甲子園の誹謗中傷対策に潜む矛盾。「怪物」「○○王子」と高校生を“スター化”する大人たちの責任<ジャーナリスト・森田浩之>

写真/産経新聞社

甲子園の誹謗中傷対策に潜む矛盾。「怪物」「○○王子」と高校生を“スター化”する大人たちの責任<ジャーナリスト・森田浩之>

8月19日(水) 8:52

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8月22日に閉幕する全国高等学校野球選手権大会では、日本高校野球連盟と朝日新聞社により、インターネット上の誹謗中傷を把握するモニタリングが初めて実施された。対象はXやヤフーニュースのコメント欄。投稿が確認された場合、プラットフォームへの削除要請が行われた。

ジャーナリストの森田浩之氏は、選手への誹謗中傷対策は必要だとしたうえで、甲子園を巨大な人気コンテンツに仕立て、高校生をスターとして消費してきた主催者やメディア側にも責任があるとみる(以下、森田氏による寄稿)。

10代の高校生にプロ並みの注目

甲子園で続いた熱戦の裏側で、もう一つの戦いが繰り広げられていた。舞台はグラウンドではなく、SNSだ。

今大会では、選手や審判に対するネット上の誹謗中傷について、投稿の削除要請などの対策が実施されている。すでに今春のセンバツで、一足早く本格的なモニタリングを導入。AIを活用したシステムでネットを24時間監視したところ、13日間の大会期間中に問題のある投稿が1096件見つかり、そのうち713件について削除を要請した。出場校や選手を「ザコ」「カス」などとする「侮辱型」が7割以上を占めたという。

いまやSNSでの誹謗中傷は、ほとんどのスポーツで問題になっている。だが高校野球には、ほかの競技とは少し違う問題がある。

甲子園でプレーするのは、まだ10代の高校生だ。それなのに、プロ選手にも負けない注目を浴びる。

テレビは選手の表情をアップで映し、新聞は彼らの一言一言を伝える。「怪物」「○○王子」といった呼び名が生まれ、家族や生い立ちまでが物語になる。甲子園が巨大な人気イベントになったのは、メディアが高校生をただの部活動の選手としてではなく、ドラマの主人公として見せてきたからだ。

問われる“高校生のスター化”

ここに、甲子園が長年抱えてきた矛盾がある。

日本高野連は高校野球を、学校教育の一環と位置づけている。選手はあくまで生徒であり、勝利や興行を第一とするプロとは違うという。ところが大会が始まれば、試合は全国中継され、物語がつくられ、スターが製造され、全国的な注目を集める。

テレビと新聞だけの時代には、この矛盾はさほど表面化しなかった。だがSNSの普及によって、観客までが選手を評価し、物語る側に回った。

もちろん、「ザコ」「カス」などと書き込むことは決して正当化されない。さらにここで押さえておきたいのは、甲子園を人気コンテンツに仕立て上げたのは主催者とメディアだということだ。高校生への過剰な注目を生産するシステムをつくっておきながら、その結果としてネット上に噴き出した悪意だけを取り除こうというのでは、問題の半分しか見ていない。

甲子園が高校生をスターにする装置であり続ける以上、SNSでの誹謗中傷をその装置の外側で起きた問題と片付けることはできない。高校生を誹謗中傷から守りたいのなら、まず大人の側が、彼らをどこまでスターとして消費していいのかを考えるべき時だ。

<文/森田浩之>

【森田浩之】
もりたひろゆき●ジャーナリストNHK記者、ニューズウィーク日本版副編集長を経て、ロンドンの大学院でメディア学修士を取得。帰国後にフリーランスとなり、スポーツ、メディアなどを中心テーマとして執筆している。著書に『スポーツニュースは恐い』『メディアスポーツ解体』など

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