広島市で開催中のアニメーション芸術の祭典「ひろしまアニメーションシーズン2026」(HAS2026)で8月22日、イン・フォーカス・フィルムメーカー部門の「鉄コン筋クリート」(2006)が上映された。上映後はSTUDIO4℃代表取締役でプロデューサー、今回HASコンペティションで審査委員を務める田中栄子氏が、公開20周年を迎える本作の思い出を語った。
93年から94年にかけて「ビッグスピリッツ」誌で連載された松本大洋原作の人気漫画を「アニマトリックス」ほかハリウッドでVFXスペシャリストとして活躍するマイケル・アリアス監督がアニメ映画化。義理と人情の“宝町”を舞台に、縦横無尽に飛び回る2人の少年クロとシロの活躍を描く。俳優の二宮和也がクロ、蒼井優がシロの声を担当した。
本作クレジットに田中氏はエグゼクティブプロデューサーとプロデューサーという両方が記されており、一般的なプロデューサーの枠組みを超えたその具体的な役割について、まずこう説明した。
田中:「この作品は基本的に、私自身からスタートした企画です。制作進行やその後の継続的な展開はもちろんですが、本作では音響監督としても直接現場に参加しております。実はシナリオや絵コンテの発注・調整など、作品のかなりコアな部分に深く関わって作り上げました。もちろん、資金調達も私の方で担当し、自らも出資する形で参画しました」
松本大洋氏の原作との出会いや、劇場アニメーションにしたいと思ったきっかけは、「この作品が雑誌に連載された第1話を見た瞬間に、『あっ!これはうちが(映画を)作るね』とスタッフと話しまして。ではいつ作るのか?どう作るのか?というところを探していた、という形です」と振り返る。
聞き手を務めた映画祭アーティスティック・ディレクターの山村浩二氏は、「STUDIO4℃の作品といえば非常にアート性が高く、とりわけビジュアルの素晴らしさで知られていますが、ストーリーの全貌が決まる前の連載第1話の段階で映画を作ろうと決意されたのは、やはり松本さんの圧倒的な絵の力に惹かれたのでしょうか?」と問いかける。
田中氏は「そうですね。この作品の中に描かれている非常に剥き出しの暴力的な部分などは、一般的なアニメーション制作会社自体が容易に作れる作品ではないだろうという判断がありました。逆に言えば、「STUDIO4℃にしか作れないだろう」という強い自負がありました」と強い意志を持って企画に取り掛かった。
山村氏が、本編中の登場人物たちの「抑えられない暴力性も本作の魅力の一つだと感じた」と述べると、本作監督を務めたマイケル・アリアスも同意見だったそう。「マイケルが『そこが世界で通用するポイントだ』と私に強く推してきたのが、彼が最終的に監督になったきっかけでもあります」と田中氏。マイケル・アリアスは、「アニマトリックス」でプロデューサーとして田中氏と既に仕事をしており、「鉄コン筋クリート」の原作が大好きだったことから、監督起用となった。
しかし、田中氏自身はこの作品で、暴力のみをフォーカスすることはしたくなかったそう。「描きたいのはそこではなく、私たちが大切なものを無くす……つまり、クロはシロを失ったことによって、イタチという心に潜んでいる魔物が出てきて、選択ができなくなっていく、こちらを描きたいのだと。『とにかくシロとクロの話なんだ』ということでチームを集めてレクチャーをしました」と語る。
さらに、「シロが純粋さを失うことによって、人間が危険に走っていく。つまり、11歳なのに10までしか数えられないというのは、社会の中では弱くて1人では生きていけない存在。そういう存在がいることによってこの世界のバランスが取れているのに、それを無くすことによって実は戦争が起きる、その危険な思想だけが世の中に溢れてしまう……。とにかく子どもが自由に生きていくことのできる街を描きたい、というテーマに主体を置いた」と強調した。
原作者である松本大洋氏のかかわり方については、「初期のプリプロダクションというか、作品デベロップメントの時には月1回くらい会社に来て、一緒にチームと話をしてくれたんです。メンバーは非常に仲間意識も強く、松本さんとキャッチボールをさせていただいていました。ですがある時、松本さんが『素晴らしいものが出てこなければ悔しいし、素晴らしいものが出てきたら腹が立つ(笑)。もうこの作品が完成するまで来ない』とプリプロの段階で仰って……そこからは『もう自由に作ってください』ということで、信頼を得ることができ、私たちは自由に作らせていただきました」と明かす。最終的に出来上がった映画を見た松本氏は「ものすごい映画ができた」と大変喜んでいたそう。
山村氏が、美術監督の木村真二氏の仕事を称えると、「これまでのアニメーション技術をちょっと超える世界観を作られていたと思います。この作品に対しての広がりというか、どういう街(おもちゃみたいに作るのか、ものすごくリアルに作るのか、ファンタジーを入れるのか)といういろんなパターンを出して、一緒にどちらの方向で作っていくかを研究しました。木村さんは、後から『もうあれ以上の力は出せないよ』と言うくらい、1カット1カットの細かいディテールまでものすごい力を込めて描いてくれました」と振り返る。
そして、ボイスキャストを務めた、二宮和也と蒼井優ら俳優のキャスティングの話題に。
田中:「二宮さんはちょうどその頃、初めて主演映画をやられていて、その映画を見たマイケルが『彼しかいない』と言ったことからキャスティングしました。私は、蒼井優さんの幅広い演技力に惚れて『シロしかいない』と感じ、お願いしました。宮藤官九郎さんは沢田役にぴったりで、ネズミ役の田中泯さんも、ちょうどその頃映画で寡黙な役をやられていましたし、ある意味かなりこの作品の立ち位置と近い人を見つけて、丁寧に一人ひとりを見つけてオファーしていきました」
そして、「二宮さんも蒼井さんも、実は1回しっかり声を録り終わった後にどうしても(理想の)シロとクロにならなくて。ある時、最後の場面で蒼井さんが泣きながら出した声があまりにもシロだったので、『その声で行きましょう』ということで全部録り直したんです」と、驚きの逸話を明かす。
「やはり二宮さんはスターなので、最初のうちはタレント性みたいな部分が抜け切らないことがあったのですが、そこがどんどんクロに変化していって、イタチになっていく……その凄まじいドキュメンタリーは本当に皆さんにお見せしたかったくらいです。なので1発目のテイクではなく、2発目、3発目とどんどんキャラが生まれていくたびに欲が出て、何度も何度も録っていただく。そこに二宮さんも蒼井さんも応えてくれて素晴らしいものができて、最初はバラバラでしたが、最後は一緒に録っています」
公開から20年が経ち、久々に本作を再鑑賞した山村氏は、街の世界観や木村真二氏の美術に圧倒されながらも、激しい暴力性をはらんだ物語については「今日見てどう感じるかなと思っていたのですが、やはり今の時代を考えるとより響くものがあった。これが良いのか悪いのか……」と複雑な胸中を明かす場面も。
田中氏は「本当に殺人など事件が多いですしね……作っている当時は、そこまでひどいことをしている作品だと思わなかったのですが、今日見た方が痛みを感じました。山村さんが仰ったように、おそらく今の社会のリアルと少しずつリンクしつつあるのかなと思いました」と述懐する。
そして、「全く色褪せていないのが、アニメーションの力だなと思いました。車などのビークル系はすべて3Dですし、パスマップというカメラと一緒に画面が移動するシーン(冒頭シーンなども)すべて3DCGで作っているのですが、そういった技術は3Dだからと浮くわけではなく、作品を見せる方法としてしっかりと定着していて、今日見ていても誇らしかった」と、その表現力に大きな自信を見せた。
「ひろしまアニメーションシーズン 2026」は、8月23日までJMSアステールプラザ(広島市中区加古町4番17号)、横川シネマにて開催。各種チケットはオンライン(Peatix)およびJMSアステールプラザ情報交流ラウンジ窓口にて販売中。各プログラム・ワークショップの詳細は公式WEBサイト(https://animation.hiroshimafest.org)で告知している。
【作品情報】
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鉄コン筋クリート
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