『孤独のグルメ』原作者で、弁当大好きな久住昌之が「人生最後に食べたい弁当」を追い求めるグルメエッセイ。今回『孤独のファイナル弁当』として取り上げるのは「キムチ入り盛岡風冷麺!」。果たして、お味はいかに?
孤独のファイナル弁当 vol.40「酷暑にキムチ入り盛岡風冷麺!」
盛岡にはなぜか縁がなく、乗り換えでは何度となく降りている駅なのに、盛岡の街に出たことがなかった。
去年初めて盛岡の街歩きをした。予想通り、東北随一の文化都市だと思った。
ボクが「文化的」と思う街は、まずコーヒーの焙煎をやっている珈琲専門店が多い。おいしい自家製パン屋が多い。スパイスカレーを食べさせる店が多い。というあたりだ。続いて個性的な喫茶店が多い、個性的な書店が多い。だろう。居酒屋はあえてここに入れない。盛岡はその条件を全て満たしていた。楽しかった。今度は仕事抜きで行こう。
しかし名物盛岡冷麺を食べ損ねたことがちょっとだけ心残りだった。
さて東京のスーパーで見つけたのがこの「盛岡風冷麺」。盛岡「風」なのがちょっと気になるが、この猛暑によさそうだ。
仕事場で開けてみると、二重構造で、上に具の茹で卵、焼き豚、キムチ、キュウリ千切り、刻み葱がのった中皿があり、それをのけると麺と袋入りスープが入っていた。いいじゃないか。
盛岡冷麺は韓国冷麺に近いとは聞いていた。つまり麺が硬いというか噛み切りにくいあの麺だ。これはどうだろう。「風」だからあまり期待しない。
麺にスープをかけ、慎重にほぐしながら、箸から伝わってくる感触で「お、なかなかコシが強いぞ」と思い、それからその麺に具材を並べてのせていった。
キュウリが少ない。ケチりやがったな。お、キムチに隠れてナムル的なモヤシがあるぞ。これはキムチの水増しか、おいしさのカギか? 焼き豚はやけに細かく切ってあるが、なぜ? 卵はやけに白身が薄いけど、これちゃんと鶏の卵だろうな?
などといちいち余計な一言を入れるのが楽しい。これも孤独弁当の楽しみだ。
さあ、いただこう。今日の昼は麺弁当だ。
ズルズルズルッ。
お、悪くない。やはり麺は韓国冷麺のようには硬くない。コシはあるけど。でもそこがボクにはいい。するすると食べられる。
そしてやっぱりキムチがいい。キムチ強い。この暑さにキムチが嬉しい。からだが喜んでいる。元気が出るような気がする。
キムチのおかげで盛岡風冷麺の「風」がどこかに吹っ飛んでしまったようだ。ふうだからどうだというのだ。
茹で卵をちょいと齧る。うん。大丈夫。変な味はしない。鶏卵で合ってるでしょう。細切れ焼き豚もまぁまぁウマイ。効果的、というほどではないが、肉があるのは何か心強い。やっぱり酷暑のせいか。肉食って元気出せ、という動物の原点的な。
にしてもキュウリはやっぱり少ない。冷やし麺にキュウリは大切だ。必須と言ってもいい。冷やし中華に入ってなかったら怒る。冷やしたぬきにも絶対欲しい。
とか文句を言いつつ最後までおいしく食べられた。元気出た。さあ、仕事するぞ。
【久住昌之】
1958年、東京都出身。漫画家・音楽家。代表作に『孤独のグルメ』(作画・谷口ジロー)、『花のズボラ飯』(作画・水沢悦子)など。Xアカウント:@qusumi
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