MLB「フィールド・オブ・ドリームス」が4年ぶり復活…18歳だった筆者が“見知らぬ男性の車”で夢の球場へ向かったワケ

MLB公式Xアカウントより引用

MLB「フィールド・オブ・ドリームス」が4年ぶり復活…18歳だった筆者が“見知らぬ男性の車”で夢の球場へ向かったワケ

8月13日(木) 15:43

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現地時間8月13日、米アイオワ州ダイアーズビルにメジャーリーグが帰ってくる。映画『フィールド・オブ・ドリームス』のロケ地に隣接する球場で、ツインズとフィリーズが対戦する。2022年以来4年ぶり、3回目となる 「MLB at Field of Dreams」 だ。

映画公開から37年。トウモロコシ畑に造られた“夢の球場”は、なぜ今も人を引きつけるのか。

This view 😍

Phillies vs. Twins at The Field of Dreams is just 9 days away! pic.twitter.com/edTLsb3Pwp— MLB (@MLB) August 4, 2026

私自身も31年前、18歳の夏にこの場所を訪れたことがある。しかも、日本から来た高校球児と間違えられ、見ず知らずの男性の車で“夢の球場”へ向かうという、今振り返ると少し信じがたい経験をした。そのエピソードは後ほど触れるが、まずは今週行われる一戦について解説していく。

公開から37年を経ても色あせない「夢の球場」の物語

今年は新たに整備された常設球場で試合が行われ、Netflixが世界独占配信する。試合前には25人を超える野球殿堂入り選手も集まる予定だ。その前に、なぜこの場所がこれほど特別なのかを紹介しておきたい。

映画『フィールド・オブ・ドリームス』は1989年にアメリカで公開された。アイオワで農場を営む主人公レイ・キンセラが、不思議な声に導かれてトウモロコシ畑を切り開き、野球場を造る。やがて、そこに過去の名選手たちが姿を現す。

この作品が長く愛されてきた理由は、単なる野球映画だからではない。物語の奥にあるのは、過ぎ去った時間、家族への思い、やり直すことのできない人生への後悔だ。終盤の父と子のキャッチボールは、それらを野球という極めてシンプルな行為に重ねている。

映画は1990年のアカデミー賞で作品賞を含む3部門にノミネートされ、2017年には文化的、歴史的に重要な作品として、米国議会図書館の映画保存対象にも選ばれた。公開から30年以上を経ても、野球ファンだけの思い出にとどまらない名作である。

映画のセットを超え、世代をつなぐ場所へ

さらに特別なのは、スクリーンの中の球場が現実世界にも残ったことだ。撮影のためにアイオワの農地に造られたダイヤモンドは、撮影後もその姿を残し、現在まで受け継がれてきた。ファンは実際にそこへ行き、グラウンドを歩き、ベンチに座り、キャッチボールもできる。かつてスクリーンで見たその場所に立つことができるのだ。

映画を見た世代が、自分の子供を連れてキャッチボールをすることもできる。作品が描いた「父と子」や、野球が世代をつなぐ感覚を、自分たちの時間として重ねることもできる。その点で、単なる映画のロケ地とはかなり違うことがわかるだろう。

トウモロコシ畑に本物のメジャーリーグがやって来た日

その“映画の球場”の隣に、本物のメジャーリーグがやって来たのが2021年だった。映画で使われたダイヤモンドから約400m離れた場所に、試合を行うための仮設球場が造られ、ホワイトソックスとヤンキースが対戦。アイオワ州で初めて行われたMLB公式戦は、9回に試合がひっくり返る劇的なサヨナラ決着となった。

この初開催では、選手たちがトウモロコシ畑の中から姿を現した。映画の世界に現実のメジャーリーガーが入り込むような演出で、試合そのものだけでなく「この場所でやる意味」まで強く印象づけた。映画の記憶を再現するだけでなく、本物の試合が新しい記憶を生む。その循環が、この場所を過去のセットで終わらせていない。

翌2022年にも公式戦が行われ、今年4年ぶりに復活する。今回は従来の仮設ではなく、新たに整備された常設球場で行われる最初のMLB公式戦になる。映画のダイヤモンドと常設球場は別々に存在し、来場者はトウモロコシ畑を抜ける道を通って両者を行き来する。

映画を愛した人にとって、そこはロケ地を見るだけの観光スポットではない。スクリーンの中にあったダイヤモンドを実際に歩き、同じ場所でボールを投げる。懐かしい映画の世界に入り込み、自分や家族の新しい思い出までつくれることが、アイオワの田舎町まで人を引きつける大きな理由なのだろう。

2026年は、新たな常設球場でMLB公式戦が行われ、その模様が世界へ配信される。映画の記憶を受け継ぐ舞台は、一度きりの特別イベントではなく、次の世代へ新しい物語を届ける場所にもなろうとしているのだ。映画をリアルタイムで知らない世代に、この場所の物語を届け直す機会にもなるだろう。

31年前、18歳の私がたった一人で“夢の球場”を目指した理由

そして、31年前の私もその場所を訪れた一人だ。

高校時代、『フィールド・オブ・ドリームス』にはまった私は、英語音声をカセットテープに録音して何百回も聴き、全セリフが載った解説本で聞き取れない言葉や表現を確かめた。好きな映画であると同時に、英語の教材でもあった。

高校卒業後の1995年3月、語学留学でオレゴン州へ渡った。秋からイリノイ州の学校へ移る手続きを8月に済ませ、そのまま一人旅に出た。荷物はリュックひとつ。最初の目的地はフィールド・オブ・ドリームスだった。

長距離バスでダイアーズビルの町には辿り着いたが、バス停から球場までの行き方は調べていなかった。インターネットがまだ一般に普及する前。歩くか、ヒッチハイクでもすればいい。18歳の私は、その程度に考えていた。

バス停を兼ねたコンビニで、球場への道のりを聞こうと店員に近づいた。すると店員は私を見るなり、驚いたような様子を見せたが、その時は理由が分からなかった。

私は「フィールド・オブ・ドリームスへ行きたい。ここからどうすれば行ける?」と尋ねた。すると店員は少し慌てた様子で、「ちょっと待ってろ!今すぐ迎えが来るから」というようなことを言った。

迎え……?私は球場への行き方を尋ねただけである。

まさかの勘違いから見知らぬ男性の車へ

事情がのみ込めないまま待っていると、本当に一人の男性が車で現れた。

見ず知らずの男性の車に乗るのは、正直少し怖かった。誘拐でもされたらどうしよう、という不安もよぎった。それでも球場を諦めきれず、乗り込んだ。

タクシーでもない車がなぜ私を運んでくれるのか――。走り出して話しているうちに、どうも会話が噛み合わない。男性の口からは野球の試合の話が出るのに、こちらには何のことかわからなかった。

渡米してまだ5か月足らずで、英語も拙かった。最初は私が聞き取れていないだけだと思ったが、それだけではない気がした。

「この人、私を誰かと勘違いしていないか!」

やがて事情がつながった。男性は私を、その日この町を訪れていた山梨県の高校野球選抜チームの一員だと思っていたのである。

山梨県とアイオワ州は姉妹州県で、当時は高校野球でも交流が続いていた。その日は偶然、山梨県のチームが町を訪れており、別の球場で交流試合をするという。

今思えば、コンビニの店員も事情を知っていたのだろう。日本から来た高校生なら全員、試合会場にいるはずなのに、同じ年頃の日本人が一人で現れた。「選手が取り残されている」と思い、慌てて関係者を呼んだのかもしれない。

人違いだとわかった時は、かなり気まずかった。それでも男性は、そのままフィールド・オブ・ドリームスまで連れていってくれた。

映画で何度も見たダイヤモンドで過ごした“わずかな時間”

映画で何度も見たダイヤモンドが、本当に目の前にあった。30年以上前のことだから、その瞬間に何を感じたかは、正直思い出せない。ただ、球場を歩き回り、ベンチに腰掛けたことは今も記憶に残っている。

男性をいつまでも待たせるわけにはいかず、滞在は30分足らずだったと思う。いや、10分ほどだったかもしれない。その後、彼は車で交流試合が行われている球場へ私を運んでくれた。到着するとすでにプレーが始まっていた。

ひとまずバックネット裏に腰を掛けると、山梨からの新聞記者と遭遇。試合を見に来ていた一人の日本人女性を紹介してもらった。アメリカ人の夫がリタイアしたのを機に、彼の故郷ダイアーズビルへ移ってきた日本人女性だった。

彼女は「この町で外国人は自分だけだ」と話した。本当に一人かはわからないが、日本人の私と出会えたことをとても喜んでくれた姿は覚えている。

人違いから始まった“夢の球場”での忘れられない一日

女性は試合後、近くのレストランで夕食をご馳走してくれ、宿すら予約していなかった私を町のモーテルまで送ってくれた。

歩くかヒッチハイクでもしようと思っていたのに、ふたを開けてみれば、人違いをきっかけに“夢の球場”から交流試合、夕食、モーテルまでつながったのである。

その日はほとんど歩いていない。タクシー代どころか、町での移動費は一切かからなかった。

何とも都合のいい人違いだったのだ。

あれから31年。今では、あの場所を舞台にしたメジャーリーグの公式戦を、世界中の人がNetflixを通して見る時代になった。

あの日、日本から来た高校球児に間違えられなければ、私が覚えているフィールド・オブ・ドリームスの一日は、まったく違うものになっていたのかもしれない。

文/八木遊(やぎ・ゆう)

【八木遊】
1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。現在は、MLBを中心とした野球記事、および競馬情報サイトにて競馬記事を執筆中。

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