映画.comスタッフが訪れた日本&世界各地の映画館や上映施設を紹介する「世界の映画館めぐり」。今回は群馬県高崎市の映画館、高崎電気館を訪問しました。
▼1913年創業、歴史を感じる高崎電気館で夏の特集上映
上越・北陸新幹線が停車し、都心からのアクセスもよい高崎駅から徒歩20分弱。1913年(大正2年)創業の同館は、レトロな建物が味わい深い歴史ある映画館です。フランスを代表する大女優、カトリーヌ・ドヌーブ主演、高崎を中心とする日本ロケで話題を集めた2025年公開の「SPIRIT WORLD スピリットワールド」(エリック・クー監督)でも撮影が行われました。
公式HPによると、高崎電気館は大正2年に高崎市で初めて開館した常設映画館で、2001年(平成13年)に休館して長らく上映を行っていませんでした。しかし2014年(平成26年)、所有者から高崎市が寄付を受け、同年10月3日、まちなかの活動拠点および新たな文化活動拠点「高崎市地域活性化センター」として生まれ変わったとのこと。歴史的な施設を新たな世代が受け継ぎ再生するとは、素敵なことですね。
客席は256席。レトロな雰囲気が味わい深いホワイエには、かつて使用されていた映写機や、劇場を訪れた映画監督・俳優らのサイン、上映作品に関するミニ展示コーナーがあります。同じ建物の1階には「高崎フィルム・コミッション撮影協力作品展示室」があり、高崎で撮影された映画のメイキング風景やスチル、ポスター、俳優のサインなどを見学できます(※開館時間は要確認)。
同館は2016年から毎夏、終戦記念日前後に戦争に関する作品を紹介する特集上映を行っており、今年は「終戦、81年目の夏。」と題した特集が8月1日から16日まで開催されています。今年のラインナップは、「激動の昭和史 沖縄決戦」(1971/岡本喜八監督)、「二つの祖国で日系陸軍情報部」(2012/すずきじゅんいち監督)、「黒川の女たち」(2025/松原文枝監督)、「嗚呼満蒙開拓団」(2008/羽田澄子監督)、「葛根廟事件の証言」(2017、2019/田上龍一監督)、「野火」(2014/塚本晋也監督)、「東京裁判」(1983/小林正樹監督)の7作品です。
筆者が高崎を訪れたのは、8月9日。1945年の長崎に原子爆弾が投下された日でもあります。この日、筆者は太平洋戦争下の日系2世たちに迫ったドキュメンタリー「二つの祖国で日系陸軍情報部」を鑑賞しました。米国陸軍の秘密情報機関「MIS(ミリタリーインテリジェンスサービス)」の中心メンバーだった、米国籍を持つ日系2世の元兵士たちの証言集です。元兵士たちが、日米両国での差別や、祖国への思いを浮き彫りにする本作、明治時代の日本人によるハワイ移民の歴史から、大戦中に日系人が敵性外国人として収容所に移送されたこと、また沖縄出身の2世が上陸作戦に関与しなければならなかった苦悩など、学校ではほとんど教わらなかった歴史を知り、言葉を失いました。国籍が異なるだけで、日本という同じルーツを持つ兵士とも殺し合いをしなければならない――それはどんなにつらいことだったでしょうか。
同館ではフィルム上映を行っており、支配人の飯塚元伸さんに映写室を見せていただきました。この日の「激動の昭和史 沖縄決戦」は35mmフィルム上映でした。上映前に、普段なかなか見ることのできない映写室から客席やスクリーンを眺めると、この映画館と、ここで様々な映画を見にきた高崎の人々の歴史を感じ、胸が熱くなりました。ホワイエではパンフレットなどの物販もあり、カトリーヌ・ドヌーブがそのデザインを気に入って、フランスに持ち帰ったという高崎電気館オリジナルのTシャツも販売中です。
劇場スタッフさんからは、「SPIRIT WORLD スピリットワールド」撮影時のエピソードもうかがうことができました。やはり、大女優ドヌーブは格別なオーラを放っていたそう。ご興味がある方は、ドヌーブさんと竹野内豊さんが実際に座った客席を案内してもらえます。そういえば「SPIRIT WORLD スピリットワールド」もお盆にまつわる話でしたが、本当にとても良いタイミングで、この高崎電気館と特集上映を通して、日本の文化と歴史を改めて体感し学ぶことができました。
時節柄、過去の戦争を考えるとしんみりした気持ちになりますが、この夏、高崎電気館では「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」などのエンタメ作や、9月には昨年の大ヒット作「国宝」と「国宝」にまつわる特集上映が予定されていますし、筆者のように旅の目的地のひとつとして訪れる人は、劇場すぐの昭和を感じるアーケード散策や、街中ではパスタ店やホルモン焼きなど高崎名物のグルメも楽しむことができます。
▼高崎芸術劇場で世界レベルのジャズコンサートを鑑賞
じつは今回の筆者の高崎訪問には、もうひとつ目的がありました。坂本龍一さんの「戦場のメリークリスマス」サウンドトラックや、ヴィム・ヴェンダース監督作品のBlu-ray BOXの音声マスタリングなどを手掛けた音響エンジニアのオノ セイゲンさんにお声がけいただき、音楽ライターさんたちとともに高崎芸術劇場で、ジャズ・オーケストラの最高峰「MARIA SCHNEIDER ORCHESTRA」を聴くというプランです。高崎芸術劇場は、群馬交響楽団を擁する“音楽のある街高崎”を象徴する施設で、また高崎電気館、シネマテークたかさき、とともに映画ファンにその名を知られる高崎映画祭の会場にもなっています。そう、高崎は文化芸術への取り組みに非常に力を入れている街なのです。
この「MARIA SCHNEIDER ORCHESTRA」公演は、老舗ジャズクラブのブルーノート東京では連日ソールドアウトだったそう。こちらの高崎芸術劇場は、クラシックコンサートも行われる素晴らしい設備のホールです。ライブハウスとはまた一味違った音響環境で、世界レベルの演奏を聴ける高崎の皆さんはラッキーですね。現代の米国を代表する音楽家の一人であるマリア・シュナイダーによる、宇宙や自然環境などもテーマとした繊細かつダイナミックな楽曲、そして端正な演奏にうっとりと浸りました。マリアさんは「日本は世界屈指のジャズファン層を抱える国です」と、この日集まった多くの観客に感謝と尊敬の気持ちを述べていました。当たり前のことですが、音楽や映画をはじめとした、素晴らしい文化、芸術に国籍や国境は関係ないですね。
個人的な話ではありますが、40年近く前に他界した筆者の父方の祖父は、太平洋戦争後期に南方戦線へ送られ、脚を負傷したことから帰国。終戦後すぐ筆者の父が生まれました。そんな経緯で生まれた筆者の父はもうすぐ80歳、もうだいぶ高齢者ですが戦争を知らない世代です。大学時代から勉強そっちのけで、学生運動ではなくジャズに傾倒し、1980年代まで野良演奏家としてバンドを率いて日銭を稼いでいました。戦中を生き延び、戦後も苦労して育てた一人息子が就職もせず、かつて敵国だったアメリカの音楽にのめり込む姿を見ていた当時の祖父母の気持ちは、いかばかりだったのか……と、想像せずにはいられません。しかし、戦争が終わり、日本が平和であったからこそ生まれた、これもまた家族史の一ページなのだなあと。この高崎訪問後、改めてそんなことを思いました。
お盆休みに帰省や旅行の予定がない方は、高崎電気館で映画を観て、高崎芸術劇場でコンサートを聴き、平和な日常に感謝する……そんな夏休みの1日を過ごすのもよいかもしれません。首都圏在住でしたら日帰りでも存分に楽しめますし、宿泊して榛名湖など有名な観光スポットまで足を延ばしてみるのもおすすめです。
■高崎電気館
https://takasaki-denkikan.jp/
■高崎芸術劇場
https://www.takasaki-foundation.or.jp/theatre/index.php
【作品情報】
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SPIRIT WORLD スピリットワールド
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