(画像/カタリバ)
8月28日(金) 7:00
小・中学校の不登校児童生徒数は、約35万4000人と過去最多(2024年発表 文部科学省調べ)。子どもの不登校は、いまや一部の家庭だけが抱える課題ではありません。けれども、いざ、わが子が学校に行けなくなると、保護者は「ずっと家にいて大丈夫?」「学校に戻れるなら戻った方がいいのでは……」と不安や焦りが拭えないもの。
一方、近年は学校だけではなく、地域やオンラインを含め、さまざまな学びの場が増えている様子。不登校になった家庭の支援を行う団体や、実際に子どもの不登校からオンライン学習を活用した保護者に話を聞き、学校か家かの2択ではない時代の、不登校の子の“学び”と“居場所”について住まいの視点でも考えます。
不登校児童・生徒数は過去最多。「学校に行けない」の先で何が起きてる?不登校は、もはや珍しいことではありません。文部科学省の調べでは、小・中学校の不登校児童生徒数は12年連続で増加。小学校では約44人に1人、中学校では約15人に1人(※クラスで1~2人程度)が不登校という計算になります。
教室の外にいる子どもが増えるいま、ほかの家族や家庭の暮らしにも大きな変化が起きています。
象徴的なのが“保護者の働き方”への影響です。不登校の子どもや保護者を支援する栃木県のNPO法人、キーデザインが実施した「不登校離職実態調査2026」では、不登校になった子どもをもつ保護者の95.4%が「仕事との両立が大変だった」と回答。さらに母親の22.76%が、不登校を理由に「実際に退職した」といいます。
実際の日々においては、就学前の「保育」サービスを活用できた状況と異なり、義務教育における不登校は保護者が学校との連絡役になり、支援先を探し、日中の見守りも担うことが少なくありません。子どもの問題であると同時に、家族の住まい方、働き方、過ごし方まで問い直される点で、親や他の家族にも影響する難しさがあります。
一方、子どもが学校に通えなくなったときの選択肢は、この10年ほどで大きく広がってきました。それだけに「うちの子には何が合うのか」「どのような環境を整えるべきか」など、保護者が判断しなければならない場面が増えています。子どもの学びや居場所は今、どのように変わり、その中で家はどのような役割を果たせるのでしょうか。詳しくは後述しますが、まずは、子どもを取り巻く背景から見ていきましょう。
「学校に戻した方がいい?」保護者が抱えるリアルな不安
子どもが学校に行かなくなったとき、保護者が最初にぶつかるのは「学校に通える状態に戻した方がいいのでは」という“焦り”であることが多いようです。
「息子は小学校入学当初からほとんど学校に行っていない」と語る、小学4年生の男の子をもつ母のMさんも、当初は懸命に登校を促していたそう。けれども「何とか学校に通おうとする日々は親子ともに消耗していった」といいます。
「小学校に入学して春の運動会の練習が始まったころから、学校に行くことを渋るようになりました。友だちも学校も嫌いではない。明確な原因として思い当たることはない。でも行かない。いま振り返れば“集団で、同じことを決められた時間でやらなければならないこと“が息子には辛かったのだと思います。小学2年生ごろまでは週に1回通えるかどうかの状態が続き、学校の授業をオンラインでつないでもらうなどして出席していました」(Mさん)
学校に通う習慣をできる限り維持することで、学校に戻りやすくなるケースもあるかもしれません。しかし、栃木県内の2つのフリースクールや学習支援教室で子どもたちの様子を見守るキーデザインの代表理事、土橋優平(どばし・ゆうへい)さんは、無理に学校へ戻る努力をすることには警鐘を鳴らします。
「不登校は子どもの“SOS”なんです。学校復帰を急ぐことで、かえって子どもが『周囲の大人に自分のSOSを受け取ってもらえない』と感じてしまうことがあります」(キーデザイン土橋さん)
背景には、子どもが学校に通えなくなったときの学びや居場所の選択肢が、地域によって異なる現状もあります。さらに、教育だけではなく、福祉や医療の介入が必要な子もいます。子どもの状況に応じて利用できる支援や制度が自治体や学校によっても異なるのです。だからこそ保護者は、どこで、誰に、何を頼ればいいのか分からないまま、家庭の中で不安を抱え込みやすくなります。
学校だけじゃない。不登校の子どもにつながる「学びの選択肢」そのような状況をふまえ、文部科学省は2023年3月末に、誰一人取り残されない学びの保障を進めるための「COCOLO(ココロ)プラン」を取りまとめました。これは、学校の中だけでなく、学校外も含めて学びや支援の場を確保しようという方針を打ち出したもの。COCOLOプランが目指すのは、「すべての不登校の子どもの学びの場を確保すること」「小さなSOSを見逃さずチームで支えること」「学校そのものを安心して学べる場所へ変えていくこと」の3つです。国や教育制度もかつての「学校に行くか、行かないか」の2択からの脱却へと動き始めています。
「学びの場」のイメージには、校内教育支援センターや教育支援センターなどの公的な施設のほか、フリースクール、地域の居場所、自宅でのオンライン学習なども含まれます。さらに同省は、学校外の公的機関や民間施設での相談や指導、自宅でオンラインを活用した学習活動が一定の要件を満たせば「(在籍校の)校長は指導要録上出席扱いとすることができる」としています。先のMさんも「要は在籍校の校長先生の理解を得られれば、出席扱いになることを知り、校長先生たちに説明を尽くしてaini school(後述のオンラインフリースクール)への参加を出席として認めてもらっている」そう。
同省のホームページでは保護者向けのメッセージやCOCOLOプランについて説明したパンフレットなども公開しており、学校外で学び続ける子どもを制度面から支える考え方が少しずつ広がっているようです。
すでに行政や民間団体など、さまざまな主体が支援を展開しており、その形も多様です。地域に根ざした施設型のサポートだけではなく、場所に縛られないオンライン型のものもあります。
そのひとつが、20年以上、高校生との対話による支援を展開してきた認定NPO法人カタリバが展開する小・中学生向けのオンライン不登校支援プログラム「room-K(ルームケー)」です。事業責任者の阿久津遊(あくつ・ゆう)さんによると「既存の対面・通所型の支援につながりにくいご家庭と出会うために、自治体と連携し、公的な支援のひとつとして導入することを大切にした事業」なのだそう。
プログラムを導入しているのは現在4自治体。直接支援をする連携自治体を増やす予定はありませんが、現在、メタバースやオンライン支援を導入する自治体が増えています。そうした「新たな選択肢を導入したい自治体向けのサポートを行っていけたら」と阿久津さん。臨床心理士や社会福祉士などの資格や、子どもや保護者支援の経験を持つコーディネーターやメンターが、個別支援計画をもとにメタバース空間を活用して伴走しています。
全国展開しているオンラインの民営サービスの例としてはほかに、小学1年生から中学3年生を対象にしたオンラインベースのオルタナティブスクール(フリースクール)「aini school小・中等部」(運営会社:ロコタビ)なども。顔出しや発言を無理強いしない安心感を大切にしながら、毎日の学びと交流の場を提供。運営スタッフとして関わる森真弓(もり・まゆみ)さんと安藤友絵(あんどう・ともえ)さんによれば「保護者と協力しながらスタッフが在籍校への情報共有や説明を丁寧に行うことにより、希望者の97%が在籍校で出席扱いの認定を受けている」といいます。
では、このようなサービスを活用した家でのオンライン学習は“学校の代わり”になれるのでしょうか。
今回話を聞いた、不登校支援を行っている3団体の答えは、いずれも「家も学びの場となりうる」という返答ながら、“オンライン“の環境や“学びの場”としての捉え方には少しずつ違いがありました。
・オンラインの「窓」が家の中を外とつなげるーaini school
「子どもが家にいながら誰かとつながれる、学べる状態を提供できることがオンラインの最大のメリットです。学校に行っている、行っていないではなく、オンラインによって家の中に外とつながる“窓”をつくるイメージです」(aini school 森さん)
・家は「安心できる場所」であることを第一に―キーデザイン
「子どもにとって家は“安心できる場所”であることが第一。家は学びの場にもなり得ますが、“親が教育を提供する場“になることには、反対です。保護者は不登校の子とともに過ごし、ソーシャルワーカーのように各所との相談・連絡・調整の役割を担っている。学びはオンライン含めて“外”に頼っていいのではないでしょうか」(キーデザイン 土橋さん)
・次の居場所、地域への「ハブ」となり、孤独を防ぐーカタリバ
「オンラインの支援だけで完結させずに、対面の支援や地域につなげていくことを大切にしています。行政、民間、地域のプレイヤー同士が連携し合いながら、子どもも家庭も孤立させず、つながり続けていくことが重要なのではないでしょうか」(カタリバ 阿久津さん)
つまり、家が “閉じた教室”にならないように注意が必要なのでしょう。まずは安心して居られる場であること。オンラインを活用しながら外の学びや支援にもアクセスできること。親子関係をいい状態で保てること。これらの条件がそろってはじめて、家は学びの拠点として力を発揮するようです。
各団体の話からは「リビングで学ぶ、時には別の空間に切り替えるなど、融通性があるといい」「家の中での見守りやすさとプライバシー尊重のバランスが大事」「必要に応じ、家の中に対面の支援を呼び込むなどの併用も検討したい」などの指摘もあり、住まいとしての使い方にも工夫の余地がありそうです。
うちの子に合う居場所はどこ?「学校か家か」の2択ではない時代へさらに言えば、子どもの居場所は「学校か家か」の2択でもありません。学校の別室(保健室や校内教育支援センターなど)なら落ち着いて学校生活を送れる子もいれば、オンラインだからこそつながることができる子もいます。学校には行かなくても、フリースクールなどで集団での行動をぞんぶんに楽しむ子も。
先に紹介したMさんは、「小学3年生のときにaini schoolに入学して初めて、息子にはオンラインの形が合っていたんだ!と気づきました。入学当初から毎日すごく楽しそうにしてて」と振り返ります。
Mさんのお子さんはaini schoolで先生や他の子どもたちとオンライン上のコミュニケーションをしながら、入学した3年生のときから社会科見学などのオフラインイベントにも積極的に参加しているそう。
もちろん、オンラインならではの懸念もあります。Mさんは「運動不足になりがち」なことを心配していますが、aini schoolの森さんも「サッカーのようにみんなで体を触れ合わせながら一緒に何かをする、というのはオンラインでは難しく、運動場のある学校だからこそできること」だと話します。また、ほかの保護者からは「パソコン内で完結しているので『何をしているのか、よく分からない』など、子どもの様子が見えにくいことへの不安も聞かれる」そう。
「繊細なお子さんほど姿を隠す傾向があります。オンラインでも、カメラをオフにする、発言をしなくなる、そしてついにはログインすらしてこなくなることも。一番支援が必要な子ほど見えにくくなってしまうことがあるので、定期的な1on1のゆるい面談を大事にしています」(aini school安藤さん)
「オンラインは“言語化できる子”が主体になりやすい。その子たちには生きやすい世界ですが、そうじゃない子にとっては顔も出さない、発言もしない、で『何のためにここにいるんだろう』となることも。なので、私たちの団体の方針にはリアルの方が合うなと感じ、コロナ収束後は栃木県内の現地でのフリースクールや学習支援教室の運営を中心に、家庭訪問のプログラムも実施するなどしています」(キーデザイン土橋さん)
オンラインなどへの不安もあるからこそ、それぞれの団体では保護者との密なコミュニケーションも大事にして相談の場を設けています。カタリバの阿久津さんは不登校の子を抱える家庭を孤立させないために「アウトリーチ型(専門家などが支援やサービスを必要としいる人のところへ出ていく訪問・出張の型)の支援や、子どもや家庭に合った支援を一緒に見つける伴走型の支援も必要」だと強調します。
支援する団体は
「学校教育が限界に来ている今、子どもの学びや安心を育む大人を増やすことが必要。頼れる誰か、頼れる場所を知っておくことも支援」(キーデザイン土橋さん)
「不登校になったから世界が狭まるのではない。大事なのは『外に出ているか』より『人とつながっているか』。安心できるつながりがオンラインでも先に生まれれば、外へ踏み出す行動は後からついてくる」(aini school 森さん)
と不登校の子を抱える家庭に、そして社会に生きる多くの大人たちにもエールを送ります。
まずは保護者ができることとして、学校や自治体の取り組みで活用できる仕組みや場所、例えば、スクールカウンセラーに相談したり、身近な教育支援センターを探して問い合わせてみる方法がありそうです。また、今回紹介した3団体のようにオンラインで相談できるところにアクセスしてみるのも一つかもしれません。
長い夏休みが明けるこの時期は、とくに登校へのハードルが高くなりやすいタイミング。
大切なのは“学校に行けているか“ではなく、“安心できる居場所とつながり“があるか。そして、子どもの学びにはさまざまな選択肢があり、家もその起点となりうると知ること。その子に合う回路を増やしていくことが、今後の子どもを取り巻く環境づくりの鍵になりそうです。
●取材協力
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NPO法人キーデザイン
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認定NPO法人カタリバオンライン不登校プログラム「room-K」
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aini school 小・中等部
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