「本来は50歳から55歳ぐらい。遺伝子の大部分が同じチンパンジーの寿命は50歳程度」と語る小林武彦氏
ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。生物学者の小林武彦
先生との対談の4回目です。今、日本では100歳を超える人は10万人くらいいて、まさに人生100年時代です。ということは、今後どんどん人間の寿命は延びていくのでしょうか。人生150年時代になる可能性はあるのでしょうか?
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ひろゆき(以下、ひろ)
日本では100歳を超える人が、かなり増えていますよね。でも、人類の最高齢記録は122歳のままで、120歳を超える人はほとんど出てきません。人間の寿命って、もう限界まで来ているんですか?
小林武彦(以下、小林)
多くの老化研究者は、115歳から120歳ぐらいが寿命の壁だと考えています。122歳で人類最高齢とされるフランスのジャンヌ・カルマンさんが亡くなったのは30年近く前ですが、その記録はいまだ破られていません。日本も約60年前は100歳以上の人は150人ほどでしたが、今は約10万人と急増しています。しかし、115歳を超える人はほとんどいないんです。
ひろ
つまり多くの人が寿命の上限近くまで到達できるようにはなったけど、上限に変化はないってことですね。そもそも、人間の体は何歳ぐらいまで生きる前提でつくられているんですか?
小林
本来は50歳から55歳ぐらいだったのではないかと思います。根拠のひとつは、遺伝子の大部分が同じチンパンジーの寿命は40代後半から50歳程度、長くても60歳ぐらいなんです。もうひとつは、がんです。人間は55歳前後から、がんの罹患が急に増えます。それを見ても人間の体はもともと50代ぐらいまで持てば十分という設計だった可能性があります。
ひろ
その50代仕様の体で80代まで生きられるようになったのは、医療の進歩や栄養状態、公衆衛生の改善とかなんでしょうかね。
小林
平均寿命という意味では、乳幼児死亡率が下がったことが非常に大きい。江戸時代の平均寿命は30代といわれますが、みんなが30代で死んでいたわけではありません。栄養状態が良く、感染症を避けられる環境にいた人は、当時も長生きしていました。
ひろ
徳川家康とか70歳くらいまで生きていましたよね。それでも同じ環境にいて長生きする人とそうでない人がいます。寿命には遺伝も関係してると思うんですが、どの程度影響してるんですか?
小林
以前は遺伝が4分の1、環境が4分の3といわれていました。でも、最近は半々ぐらいという研究もあります。そして、運よく遺伝にも環境にも恵まれた人でも、寿命の壁は120歳前後です。
ひろ
その大きな壁をつくっている臓器は心臓ですか?それとも脳ですか?
小林
脳だと思います。85歳ぐらいから認知症や認知機能の低下が急増し、100歳を超えて体も認知能力もしっかり保っている人は非常に少ないですから。
ひろ
心臓なら人工心臓や移植がありますけど、脳を丸ごと交換したら誰を長生きさせたのかわからなくなりますからね。
小林
脳を丸ごと交換したら元の人の寿命を延ばしたとは言いにくいですよね。脳も神経幹細胞やiPS細胞で傷んだ部分を補う研究はありますが、総取り換えはできません。しかも神経細胞は単に多ければいいわけでもない。子供の脳には非常に多くの神経回路がありますが、成長する過程で不要な回路を減らしながら効率的なネットワークを作っていくんです。年を取ると判断が速くなることがあるのは、経験によって回路が整理され、答えまでショートカットできるからです。ただし減りすぎると、目的地へ行く道そのものがなくなってしまいます。
ひろ
なるほど。では心臓は?心臓は生涯での心拍回数が決まっているとかいわれていますよね。使えば使うほど減る消耗品みたいな感じなんですかね?
小林
それは有名な仮説ですね。哺乳動物の心臓は消耗器官で、生涯の心拍数は約20億回までというものです。心拍の速いネズミも遅いゾウも生涯の総心拍数を数えると同じぐらいになるという考え方です。
ひろ
人間で20億回だと......。
小林
単純計算だと50歳前後。ただ、人間は野生動物のように毎日全速力で逃げたり獲物を追ったりしないので、心臓への負担が少ない生活をすることで20億回を大きく超えて生きられるようになったとも考えられます。
ひろ
じゃあ「長生きしたければ運動しないほうがいい」という結論になったりするんですか?
小林
いや、運動しなさすぎると筋力も心肺機能も落ちます。大切なのは適度な運動です。散歩やランニングはいいんですが、体を酷使するのは長寿という観点では必ずしも有利ではありません。
ひろ
同じ種で同じくらいの大きさの動物でも、寿命の違いが出ることはあるんですか?
小林
はい。研究室で飼うハツカネズミの寿命は2年程度ですが、同じくらいの大きさのハダカデバネズミは30年ほどです。体の大きさが近いのに寿命が10倍以上違う。これは生物の寿命が遺伝子や生存戦略によって大きく変わりうることを示しています。
ひろ
だったら、人間にもハダカデバネズミのような長寿の仕組みを入れれば、200歳まで生きられるとか?
小林
ネズミは、もともと寿命を延ばす余地が大きいんです。野生では大量に子供を産み多くが捕食されるので、長寿になること自体に進化上のメリットがあまりなかった。だから長寿に必要な機能を十分に使っていない可能性がある。一方、人間は医療や栄養、公衆衛生、社会環境を総動員してすでにかなり寿命を延ばしてきているので、伸びしろがほとんど残っていないんです。
ひろ
世の中にあふれるアンチエイジングの薬や治療で、本当に人間の寿命を延ばすと証明されたものはないんですかね?
小林
現時点ではありません。マウスなら同じ環境で飼い、片方だけに薬を与えて数年間観察できますが、人間を何十年も同じ条件に置いて、薬を飲む集団と飲まない集団を全員が亡くなるまで観察する実験は現実的にできません。
ひろ
だから「ネズミでは寿命が延びた。人間にも効くかもしれない」以上のことは言いにくい、と。
小林
そこがアンチエイジング研究の難しさです。
ひろ
となると、老化研究は何が目標なんですか?
小林
目標は200歳まで生きることではなく、100歳近くまで認知能力や身体能力を保ち、要介護にならずに生活できる期間を延ばすこと。つまり寿命そのものより、健康寿命を延ばすことです。
ひろ
長く生きても最後の10年、20年が寝たきりだったら、本人も周りの人も大変ですしね。
小林
人間の生存曲線を見ると、85歳から95歳ぐらいに多くの人が亡くなる「死のゾーン」があります。そのゾーン自体を大幅に後ろへ動かすのは難しいかもしれない。でも、そこに入る直前まで、認知能力や身体機能を保つことは目指せます。
ひろ
寿命を150歳にするより、90歳まで普通に歩いて話せるようにするほうが現実的だと。
小林
そうです。長い期間を元気に過ごして最後に急速に衰える。いわゆる「ピンピンコロリ」に近い状態です。120歳を150歳にするより、85歳から急激に始まる認知機能の低下を10年遅らせるほうが、はるかに多くの人を幸せにできます。それが、今の老化研究が目指しているところです。
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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA)
元『2ちゃんねる』管理人。著書に『脳科学が教える日本社会で賢く生き残る方法』(中野信子氏との共著、集英社)など
■小林武彦(Takehiko KOBAYASHI)
東京大学定量生命科学研究所教授。生物科学学会連合前代表。著書に『生物はなぜ死ぬのか』『なぜヒトだけが老いるのか』『なぜヒトだけが幸せになれないのか』(すべて講談社現代新書)などがある
構成/杉原光徳(ミドルマン)撮影/村上庄吾
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