日本全国にある鉄道の駅の数を、あなたはご存じでしょうか。JR・私鉄・地下鉄などを合わせると、その数はおよそ9,000駅。それだけの駅があれば、そこで働く人の数もまた膨大です。
なかでも駅ナカで独特の存在感を放つのが「駅そば」。安くて早くて、通勤・通学の合間にサッと食べられる――そんな気軽さゆえに、店員から見ると「え?」と思うような客に遭遇することも少なくないといいます。
今回ご紹介するのは、過去に大きな反響を呼んだ実録エピソードのなかから、現役の駅そば店員が体験した迷惑客の話。「冷やしそば=早い」という勘違いや、駅そばを両替機扱いする紳士、持ち込みビールを開ける猛者まで。あなたも身に覚え、ありませんか?
記事後半では、なぜ「およそ9,000駅」と“およそ”がついてしまうのか。日本の駅数にまつわる、ちょっと意外な事実もお伝えします。
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「冷やしは早い」とカン違いしてキレる客
駅そばは駅ナカという立地や値段設定による敷居の低さが魅力のひとつだ。ただ、なかにはそんな気軽さゆえに勘違いし、横暴になるお客も少なくない。現役駅そば店員である筆者がこれまで遭遇した、思わず顔を二度見してしまったお客や腹の立ったエピソードを紹介する。
ある日、男性客に冷やしたぬきそばを提供すると、いきなり「誰が冷やしなんか頼んだよ!」と叫び睨んできた。しかし、手元の食券にはたしかに「冷やし」と書かれている。お客に食券を見せ確認をしてもらうと、
「しょうがねえから、食ってやるか」
と言い放ちそばを食し始めた。
あまりの傲慢な態度に一瞬腹が立ったが、今思えば冷やしの提供スピードを勘違いしていたがゆえの態度だったかもしれない。急いでいるお客が最も多く誤解しているのが「冷やしそばは早い」だ。
冷やしはお客にとって早く食べられるのであって、提供する側にとっては実は温そばよりも倍近い時間がかかるのである。温そばにはない麺の粗熱とぬめりを取り、氷水で麺をしめる工程が入るためだ。
そのようなお客が「冷やしは早い」という先入観でざるそばなどを注文したらどうなるか。そばを半分以上残したまま食べ散らかし、電車に飛び乗っていく姿はこの時期によく見られる光景だ。
一口も食べないまま電車へ飛び乗る姿も
ただ、どんなに傲慢な態度のお客でも、提供したそばを食べてくれるだけマシかもしれない。以前、ランチタイムの注文が立て込んでいる状況のなかで中華そばの食券を出したものの、カウンターに提供されるや
一口も食べずに店を出た
お客がいた。
急いでいるそぶりを見せておいて、時間がかかるメニューを頼まれるとこちらも腹が立つ。その代表が「中華そば」だ。麺の茹で時間は、そばが5秒未満であるのに対し、中華そばは30秒以上はかかる。盛り付けるトッピングもチャーシュー、メンマ、わかめ、ネギと多いため、どんなにベテランが作っても全体で90秒はかかってしまうだろう。
そもそも、急いでいるのはそちらの都合であって店側には関係のないことだ。急ぐからにはお客にも店の状況に合った注文をしてもらいたい。
駅そば店を”両替機”として利用するお客
忙しい時間帯で最も始末に負えないのが、「空気の読めない客」だ。たとえば、両替である。
筆者が働いている店の券売機は紙幣で使えるのは千円札のみ。5千円札と1万円札を使用したいお客には、金庫から両替用の紙幣を出して対応している。繁忙時にワンオペで働いていた頃はこの対応が調理時間にかなり響いたが、両替はこちらの都合である。仕方がない。
しかし、開店間もない時間に『両替お願い』と1万円札を差し出してきたのは、白髪頭にスーツ姿の一見、会社重役風の男性だ。この紳士が1万円札を出してきたのは
筆者が対応しただけでも3回目
である。
この店の券売機が千円札しか使えないこと、繁忙時であること、ワンオペであることは知っているはず。大体、改札階に行けば駅の券売機でいくらでも両替やチャージができるのである。
「お前、3度目やぞ!」
と声には出さなかったが、両替の千円札を数える筆者の顔は死球を食らったときの清原和博のような形相をしていたように思う。ただ、上には上がいたもので、1万円札を両替したにも関わらず、食券を買わずに特急電車に乗って行ってしまったお客に接したこともある。
満席のカウンターで持ち込んだ缶ビールを「プシュッ」
このように、駅そばは敷居の低さゆえに「何やってもあり」だと勘違いしているお客の振る舞いを多く見かける。店員に隠れて口にしたのだろう、カウンターの下に駅そばでは扱っていないおにぎりの包装ビニールやアルコールの空き缶が捨てられていることなどはしょっちゅうだ。
店が満席の状況の中、外で買ってきた缶ビールを「プシュッ」と開け、飲み始めたお客もいる。「申し訳ありません、持ち込みの飲食は勘弁してもらいますか」という対応でやめてはもらえたが、このお客、その後も意に介さず来店するのには恐れ入るしかない。
<文/ボニー・アイドル>
***
■ところで、日本には駅がいくつあるのか
冒頭で少し触れた「日本の駅数」の話に戻ります。実は日本の駅数、「◯◯駅」と一言で言い切れる公式数字は存在しないのです。
国土交通省は「国土数値情報」として全国の鉄道駅データを公開していますが、そこでも駅の総数が明示されているわけではありません。民間の駅データベースでは、同一住所の駅を1駅としてカウントする方式で約9,092駅(2026年3月時点、ナビット調べ)。一方、公益財団法人国土地理協会の駅データベースでは9,159駅(2026年7月時点)と、集計主体によって数字が異なります。
なぜバラつくのか。理由は「駅の数え方」です。たとえば池袋駅は、JR東日本・東武・西武・東京メトロと4つの事業者が乗り入れているため、事業者別に数えれば4駅、住所ベースなら1駅。同じ「池袋駅」でも、数え方次第で1にも4にもなるわけです。
さらに面白いのは、同じ国土地理協会のデータでも、駅単位で数えると9,159件なのに対し、路線ごとに集計した「沿線別駅データ」だと10,412件(545路線)まで膨らむ点です(国土地理協会)。同じ提供元・同じ時点のデータですら、切り口を変えると1,200件以上も差が出る。「駅を数える」の難しさが、ここにもよく表れています。
そもそも国交省の国土数値情報にも、同じ駅を1つとみなすための「グループコード」という属性まで用意されており、300m以内にある同名の駅を一つのグループとして扱う仕組みが設けられています。国のデータですら、駅の名寄せのために特別な属性を用意しなければならない――それだけ「駅を数える」という作業は一筋縄ではいかない、ということなのでしょう。
つまり、日本の駅数は「およそ9,000〜9,200」と幅を持たせるのが正確な言い方。“国民的な”インフラのはずが、実は総数さえ確定していない――。そう考えると、駅というのは意外と奥深い空間なのかもしれません。
それだけの駅があり、それだけの数え方があり、そのそれぞれで駅そば店員のような人たちが、今日も“空気の読めない客”と向き合いながら働いている。次に駅そばに立ち寄る機会があれば、湯気の向こうにいる店員の姿にも、少しだけ思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
<再構成/日刊SPA!編集部>
【ボニー・アイドル】
ライター。体験・潜入ルポ、B級グルメ、芸能・アイドル評などを中心に手掛ける。X(旧Twitter):@bonnieidol
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