(写真撮影/相馬ミナ)
8月26日(水) 16:40
猫の多頭飼いは、喧嘩や居場所の奪い合いがつきものだし、抜け毛対策や掃除も大変……。そんな悩みを住まいで解決したのが、30代のOさん夫妻。4匹の猫のために建てた注文住宅は、7mの高い吹き抜けと立体的に回遊できるキャットウォーク、猫専用ロフトまで備えた“猫のための家”。引越し後、猫たちの暮らしが劇的に快適した家とは?猫も人も大満足の家づくりのヒントが盛りだくさんのOさん宅を訪ねました。
猫は家の中がすべて。だから“猫のための家”を建てた吹き抜けの上から見下ろすと、猫たちの通り道が縦横無尽に広がっているのが分かります。キャットステップや猫柱が上下の空間を立体的にをつなぎ、壁づたいにはキャットウォークがぐるりと回遊。大きな家具を置かずにゆとりを優先した設計は、まさに猫たちがのびのびと過ごすための空間が家の中心に据えられている印象です。
この家に暮らすのは、Oさん夫妻と4匹の猫……先住の“まろ”と“ちょび”兄弟、そして新居に迎えた“ばん”と“はち”兄弟。性格も運動量もまったく違う4匹が、それぞれの“お気に入りの場所”で過ごす姿は、見ているだけで頬がゆるみます。それでも、ここに至るまでには、1LDKでの窮屈な暮らしと、猫たちにストレスを与えてしまっていた日々がありました。
「猫がいなかったら、多分家は建てなかったと思います」と笑う夫。マイホームについて考えていなかった夫妻が家づくりを決めたのは、猫たちのためでした。
Oさん夫妻は、結婚してすぐに、以前から飼いたかった猫を2匹迎えました。当時住んでいた都心の1LDKの賃貸マンションは、窓の外は隣のマンションの壁で日当たりもあまり良くなく、日中も少し暗かったのです。猫たちが小さいうちは良くても、成長するにつれ、2匹の喧嘩は増えていきました。猫たち2匹だけで過ごす時間が長い、居場所が少ない、運動量が足りない、外の景色を楽しめないことなどが少しずつ猫たちのストレスになっていたことに、あとから気づきました。
「人間は外に遊びに行けますが、猫は家の中がすべてです。猫の一生は人間に比べて短いのに、私たちは共働きでお留守番の時間が長い。だからこそ、家の中でのびのびと過ごせる環境をつくってあげたかったんです」。この妻の言葉が、この家づくりの出発点でした。2023年秋、1LDKで2人と2匹で暮らすことに限界を感じたふたりは、「猫たちがストレスなく暮らせる家を建てよう」と決意しました。
“本気の猫が喜ぶ家”を建ててくれる設計士に依頼猫のための家を本気で理解して建ててくれる人がいるのだろうか……。Oさん夫妻は、そんな不安を感じながら建築会社や設計士に相談しましたが、提案されたのは「人間がメインで、猫用の設備を部分的に足した住まい」ばかり。ふたりが求めていた、一から猫の動線ややりたいことに添った“猫が主役の家”とは、違うと感じました。
そんなとき、夫が思い出したのが、20代前半から大切に持っていた一冊の本でした。 猫と暮らすための家づくりを紹介したその本の著者は、「ファウナ・プラス・デザイン一級建築事務所」の建築士、廣瀬慶二(ひろせ・けいじ)さん。自身も猫と犬と暮らす自宅を建てており、動物の行動学をもとに猫や犬と快適に暮らす家づくりを多数手がける、数少ない建築士のひとりです。
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「とにかく猫が飽きずに過ごせる家をつくってほしい!」。そんな要望を喜んで受けてくれた廣瀬さんに建築を依頼することを決めたのが2023年12月。猫2匹の性格、これから新たに猫2匹を迎える予定があることや、夫妻のざっくりした要望などを伝え、2024年1月には土地(約30坪、800万円)が決まりました。
「廣瀬さんに紹介してもらった土地は、ふたりの通勤圏内にあり、日当たりも良く、緑や鳥など猫たちが喜びそうな景色が窓から眺められる点も重視して決めました」。まもなく出来上がった設計図は、ふたりの希望がカタチになったもので、猫たちがのびのびと走り回り、登り、すれ違い、景色や人間を眺め、隠れる姿まで想像できました。こうして、“猫が主役の家づくり”は大きく動き始めました。
そして、2025年3月にOさんの新居が完成し、新たに子猫の兄弟も迎えました。新しい家の最大の特徴は、約7mの吹き抜けリビング。天井まで視線が抜ける開放感は人にとって快適ですが、この高さこそが“猫のための立体的な遊び場”となっています。そのほかにもたくさんちりばめられた“猫ファーストの家づくり”のポイントを紹介します。
Oさん宅プロフィール
家族構成夫、妻(ともに30代)+猫4匹竣工年月2025年3月間取り3LDK+ロフト敷地面積約100平米(約30.2坪)延べ床面積約107平米(約32.3坪)土地約800万円建築費総額
猫が自由に選べる“回遊動線”をつくる
リビングの吹き抜けの3方の壁には、コの字型のキャットウォークが巡らされ、猫たちはそこを歩いたり、すれ違ったり、ときには立ち止まって下の様子を眺めたり、身体を伸ばして休めたりします。
キャットウォークには行き止まりがなく、猫柱やキャットツリー、猫階段などとつながり、複数の分岐ルートが用意されています。例えば、猫ダイニングからステップを登り、キャットウォークを通って天井の猫穴を抜けて猫ロフトへ向かうルート。あるいは、キャットツリーを駆け上がり、 吹き抜けのキャットウォークを渡って2階へ行くルート。猫たちはその日の気分で好きなルートを選び、 まるでテーマパークのアトラクションを巡るように家の中を移動しています。
キャットウォークとともに猫柱も猫たちがよじ登る道として日常的に活用されています。猫柱では爪とぎも行われ、従来の爪とぎ用品がほとんど不要になりました。
ロフトは、1階から一気に全力で駆け上がり、 ストレスを発散させるのにぴったりの場所。静かに過ごしたいときの居場所、隠れ家でもあり、ふらっと姿を消してロフトにいることもあります。
猫ダイニングで猫の暮らしの基盤1カ所に整える
リビングの一角に設けた猫ダイニングは、ご飯を食べる場所と水飲み場、トイレ、収納など“猫に関わるもの”が一箇所にまとめた“猫のインフラ”のような場所。猫のお世話の効率化とスペースの省力化を一度に叶えています。
「ご飯の用意やトイレ掃除と猫砂の補充など、猫のお世話をするのに動き回らずに済むので、すごくラクになりました」と妻。出勤前と帰宅後の、猫のお世話にかける時間が大幅に短縮されました。
ご飯場所とトイレが近接していますが、匂いがこもらないようトイレの近くには24時間換気設備を設置。上下で分けて立体的に配置することで猫は“別の場所”と認識するため、問題はないそうです。
多頭飼いでも “居場所の分散”で平和に暮らせる
キャットウォークは多頭飼いを意識して猫同士がすれ違えるゆとりがある幅を確保したため、鉢合わせになって喧嘩したり、渋滞が起きることはありません。また猫穴は4つ設け、複数の逃げ道があることで猫は安心できます。階段の踊り場には床暖房をしつらえ、冬に身体をのばして“へそ天(仰向けになって無防備な姿勢で眠ること)”できる居場所をつくりました。
さらに、「新たに迎える2匹の猫がどんな性格でも、それぞれの猫がテリトリーを持てるように、いろいろな場所をつくりました。もし、先住猫との相性が悪かった場合でも隔離できるよう多目的ルームも設けました」と、どこまでも猫ファースト。喧嘩がヒートアップしたときや、個別でご飯をあげる必要があるときも、隔離できる部屋があると安心です。
“人間のための工夫”で安全と快適性を両立する
ほかにも、キャットウォークの一部を格子状にして猫の毛が溜まらないように工夫したり、脱走防止策として玄関まで二重に扉を設けました。キッチンは独立型で、ガラス戸を採用。「キッチンに猫が入ってこれないので安全ですし、猫の様子を見ながら料理ができるし、ガラス越しにこちらを覗いている姿も可愛いです」と妻。
Oさん夫妻が感動したのが、高断熱・高気密設計と第1種換気システムとによる快適さです。エアコン1台で家じゅうの温度差がなくなり、扇風機やストーブは一切不要に。「猫の抜け毛が詰まりにくいと聞いて採用した第1種換気システムですが、オール電化の電気代も予想より安く済んでいます」と夫も満足そう。
人間側の快適さを求めた設備ですが、温度差のない環境は当然猫にとっても快適そのもの。さらに、洗面脱衣所とトイレは“猫禁止エリア”にしたことで、掃除がしやすくなり、衛生面でも安心です。
こうして “猫の動線”と“猫の居場所”を中心に設計されたOさん宅は、猫にも人間にも快適で心地よい場所になりました。
猫の多頭飼いの悩みを設計で解決、猫も人もハッピーに共働きの夫妻が4匹の猫と暮らすことは、それぞれの性格の違いや相性、 ストレス、ご飯のタイミング、 喧嘩がヒートアップしたときの対処、生え変わり期の抜け毛など、悩みは少なくありません。それでも、新しい家には、 それらの悩みを解決する工夫が随所に盛り込まれていました。
「まず、4匹それぞれに“お気に入りの場所”を選べるようになり、のびのび過ごすことが日常になりました。猫たちも自分たちなりに好きな過ごし方を見つけたようで、運動量はもちろん、窓の外を眺める時間も増加。ストレスが減ったのか、猫同士の喧嘩もほぼなくなりました」とご夫妻。
「掃除や家事がラクになったことはもちろん、リビングのソファに座って、猫たちを眺めているだけで幸せです。キャットウォークも、猫たちが想定外の“マイルート”をつくりだして楽しんでいる姿に驚かされたり、見ていて飽きない。休日は家でゆっくりと過ごす時間が増えました」というように、夫妻の暮らしも大きく変わりました。
「猫たちを見ながら『この家を建てて良かったな』と思います」というOさんに、これから家を建てたい方へのアドバイスを伺うと「猫の家を理解してくれる人との出会いが重要。まずは問い合わせたり、施工例を見たりして、気になった建築会社や設計者と話すことが大切だと思います」と話してくれました。
大切なことなのに、見落としがちな猫の日常生活に寄り添ったOさんのお住まい。例えば、トイレひとつをとってもそう。人間の目につきにくい場所に置くことが多いトイレを、あえてリビングの見える場所に置いたのも、「毎日のうんちやおしっこの量や回数などをチェックして、小さな変化にもすぐ気づけるようにしたかった」という理由からでした。設計段階ではトイレの近くに換気扇をつけただけで匂いが解消するかどうか心配もあったそうですが、友人が訪ねてきたときも、「匂いがしない」と驚くほど。猫砂の飛び散りを防ぐ“立ち上がり”を設けたのも正解でした。
こうした細やかな工夫はすべて、「猫たちとどう暮らしたいか」をリアルな視点で考えた結果。Oさん宅は、猫の行動や健康を第一に考えたからこそ、満足できる住まいになりました。
家は住む人の思いを映し出す……。Oさん夫妻の家づくり物語は “猫が主役の家づくり”がどれほど豊かな暮らしを生むかを教えてくれます。
●取材協力
neko.umaumaさん
Instagram
@neko.umauma
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