひとつある。山本耕史、ジェリーを演じるには、あまりにもカッコいいのである。

職はない。金もない。元妻には見放されかけ、愛する息子まで失いそう。人生の崖っぷちに立たされている男の焦燥や苛立ちは表情にたっぷりにじませている。それでも、どうにも「しょぼくれた男」に見えない。なにしろ山本といえば、日頃からトレーニングを欠かさない筋肉男としてつとに知られる。衣装を着ていても、その下にモリッとぎっしり詰まっている気配があるし、動けばキレキレ。本人はこの役のためにかなり筋肉を減量したそうだが、それでもあまりに立派である。

この物語の面白さのひとつは、容姿にも肉体にも自信のない普通のおじさんたちが、「こんな俺が人前で裸になるなんて!」という最大級の羞恥心を乗り越えていくところにある。ところが山本が終盤、「みんなに笑われる」と土壇場で尻込みしても、
いやいや、その身体なら大丈夫でしょう。
と、つい思ってしまう(笑)。

2014年版の山田孝之も筋トレをがんばり、細マッチョな身体に仕上げていて同様の問題はあったが、山本の場合はさらに立派な筋肉が邪魔をし、「みっともない自分をさらけ出す」という壁が見えにくいのだ。

もっとも、山本耕史という俳優を知る日本の観客なら、むしろ視点をひっくり返して楽しむのもアリだろう。ジェリーがストリップに挑む以上に、山本耕史は全編英語のブロードウェイミュージカルに飛び込んでいる。稽古場では恥もかいただろう。そのストイックな努力、その無謀とも思える挑戦を目撃する。そう考えると、これはこれで「フル・モンティ」の精神そのものではないか。しかも筋肉も楽しめるし。

惜しいのは、その途方もない努力を日本の観客が十分に受け取れる環境が整っていないことだ。

まず字幕。情報量があまりに少なく、しかも舞台上の会話とのタイミングが合わない場面がある。ストーリーの大筋を追うことはできても、人物同士のちょっとした応酬や笑い、関係性の機微まで拾うのは難しい。そして音響にも、かなりストレスを感じた。英語のセリフや歌詞そのものを聞き取ろうとしても、音が明瞭に届かず、せっかくの俳優たちの言葉が埋もれてしまうところがある。全編英語上演を売りにするのであれば、字幕と音響は単なる補助ではない。日本の観客と舞台をつなぐ生命線だ。俳優たちがこれだけのエネルギーを注いでいるだけに、ここはなんとももったいない。

だからこそ、可能なら字幕だけに頼らず、山本の英語そのものにも耳を傾けてほしい。日本語を頭の中で英訳しているのではなく、英語のリズムの中で演技を成立させている。その演技を、字幕を追っているだけでは見逃してしまうから。

そして、もうひとりの日本人キャスト、ゆりやんレトリィバァも非常にいい。10数年前、深夜番組「ロケみつ」で忍者ハットリくんっぽい衣装に身を包み、来日外国人観光客に英語で話しかけていた頃から「英語できるな」と思ってはいたけれど、まさかその後アメリカに拠点を移し、ブロードウェイ俳優たちと一緒にミュージカルの舞台に立つようになるとは想像もしなかった。

本作がミュージカル初挑戦だというが、日本人が混じっているという違和感はほとんどない。ゆりやんが演じるのは、デイブの妻ジョージー。失業して自信を失い、自分の身体にもコンプレックスを抱き、妻から距離を置いてしまう夫を、それでもひたすら愛している陽気な女性だ。ゆりやん自身の持つチャーミングさが役にぴたりと重なる。身体もよく動き、歌も奇をてらわない素直な声で聞かせる。

とりわけ印象に残ったのが、デイブとのベッドルームの場面だ。笑いを取るだけの役ではない。夫が自分をどう見ているか、妻が夫をどう見ているか。そのすれ違いの奥に、互いを大切に思う気持ちがくっきり浮かび上がり、思わずホロリとさせられた。

そして何といっても、この舞台を支えているのが百戦錬磨の俳優陣である。太った自分を嫌悪するデイブ、内気で孤独だったマルコム、職を失ったことを妻に言い出せない元上司ハロルド、年齢という壁を抱えるホース、なぜか妙に自信だけはあるイーサン……。

誰ひとり、完璧な人間はいない。

失業だけではない。体型、年齢、セクシュアリティ、夫婦関係、プライド。それぞれが人には見せたくない弱さやコンプレックスを抱えている。そのひとりひとりが自分自身と向き合い、仲間とぶつかり、助けられながら、少しずつ何かを「脱いで」いく。この過程がミュージカルの高揚感と重なって胸を熱くさせるのだ。

「フル・モンティ」とはもちろん裸になることだが、彼らが本当に脱ぎ捨てるのは服ではない。自分はこうでなければならないという思い込みや、傷つかないために身につけてきた意地やプライドなのだ。だから、最後に彼らが舞台に立つときには、単なるストリップ・ショー以上のカタルシスが生まれる。

そしてお待ちかね、クライマックス。劇場の場面からは観客も出演者である。我々は東京国際フォーラムの客席に座っているのではない。バッファローの町で、噂の一夜限りのストリップショーを見に来た住民なのだ。

ワーワー、キャーキャー言ってよし。叫んでよし。楽しんだ者勝ちだ。失業し、自信をなくし、人生に蹴飛ばされ続けてきた情けない男たちが、最後の最後に何を脱ぎ捨て、何を見せてくれるのか。

劇場でしか味わえない醍醐味が、ここに待っている。

ミュージカル「フル・モンティ」は9月7日まで東京国際フォーラム・ホールCで上演中。9月10日〜14日の大阪・新歌舞伎座で上演する。詳しい情報は公式サイト(https://fullmonty2026.jp)で確認できる。

checkit https://eiga.com/news/20260809/4/ 「キングダムII継承」の稽古場で、信役の三浦宏規&高野洸を直撃!【若林ゆり舞台.com】

【作品情報】
・ フル・モンティ

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撮影:若林ゆり
映画.com

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