フランチャイズ作品や既存IPをもとにした大作がスクリーンを席巻するなか、まったく新しい物語と世界観を携えたスペクタクル映画が、この夏ハリウッドからやってきた。8月14日に日米同時公開された「オークストリートの異変」は、ごく平凡な郊外の住宅街に突如として恐竜が出現するという奇想天外な設定から始まるアドベンチャー・スリラーだ。
監督・脚本を手がけるのは、「イット・フォローズ」(2014)や「アンダー・ザ・シルバーレイク」(2018)で唯一無二の世界を築いてきたデビッド・ロバート・ミッチェル。本作はミッチェル監督の頭にふと浮かんだ――日常の風景に恐竜が現れたら――というアイデアから生まれた完全オリジナルの物語なのだという。自身初となる全世代に開かれた大作映画ながら、そこには日常が得体の知れない何かに侵食されていくという、ミッチェル監督らしい作家性もしっかりと息づいている。
製作には、「クローバーフィールド HAKAISHA」(2008)や「SUPER 8 スーパーエイト」(2011)など数々の話題作を世に送り出してきたJ・J・エイブラムスが参加。アン・ハサウェイとユアン・マクレガー演じる“普通の夫婦”を中心に、平穏な郊外の日常が恐竜の出現によって一変していくさまを、壮大なスケールで描き出した。
彼らは突飛な設定にいかに恐怖とリアリティを与えたのか。そしてミッチェル監督ならではの作家性を、全世代に向けた大作映画の中でどう息づかせたのか。ミッチェル監督とエイブラムスに話を聞いた。(取材・文/ISO)
【「オークストリートの異変」あらすじ】
プラット家の4人家族は、平和な町オークストリートで普通の毎日を過ごしていた。しかしある日を境に町で不思議な現象が起こりはじめ、住人が街から出られなくなってしまう。やがて、不穏な空気が町を覆うなか、絶滅したはずの恐竜が次々と現れ、住民たちを容赦なく襲いはじめる。プラット家の家族は手近な武器を手に取り、さまざまな恐竜の脅威をくぐり抜けて町から脱出するべく奔走するが……。
●郊外というあり得ない場所で恐竜をどう見せるか
――恐竜が姿を現す中盤以降はもちろん、恐竜そのものは見えないながらも、物音や気配、登場人物の反応を通してその存在を感じさせる序盤の演出も楽しく拝見しました。特に、柵の向こうで洗濯物などが次々と倒れていく場面は、姿が見えないからこそ非常にワクワクしました。ただ一方で、恐竜が平穏な郊外の住宅街に現れるという突飛な設定は、一歩間違えれば滑稽にもなりかねません。そこに恐怖と説得力を持たせるため、恐竜を「いつ見せ、いつ見せないか」、そして「どう見せるか」は、どのように設計したのでしょうか。
デビッド・ロバート・ミッチェル監督(以下、ミッチェル監督):恐怖と説得力を持たせるためにまず重要なのは、観客がキャラクターに共感し、つながりを感じられるようにすることでした。そのため、まずは主人公一家の日常を時間をかけて描くことで、彼らを取り巻く状況を自分事のように捉えてもらえるよう意識しています。冒頭からしっかりとファミリードラマが展開されていくので驚くかもしれませんが、それには明確な狙いがありました。
私がストーリーを作るうえで何より楽しいのは、徐々に盛り上げていく部分です。伏線を張りながら、どのように物語を構築していくかを考えるのがすごく好きなんです。今回も、パンくずを落とすように恐怖の気配を少しずつ散りばめていくことを意識しました。観客が物語の向かう方向をある程度わかっていたとしても、楽しめるように作っています。
家族のそれぞれがいろんなものを目撃していきますが、観客も彼らを通してそれを疑似体験することになります。尻尾がブランコを横切って霧の中へ消えていく様子や、何かの影がガラスに映る様子などを少しずつ散りばめながら緊張感を高め、それをちょうどいいところまで引っ張っていく。こういうことを考えるのはすごく楽しいんです。なので脚本の段階から細かく書き込んでいますし、それを撮影でどう映し出すか、編集でどのタイミングで見せるかということもすごく意識しています。
J・J・エイブラムス(以下、エイブラムス):ともすれば滑稽に映るかもしれませんが、まさにそこが狙いでもありました。郊外というごく日常的な空間に、突然恐竜が現れる。そのコントラスト、あり得なさを描きたかったんです。
ミッチェル監督:演出面では、スローパンやスローズームなど、この手のジャンルではあまり見かけないようなカメラワークも意識して取り入れています。たとえば画面の手前では一家が慌ただしく準備をしている一方で、その奥では別のキャラクターが逃げ回っている。そうしたことが同時に起きているようなリアリティを大切にしました。今回は実際のアメリカ郊外でロケ撮影をしているので、そこに恐竜が現れたときにも、現実の空間に存在しているような手触りを感じられる画作りを心がけています。そうすることで、この突飛な光景にも信憑性を持たせられると考えました。
エイブラムス:たしかにロケーションはとても重要でした。今回はブルースクリーンの前ではなく、実際のアメリカ郊外で撮影しています。それだけでも映像にはすでにリアリティが生まれる。VFXによって現実には存在しないものを加えなければならない映画では、実際のロケーションで撮影できた時点で戦いの半分は終わったようなものなんです。
―――恐竜の造形についても、本作は「ジュラシック・パーク」(1990)が世界中に定着させた恐竜像を更新するもののように感じました。近年の科学的知見を取り入れながら、羽毛を思わせる特徴など、観客が長年親しんできたイメージとは異なる姿で描かれています。そうした恐竜像を大きく変えることにはリスクもあったと思いますが、それでも今回の造形を選んだ決め手は何だったのでしょうか。
エイブラムス:これが科学的に完全に正確かと言われると、少し危ういところもあります。ただ、骨格についてはわかっていることがあるので、そうした知見を土台にした造形にはなっています。
ミッチェル監督:あくまで、現在科学的に明らかになっていることからインスピレーションを受けた造形です。現在の科学的知見を取り入れている部分もあれば、そこから自由に翻案している部分もある。この映画ならではの恐竜を作りたいと考えました。これから数年、数十年と経てば、恐竜についてまた新しいことが科学的に明らかになり、今回とはまったく違う姿の恐竜が映画に登場するかもしれません。創作というのは、そうやって新しい発見や解釈を取り込みながら変わっていくものだと思っています。
●監督の作家性と全世代向け大作の両立
――「イット・フォローズ」などで描いてきた、平穏な日常が何かに侵食されていく恐怖は本作にも通じています。背景から脅威が忍び寄る場面や、観客の想像を上回るショッキングな展開にも、ミッチェル監督らしいホラー演出を感じました。一方で、本作はこれまで以上に大規模で、ファミリー層を含む幅広い観客に向けた娯楽映画でもあります。そうしたミッチェル監督ならではの持ち味と、幅広い観客が楽しめるエンターテインメント性を両立させるうえで、お二人は何を大切にしましたか。
エイブラムス:プロデューサーとしてはそれほどやることがなくて、とても楽でした(笑)。デビッドがどのような作品にしたいのか、そのビジョンが脚本の段階からはっきりしていたからです。幅広い観客に向けた映画にしたいということも明確でした。当初は、もう少しR指定寄りの作品になるのかなという印象もありましたが、この映画をどう位置づけていくか話し合う中で、「ポルターガイスト」(1982)がインスピレーションのひとつだったことなども踏まえながら、方向性を固めていきました。
スリルも恐怖もありますが、同時に、しっかりと観客の心をつかむ物語でもある。だから幅広い世代が楽しめる映画にできるということが、だんだん明確になっていきました。最終的には、恐怖も楽しさもあり、愛らしさも奇妙さも、喜びに満ちた瞬間もある。とてもバランスの取れた作品になったと思います。
ミッチェル監督:私もこの映画のそういうところがとても気に入っています。ハラハラドキドキして、ワクワクして、ところどころ笑える一方で、ものすごく怖くもある。大人がそうやって楽しめる作品でありながら、子どもたちもとても気に入ってくれていると実際に観た人からも聞きました。少し怖がりながらも、物語にすっかりのめり込んで楽しんでいたそうです。もともと幅広い観客に向けた作品を作りたいと思っていたので、世代を超えて楽しんでもらえる映画になったことは、とてもうれしいですね。それこそが最初から狙っていたことなので。
――最後に、もしお二人がこの住宅街の住人のように恐竜の時代に行ってしまったら、どちらの方が長く生き延びられると思いますか。
ミッチェル監督:たぶん私はすぐ死ぬでしょうね(笑)とりあえずすぐに隠れて、そのままずっと隠れているんじゃないかな。
エイブラムス:きっとすぐにお酒に手を出す。それでデビッドに「俺を殺してくれ」とお願いすると思います(笑)
【作品情報】
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オークストリートの異変
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