「中抜きなし、客を選べる」歌舞伎町の“立ちんぼ”に女性が集まるワケ。橘玲が暴く路上売春の経済合理性

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「中抜きなし、客を選べる」歌舞伎町の“立ちんぼ”に女性が集まるワケ。橘玲が暴く路上売春の経済合理性

8月26日(水) 15:54

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「性的魅力は、資本になる」ーー。'00年代初頭、イギリスの社会学者キャサリン・ハキムが提唱した「エロス資本」という概念がある。若い女性の性的魅力は経済的価値を持つ「資本」であり、それをマネタイズすることには経済合理性がある、という考え方だ。

キャバクラ嬢、コンカフェ嬢、アイドル、立ちんぼ……。本連載では、作家・橘玲がエロス資本の視点から、彼女たちの行動と動機を深く掘り下げていく。

(※本記事は週刊SPA!連載「エロス資本論」Vol.1を元に構成しました)

路上に立ち続ける 「立ちんぼ」から 見える経済合理性

歌舞伎町のホテル街を歩くと、路地の脇に若い女性たちがぽつぽつと立っている。

かつて大久保公園周辺に集まっていた「立ちんぼ」は、警察の取り締まり強化でホテル街へと分散したが、それで歌舞伎町の"立ちんぼ市場"が消えたわけではない。週末ともなれば、いまなお30〜50人ほどの女性が立っていることも珍しくない。

立ちんぼは当然ながら違法売春であり、「風俗の最底辺」をイメージするかもしれないが、実はその認識はかなりズレている。取り締まりの影響で「かつてのように一日10万円稼げる日は減った」との声もあるが、それでも彼女たちが立ちんぼという選択をするのは、そこに確かな「経済合理性」があるからだ。

路上売春の現場では、違法行為を抜きにして、極めてドライで冷徹なまでにインセンティブに忠実な、一種の「究極の自由市場」が成立している。

「中抜きなし、客を選べる」という経済合理性

通常の風俗店の場合、男性客が例えば1万8000円の料金を支払ったとしても、店の取り分などの「中抜き」が発生するため、女性の手取りは1万円程度に減ってしまう。さらに出勤ノルマや風俗ポータルサイトの日記更新などの"労働"も発生する。

その点、立ちんぼは個人営業だ。彼女たちが風俗店(デリヘルやファッションヘルスなど)に籍を置かず、あえてリスクのある路上を選ぶ最大の理由は、「中抜き(マージン)がない」ことと「客を自分で選べる」という2点に集約される。立ちんぼの現在の相場は、コンドームありで2万円、ナマで2万5000円が目安とされる。取り締まりの影響で収入は減っているというが、それでも「中抜きがない」という点は大きい。

これに加え、客を自分の意思で品定めして選べるのだから、労働者としての主導権は圧倒的に女性側にある。いわば「エロス資本のフリーランス化」だ。

従来の性産業には、店舗あるいは事務所、スカウトといった中間業者が必要だった。だがいまや、SNSとスマホの普及によって、若い女性が自らのエロス資本を直接マネタイズできるようになった。「予定どおりの出勤や、マメに日記を更新するようなデスクワーク的な努力が苦手だから、ただ立っていればいいだけのハードルの低い立ちんぼに流れる」というのはかつての話だ。

彼女たちは決して怠惰だからではなく、自らの労働コストとリターンを天秤にかけた結果として「合理的な選択」をしている。昼職で月20万円を稼ぐために上司の理不尽に耐えるより、フリーランスとして路上に立つほうが「コスパがいい」と判断するのは、現代の労働市場の歪みがもたらした必然の帰結とも言える。

コミュニティ経済と独自の経済秩序

路上市場の進化に伴い、現場には、いわば「プロ立ちんぼ」と呼ぶべき階層が登場した。興味深いのは、彼女たちが単なる"搾取される存在"ではないことだ。

トー横界隈にたむろする若者の中には市販薬のオーバードーズ(過剰摂取)で自暴自棄になっている女性もいるが、それとは対照的に、彼女たちのなかには自らの肉体という「市場価値」を守るため、事前にピルを服用し、徹底したリスク管理を行っている女性すらいる。

一日5万円を稼ぐ日を月に20日つくれば、それだけで月の売り上げは100万円に達する。そのうえ原価がほとんどかからないのだから、これは高収益のビジネスだ。

彼女たちは市場原理をかなり冷静に理解している。どの場所に立てば客がつくのか。どの価格帯なら需要があるのか。どんな客を避けるべきか。どのタイミングでSNSに写真を上げるべきか。そうした知識が共有され、ある種の"コミュニティ経済"が形成されているという。

人間の欲望があるところには、必ず「独自の経済秩序」が発生する。新参者が安い価格で立ち始めると、「相場を崩すな」と古参に締められる。路上には一種の「価格カルテル(協定)」が形成されている。さらに「ここは私の場所」という縄張りの感覚があり、新しく来たコは立ち位置を相談する。

この買売春の自由市場を支える買い手(男性客)側の生態系もまた、テクノロジーによって高度にプラットフォーム化している。

現場を徘徊する常連の男性客たちは「回遊おじさん」と呼ばれ、SNSのチャットなどで独自のコミュニティを形成している。そこで「今日の新顔情報」や「あの娘のサービス内容」をリアルタイムで伝え合っているのだ。

新規の女性が路上に立つと、おじさんたちのネットワークで瞬時に情報が共有され、「この娘は良かった」というレビュー(評価)が書き込まれる。すると、まるで「食べログ」で高評価がついたラーメン店に行列ができるかのように、その女性の元へ一気に客が集中する。

規制強化で未成年が地獄に落ちるという逆説

路上の現場には、13~15歳といった中学生年代を含む18 歳未満の未成年が確実に存在している。なぜ彼女たちは売春を余儀なくされ、剝き出しの路上に立つのか。その裏には複雑な家庭事情などもあるだろうが、コンプライアンス(法令遵守)の強化が招いた「未成年の排除とアングラ化」という皮肉な現象も起きている。

例えば、風俗店は未成年を雇えば即摘発リスクになるため、年齢がわかった瞬間、完全に距離を取る。その結果、未成年の少女たちは店舗型の性産業ではなく、より危険な個人売春へと流れていく。規制によって、彼女たちの「稼ぎたい」「生きるためにカネが必要だ」という需要そのものが消えるわけではない。

社会がルールを厳格化し、クリーンになればなるほど、そのシステムから排除された最も弱い存在が、より危険な個人売春の深淵へと追いやられていく。この「規制の逆説」こそが、立ちんぼ問題がはらむ最大の難問なのだ。

立ちんぼという現象は、単なる歌舞伎町のアンダーグラウンドではない。それはSNS時代の資本主義が、若い女性のエロス資本をどのように市場化しているのかを映し出す"最前線"なのだ。

【橘玲】
作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。編集者を経て、’02年に国際金融小説『マネーロンダリング』で作家デビュー。同年刊行の『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』がベストセラーとなり、以後、金融、投資、社会制度、人生設計などをテーマに幅広く執筆活動

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